デッカーズ アウトドア コーポレーション(DECKERS OUTDOOR CORP.)傘下の「アグ(UGG)」は最近、ダイバーシティー(多様性)に富んだインフルエンサーを広告ビジュアルに起用するなどして、年齢や性差、スタイル、バックグラウンドにとらわれない人々や自己表現をサポートしている。特に広告ビジュアルは、数年前までの“西海岸セレブ”なムードから一変。今シーズンは、モデルであり母親だが、かつてはドラッグ中毒に苦しんだスリック・ウッズ(Slick Woods)とその息子など、支え合い、高め合い、インスピレーションを与え合う、さまざまな世代の二人にフォーカスした。
キャンペーンを発表したロサンゼルスのイベント会場で、ブランドプレジデントのアンドレア・オドネル(Andrea O'Donnell)にコミュニケーション刷新の理由を聞いた。
WWD:かつての“西海岸セレブ”なキャンペーンを一新した理由は?
アンドレア:繰り返しはイヤだったし、私がトップに就任した時、「アグ」に必要なのはエキサイトメントだった。正直、カリフォルニアのライフスタイルというイメージに依存しすぎていたと思う。もちろん、カリフォルニアのイメージを打ち出すことには、意味があったのよ。私たちはカリフォルニア生まれのブランドだし、オフィスは今もロサンゼルスに構えているから。そんな時、社会全体でダイバーシティー(多様性)が重要な価値観として台頭し始めて、ブランドコミュニケーションも一方的な発信から消費者との対話型に進化し始めた。そこで、「大きなマーケットを抱える『アグ』こそ、ダイバーシティーなブランドだわ!!」って再認識したの。だって、マドンナ(Madonna)さえ「アグ」の愛用者なのよ(笑)!!「モデルには、世界中の『アグ』ユーザーを代弁する人々を起用したい」。そう考えて3年前、“西海岸セレブ”な広告をやめたの。
WWD:新たな方向性のコミュニケーションで一番気を使っているのは?
アンドレア:「アグ」は世界的なブランドではあるけれど、残念ながらそうそうたるラグジュアリーブランドのように莫大な予算は持っていない(笑)。そこで、本当にユニークな人たちを見つけて、彼女たちの本質やストーリーに迫ることで“ヒーロー”にすることを目指したの。一番気を使ったのは、彼女たちを「今っぽい、面白い人たち」と持ち上げたのに、次のシーズンには無視するような“ポイ捨て”をしないこと。特に困難な過去を乗り越えてきた人たちと仕事をするには、心から信頼し合うことが大事。
WWD:かつてはドラッグ中毒に苦しんだスリック・ウッドのように、辛い過去を持つ人物を広告塔として起用するのは、勇気がいることだ。
アンドレア:面白い質問だわ。でも、結果的にその勇気は広告ビジュアルに必要で、「アグ」らしくもあるセンセーションをかき立てたと思う。「アグ」のブーツはクラシックだけれどセンセーショナルでもあるから、今まで生き残ってこれた。だって数年前に大ブームになった時さえ、セレブリティーのパパラッチっていう、これ以上ないくらいセンセーショナルな露出がきっかけだったでしょう?「アグ」はリスクを恐れないの。失うものは、何もないわ。
WWD:新キャンペーンの反響は?
アンドレア:もちろんキャンペーン自体は賛否両論だったし、以降のビジネスだって調子が良いときも悪いときもある。でも確かなのは、人々が「アグ」をリアルだと思い始めてくれたこと。セレブに依存しすぎた時は、虚構のイメージを退屈に感じたり、不信感を抱かせてしまったりしていたのかもしれない。そのイメージは、払拭されたと思う。
WWD:今回、親子や兄弟などカップルにフォーカスしたのは?
アンドレア:当初は別に想定していなかったの。でも今回はユニークな人たちにアプローチしたら、本人はもちろん彼女たちをサポートしている人々も魅力的だって気づいたの。新しい「アグ」のキャンペーンは、「みんなの生き方を祝福すること」。だったら、アンバサダーを支える仲間も、一緒に祝福すればいいと考えた。みんな、家族や仲間の幸せを願っているし、彼らが何かを達成したらお祝いするでしょう?それと同じ。皆で“「アグ」ファミリー”をお祝いしたかった。
WWD:広告キャンペーン同様、今はさまざまなブランドともコラボレーションしている。
アンドレア:さまざまなコラボレーションの狙いは、私たちのクリエイティビティーをファッションの世界に知らしめるため。だからニューヨークやミラノ、ロンドン、パリで活躍しているデザイナーを選んで、彼らにクリエイションの自由を提供し、新しいプロダクトを生み出してもらっている。ビジネス的に言えば、「アグ」におけるメンズビジネスはまだまだ小さい。だからストリートマインドを持っている「ヘロン プレストン(HERON PRESTON)」や「ホワイトマウンテニアリング(WHITE MOUNTAINEERING)」「マスター・マインド(MASTER MIND)」にアプローチしたの。クラシックブーツを再解釈してもらうことは、社内のデザインチームを盛り上げる上でも役立った。正直に言えば、「アグ」が属しているコンテンポラリー・マーケットでクリエイティブであり続けることは難しい。最終的に商品を適正価格で提供しなくてはならないから。さまざまなデザイナーとのコラボレーションは、そんな制約の中でも可能性は無限にあることを教えてくれた。