メルセデス・ベンツ・ファッション・ウイーク・ロシア(MERCEDES-BENZ FASHION WEEK RUSSIA)が10月15〜19日に開催された。首都モスクワの中心地にある、19世紀に馬術学校として造られ現在イベント会場として利用されているマネージュ(Manege)をメイン会場に、5日間で70ブランドがショーやプレゼンテーションを行った。ロシア発のブランドといえば「ヴィカ ガジンスカヤ(VIKA GAZINSKAYA)」や「ウォーク オブ シェイム(WALK OF SHAME)」などが日本でも人気だが、同ファッション・ウイークに参加した若手ブランドの多くは「ゴーシャ ラブチンスキー(GOSHA RUBCHINSKIY)」にかなり影響を受けているようだ。同ブランドのようなストリートとアンダーグラウンドの雰囲気をベースに、原色を多用する特徴的な色彩とシンプルな幾何学図形、20世紀初頭のロシア構成主義(工業的な実用物を使って抽象的で力学的な美を表現する美術様式)を掛け合わせたようなコレクションが多数見られた。ソビエト連邦崩壊後に生まれた“ポストソビエト・ユース”と呼ばれる若手デザイナーが中心で、粗削りながらエッジの利いた実験的なショーが多かった。今季の同ファッション・ウイークに参加したデザイナーの中で、評価の高かった注目3ブランドを紹介する。
ROMA UVAROV
ドラマチックすぎる「ベルばら」の世界
コレクションの完成度が最も高いと評されたのは、ローマ・ウバロフ(Roma Uvarov)による自身の名を冠したブランドだ。“意見を持つクレイジーな衣服”をコンセプトに掲げるウィメンズブランドで、シーズンごとにストーリー性のあるコレクションを披露している。今季はイタリア・ローマの伝統的な結婚式から着想を得て、ダイナミックで華々しい内容だった。序盤はシャツドレスやブラウスといったリアルクローズに始まり、徐々に赤のフラワープリントやゴールドのアップリケなどを用いたルックと共に華やかさが増していく。終盤は黒と深紅色のバラで不気味さと情熱が入り混じり、最後は白のウエディングドレスを着用する男性モデルのルックで締めくくられた。漫画「ベルサイユのバラ」を想起させるドラマチックなコレクションは、アクがあるゴールドやクリスタルのジュエリーとボールドカラー、西ヨーロッパ発祥ながらロシアで長く愛されているプチポワン刺しゅうといった、ロシア独自の美意識が感じられた。パリにショールームを構える「ノブ エージェンシー(Nob Agency)」に所属しているため国外からのゲストの多くがすでに同ブランドを認識しており、今季の目玉だったといえる。会期中、最も多くの来場者がつめかけた満員の会場で、期待を裏切ることのないショーを行った。
KRUZHOK
超濃厚なカルチャー系ストリート
ロシアのアンダーグラウンド・カルチャーをテーマにした書籍を出版し、フォトジャーナリストとして2015年にキャリアをスタートさせたスタス・ファルコフ(Stas Falkov)は、その後17年にユニセックスのストリートウエアブランド「クルゾフ」を立ち上げた。彼はロシアの都市景観や旧ソビエト連邦時代のリゾート地などの写真から影響を受け、さまざまなモチーフを衣服に描いてきた。今季は20世紀に活躍したロシア人映画監督アンドレイ・タルコフスキー(Andrei Tarkovski)のSF映画「ストーカー(Stalker)」にインスパイアされて、宇宙人の雰囲気を放つ不可思議なコレクションに仕上げた。オーバーオールやカーゴパンツなどの工業用衣類をベースに、グリーンとグレーの暗いカラーパレットでテクニカルな素材をディテールに多用した。“工業的経済発展こそが社会的進歩だ”としたロシア構成主義の美術に見られる、工業的な実用物を使ったルックがランウエイ上に続いた。モデルには幅広い世代の一般人を起用し、プラスチックのバケツをかぶせたり、車椅子で登場させたりするなど、映画の世界観を強く意識する演出だ。個々の商品だけを見ると世界で戦えるほどの独創性には欠けるものの、コレクションの構成力やユーモアのあるショー演出には見るべきものがあり、ストーリーテラーのセンスがある。今後の可能性を秘めたブランドだと感じた。
LEAF XIA
メルヘン盛り盛りの“カワイイ”系
ロシア人デザイナー以外による“グローバル・タレント(Global Talent)”枠で参加したリーフ・シア(Leaf Xia)は、まるできゃりーぱみゅぱみゅの衣装のようにポップでアニメチックなコレクションで会場をメルヘンの世界へと塗り替えた。2015年にニューヨークのパーソンズ美術大学(Parsons School of Design)を卒業し、これまでニューヨーク・ファッション・ウイークとロンドン・ファッション・ウイークでショーを開催した経験もある。原色のダウンやファーコートには惑星、動物、記号、ハローキティの柄やアップリケで乙女心を存分に表現する。アウターの中からのぞくのは、チュールのドレスや柄物のストッキング、足元は派手な装飾を施したシューズと、可能な限り盛りに盛って盛りまくる“原宿カワイイ”スタイルだ。ストリートウエアやダークな雰囲気のショーが多かった中で、ひと際印象に残るショーであった。ショーの後にショーピースを実際に手に取って見ると、パターンや縫製などの質が高く、モノ作りに真摯に取り組んでいるのが分かった。ニッチではあっても、確実に一定層のファンを増やしていきそうだ。