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連載 サステナビリティって何?専門家が答えます。

サステナビリティって何? 専門家が答えます。連載Vol.5 専門誌編集長が断言「サステナビリティなくして企業に未来はない」

 サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――といわれる一方で、具体的に何をどうしたらいいのかわからないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞いてその解決策を探る。今回は日本経済新聞社時代に日本初のサステナビリティ記事を執筆し、2007年には環境とCSR(企業の社会的責任)と“志”のビジネス情報誌「オルタナ(alterna)」創刊した森摂・編集長に、サステナビリティの本質と企業の取り組み方について話を聞く。

WWD:世界中でサステナビリティへの関心が高まっている。ここに至るまで、どのような時代の流れがあったのか。

森摂編集長(以下、森):振り返れば、80年代にグローバリゼーションが進んだことで、負の側面が出てきたという背景がある。その中で、サステナビリティ社を立ち上げたジョン・エルキントン(John Elkington)氏が“トリプルボトムライン”という言葉を1994年に提唱した。ここで、企業を財務面だけではなく、環境的側面、社会的側面、経済的側面の3つから複合的に評価すべきだという概念が提示された。その後、サステナビリティの普及にもっとも貢献した人物は(元国連事務総長の)コフィ・アナン(Kofi Annan)だと考えている。

WWD:それはなぜか。

森:コフィ・アナンはわれわれに“3つの贈りもの”を残した。99年のスイス・ダボス会議での演説の中で彼は「人権問題や貧困の解決のため、国連だけではなく、経営者の力を使ってほしい」と語った。翌年には「MDGs(ミレニアム開発目標)」が生まれたが、これが現在の「SDGs(持続可能な開発目標)」につながった1つ目の贈りもの。2つ目は「MDGs」を推進するために生まれた企業組織「グローバル・コンパクト(The global Compact)」だ。世界では1万3000を超える企業や団体が加盟しているが、日本では341の企業や団体の加盟に留まっている。最後が2006年にできた「PRI(国連責任投資原則)」。企業に投資する側もサステナビリティに着目すべきだという原則だ。これによってお金の流れが変わり、サステナブルでない会社には投資を控えよう(=ダイベストメント)という潮流が出てきた。

WWD:なるほど。

森:一方で、個人の流れも大きい。今後の消費の中心を担うミレニアル世代やZ世代がサステナブル思考を持っており、彼らに受け入れられる事業をしなければいけないという時代が来ている。これは、国連という世界規模の組織とは真逆に位置する個人単位からも、企業に対してプレッシャーがかかっているということを意味する。

WWD:国家レベルと個人、両方からのプレッシャーがあったと。

森:そうだ。まとめると、企業を動かすステークホルダーとして、ミレニアル世代やZ世代などの若い世代と投資家、そして国連やNPO、NGOなどの存在があるということだ。

WWD:国連だけでなく、NPOやNGOの存在も重要か。

森:欧米では特にNGOに対する信頼は厚い。エデルマン(EDELMAN)というPRとマーケティング、コンサルティングを行う会社が出している信用スコアによれば、グローバルで政府、NGO、メディア、企業のうち、もっとも信頼されているのがNGOという結果だ。一方で、日本ではトップが企業。ここでも意識の差は大きい。

WWD:日本市場の動向はどうか。

森:15年に「SDGs」が採択され、4年経った今、日本にもようやく波が来ていると感じる。環境などに配慮した投資のことを「ESC投資」と呼ぶが、日本では全体に占める「ESG投資」の割合がここ数年で急増している。業界ごとの進捗はまだら模様だが、サステナビリティへの関心が早かったのはコピー機業界。組み立て産業であるため、CO2削減に取り組みやすかったからだ。実際にリコー(RICOH)は90年代からに環境経営を打ち出し、環境負荷を減らしながら売り上げを伸ばせることを実証している。

企業がサステナビリティに取り組むにはどうすればいい?

WWD:企業がサステナビリティに取り組む意義は?

森:ユニリーバ(UNILEVER)のポール・ポールマン(Paulus Polman)前CEOはかつて「世界で展開する400ブランドのうち、サステナブルを掲げた28ブランドが他ブランドよりも47%早い成長を見せた」と発表した。また、前述のエデルマンによれば「社会問題に取り組む企業の社員の方が、そうでない企業よりも高いモチベーションで働ける」ことが分かっている。つまり、企業にとってもあらゆる面でサステナビリティによるメリットを享受できるだけでなく、それに取り組まない企業の価値は相対的に下がっていくものだと思われる。

WWD:サステナビリティへの取り組みに成功した企業事例は?

森:パームオイルへの反感が高まった際のユニリーバや(パームオイルを用いたことで)「キットカット」不買運動が起こった時のネスレ(NESTLE)などは、社会の動きにすぐに対応してみせた。意見をすぐに聞きいれる姿勢は企業にとってとても重要だ。

WWD:これからサステナビリティに取り組みたい企業はどうすればいいのか。

森:最近は「法令遵守」の“守り”のCSRから「社会貢献」のための“攻め”のCSRへと企業動向が変わってきた。アウトサイド・イン アプローチといって、顧客課題よりも先にある社会課題に対して価値創造ができる事業に取り組むことが必要だといわれている。ただ、いろんな事例を挙げたが、全ての取り組みがパーフェクトだと言える会社はまだない。

WWD:アウトサイド・イン アプローチの具体例は?

森:社会課題や社会的ニーズに対応できるビジネスの実例としては、京都議定書採択の時期にあわせて誕生したトヨタ(TOYOTA)のハイブリッドカー“プリウス”がもっとも有名だろう。そのほか、途上国での認知度拡大に成功したリクシル(LIXIL)の“2ドルトイレ”、地域問題を解決するために放置竹林の竹を使ってノートなどを製品化した中越パルプ工業、廃プラスチックから生まれた「アディダス(ADIDAS)」の“ウルトラブーストパーレイ”など、アウトサイド・イン思考で生まれた製品は数多く存在する。ただ、企業ごとにこのアウトサイド・インの方法は異なるため、明確な正攻法がないこともサステナビリティの現実である。

WWD:森編集長としては今、サステナビリティでどんな分野に関心を抱いているか?

森:ファッションにも大きく関わる分野だが、「アニマルウェルフェア」に着目している。近々「オルタナ」でも特集を組む予定だ。ミュールシング(寄生虫を防ぐための羊への処置)の問題やモヘア使用禁止など、世の中が大きく動いている。フランスでは国を挙げてオーガニックに取り組んでいるし、これからの時代に堂々と毛皮を使うことはできないだろう。ファッション企業としても、消費者の声を聴きながら、先のリスクを見据えた行動を心がける必要があるはずだ。

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