ファーストリテイリングは、企画・生産から物流、働き方までを包含した改革“有明プロジェクト”の一環として、新たにMUJIN(東京、滝野一征・最高経営責任者兼共同創業者)、Exotec Solutions(フランス、ローメン・ムーリン=Romain Moulin最高経営責任者)の2社とグローバルパートナーシップを締結した。2018年10月に、マテハン機器(マテリアルハンドリング。物流倉庫や工場の作業機械)世界大手のダイフク(大阪、下代博社長)とパートナーシップを結び、倉庫の自動化を進めているが、今回の2社との締結によりその動きを加速する。
18年10月のダイフクとの提携発表の際に、柳井正ファーストリテイリング会長兼社長は、「今後2~3年で世界中の倉庫を自動化する」と明言していた。そのために、1拠点あたり10~100億円、「全世界で1000億円」(神保拓也ファーストリテイリンググループ上席執行役員)規模の投資を進めている。今回、新たに2社とパートナーシップを締結することで、「お客さまがほしいものが、いつもある」「無駄なものを作らない、運ばない、売らない」という、“有明プロジェクト”が目指すサプライチェーン全体の改革にさらに迫る。「普通にやれば(改革達成までに)5年以上かかるだろう。しかし、われわれはそんなに待てない。最短で3年、3~5年のうちに達成する」と柳井会長は話す。
今回パートナーシップを締結した2社は、どちらも物流倉庫内のピッキング作業の自動化を担う。ダイフクとの提携により、倉庫に商品が入荷し、検品し、保管するといったピッキング以前の領域では自動化手法が既に成立している。
11年創業のMUJINは産業用ロボットに特化した知能コントローラの開発・販売を行っており、ファーストリテイリングと組んでモーションプランニングAI(人工知能)を搭載した「アパレル用知能ピースピッキングロボット」を開発した。「アパレル分野ではピッキングの自動化が難しいといわれてきたが、それはシーズン毎に商品が変わる、商品が柔らかくて掴みにくい、似ている商品が多いという点が要因だった」(滝野CEO)。超多品種に対応できる3Dビジョンや柔軟なロボットハンド、ピッキング途中の検品などにより、それを可能にした。シーズン毎に全SKUをロボットに登録することは現実的ではないが、モーションプランニングAIにより、それが自動化されるのだという。同社公式サイトによれば、MUJINの知能コントローラは、JDドットコムも導入している。
Exotec Solutionsは15年設立。「スカイポッド(Skypod)」という台車ロボットが倉庫内でピッキングを行う仕組みを開発している。「秒速4メートルで動き、高さ10メートルの棚にまで登り、(商品が収納されている箱を)取ってくることができる。受注量が増えても、ロボットと棚を増やせば効率が上がるため、物流の環境変化に柔軟に対応できる」とムーリンCEO。同社のシステムは、仏の食品スーパー大手カルフールや仏のECサイトなどが導入しているという。
ダイフクとのパートナーシップでは、既に東京・有明のファーストリテイリング本部内の物流倉庫や、西日本、米国など国内外計4拠点の自動化を進めている。MUJIN、Exotec Solutionsとは、それぞれ海外1拠点での倉庫自動化に着手しているという。
2社との締結を発表した記者会見では、“有明プロジェクト”が目指すサプライチェーン改革の全体像もあらためて説明した。「お客さまがほしいものが、いつもある」「無駄なものを作らない、運ばない、売らない」モデルのために、情報の可視化・一元化、リードタイムの短縮、過剰在庫・欠品の削減を相互連関的に進めていく。中でも、リードタイム短縮については、今後「3D-CAD導入によるバーチャル企画」「素材の備蓄」「大ロット発注から多頻度の小ロット発注へ」「縫製工場の自動化」「船便中心の輸送から陸上、航空も含んだ輸送形態の最適化」(神保・上席執行役員)などを通し実現を目指す。これにより、「生産枚数にもよるが、従来1~2カ月だった企画・生産から店頭投入までのリードタイムを、2週間~1カ月に近付けていく」(柳井会長兼社長)。