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連載 サステナビリティって何?専門家が答えます。

サステナビリティって何? 専門家が答えます。 連載Vol.8 ファッションデザイナーの未来は発電すること!?

 サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――と言われる一方で具体的に何をどうしたらいいのか分からないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞きその解決策を探る。今回は水野大二郎・京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab特任教授に聞いた。

“人間中心”からの脱却

WWD:サステナブルファッションとはどういうものだと思いますか?

水野大二郎・京都工芸繊維大学特任教授(以下、水野):サステナブルファッションはすごく広い範ちゅうを指す言葉です。“エコファション”“エシカルファッション”などの呼ばれ方もありますが、21世紀に入ってからはいろんな研究者や実務家が実践しています。CSR(企業の社会的責任)や一過性のブームと捉えている人は少なくないですが、現在、政治や経済にまでインパクトを持つ動きになりつつあり、「ファッション協定(The Fashion Pact)」など組織的規模の動きも顕著な一方で、企業だけではなくステラ・マッカートニー(Stella McCartney)などデザイナー個人の活動も目立ってきています。彼/彼女らはファッションの表層的ではない価値創出に向かっています。

しかしそこでは、“産地を守る、産地の維持可能性を守る、伝統文化を守る”という話と、“環境負荷を下げるために新しいデザインを考える”という話が同列で語られています。混同しているのか、ただ並列化しているのかはわかりませんが、何をサステナブルとするかはものすごく難しい。

世界的には、人間中心で維持可能性を考えるデザインから、地球中心で維持可能性を考える“脱人間中心”のデザインに向かっています。“人間中心”ということは人間のニーズやエゴに応えるということ。例えば、プラスチックは非常に効率的に作れるしリサイクル性が高い素材にもかかわらず、現在プラスチックを使わない、作らない路線で考え直そうとしている。人間を中心とした合理性や効率性、経済性を踏まえない方法を考えようとしている点で、人間にとってある種非合理的です。

WWD:地球中心で経済活動などを考えるべきだということですか?

水野:従来の経済活動とは異なる新しい経済の生態系をつくり出すことを主眼に、新しい文化や技術を応用して、何らかの人工物をデザインとして成立させていく動向全般を指して、サステナブルファッションと呼ぶのではないでしょうか?

20世紀型の優れた美しい製品を生み出すことでも、21世紀初頭に流行った目の前の問題を解決することでもなく、地球規模の複雑で巨大な問題に対するアプローチを考えること。それはファッション業界が今まで踏み込んでこなかった領域で、少なくともファッションデザイナーとして教育を受けて業界で働いた人がこの領域に入っていくには、勇気や知的体力が大いに求められます。なので、積極的に踏み込んでいける道筋をつくる、あるいは身をもって示していかなくてはならないのかもしれません。

リペアサービスと二次流通サービス

WWD:こういった話題は若い世代には比較的アプローチしやすいのかもしれませんが、すでに産業の中心にいる業界の大人、企業のトップを巻き込むのは難しいように思えます。

水野:リペア(修理・修復)などの廃れたサービスを復活させることも、ビジネスとしての可能性は大いに考えられます。例えば「バブアー(BARBOUR)」では、オイルドジャケットの油を塗り直す“リプルーフ”というアフターサービスやパッチワークサービスがあります。

面白いのは、リペアされていること自体がファッションの価値要素として中古市場でも評価されている点。修理することで価値付けられるのは理想的ですが、価値が付かないにしても修理することでモノとして維持される状態、製品寿命が長くなるのはいいことだと思います。使用感に価値があるジャンルの服としてはデニムなどもありますが、リペアサービスを価値創造の手段と考えて、ビジネスとして真剣に取り組むのも面白いのではないでしょうか。

WWD:メルカリなどの二次流通サービスも製品寿命を伸ばしているように思えます。

水野:クラシックな製造業モデルとしてのファッションは、消費者の手に渡った後のアフターサービスはほぼないも同然で、中古市場の覇権を取ることはあまりしてきていません。従来の製造業からIT系のサービス・デザインを学んで組み込んでいくことができれば利益は見込めるはず。新しいものを作って売ることだけに囚われず、そこに重点を置くのも面白いと思います。

WWD:そのようなプラットフォームができると小さいブランドでも巻きこめる可能性があります。

水野:大きい規模であらゆるブランドを巻き込むプラットフォームがあればいいですが、製造業のサービス化はファッション産業外ではずっと言われていたことで、自動車業界ではすでにウーバー(UBER)などがサービス産業として成立していて一般的な認知度も高い。日本は製造業で成長してきた国ですが、サービス産業がここまで前景化しており、ファッションも遅かれ早かれそうなると思います。そこで、どんなビジネスモデルをブッこみますかという話です。

エネルギーリソースから考えるファッションデザイン

WWD:リペアサービスや二次流通サービスで対応できない下着などはどうすればいいのでしょうか。

水野:リセール価値がないゴミになるものは、捨て方から逆算して考えるのがいいと思います。モノマテリアル(単一素材)であれば捨て方の問題は少なくなります。素材調達、加工方法、使用動向を踏まえて、捨て方のデザインが重要になってきます。

WWD:それはどのように実現できると思いますか?

水野:捨てやすさを考えると、応用可能性があるキノコやシルクに注目しています。糸やボタン、裏地、芯地もすべてキノコやシルクで製造することは技術的には不可能ではありません。遺伝子操作をすると価格の問題や産業上・倫理上さまざまな問題が発生しますが、いくつかの課題を解決できるかもしれない。キノコやシルクに関して国内には研究基盤と産地復興の基盤があるため、古いリソースに新しいテクノロジーを加えて復興させることは面白いと思います。同じようなタンパク質ベースの素材はほかにもありますが、エネルギーリソースの問題が発生します。循環型素材も溶かして新しいものに作り替えるためにはエネルギーが必要になるので、環境コストは高くなります。

WWD:自然エネルギーで賄えるなら使用してもいいのでは?

水野:未来のファッションデザイナーは発電方法まで考える必要があると言って学生に苦笑されたことがありますが、いつかエネルギーリソースという根源的な問題にたどり着くと思います。しかし、そこまでファッションデザインが拡張していくと、素敵な服を作って売って着るのが好きな人がモチベーションを保ちづらくなる。ロジックとしては理解できるが、自分がやりたいことはこれか?と疑問を持つ人が出てくるはずです。エネルギーのデザインまで拡張できるデザイナーをいかに育てるのかは難しい課題です。

サステナブルに消費する文化をサステインすること

WWD:課題が壮大過ぎて、気持ちがついていきません。小さなことから始めるしかないけれど、そのスピード感で間に合うのかという気持ちになります。不安をあおりすぎるのは良くないと思う一方で、それを認識しないと行動に移せない――そのさじ加減が難しい。

水野:エネルギーとまではいかないまでも、もう少しだけ拡張して考えるのでもいいのではないでしょうか。環境負荷の低いバイオマテリアルの開発・研究に踏み込んでいる企業も日本ではまだ少ないですが、ヨーロッパなどでは着実に増えています。バイオテクノロジーの研究開発をもう少し推進すると面白い結果が出るのかもしれません。

しかし現実的に、バイオマテリアルの研究開発はその規模の投資でどうにかなるものではなく、多くの研究資金や開発時間がかかるし、より多くの知見も必要になります。可能性はあるので、少しずつ実験を重ねてバイオテクノロジーの民主化を目指さないと発展していきません。大企業による大型投資に期待するのか、実験的な実践を支援する草の根運動から始めるのか。様子を見ないとわかりませんが、世界的な潮流になるという実感はあります。

WWD:売り方については成熟しつつあります。

水野:予約注文販売やクラウドファンディング(CF)などの共感投資型、定員に達しないと製品を作らないという共同購入型などバリエーションは出そろいつつあります。CFは有効な手段なので、実験的な新しい技術や小さな生態系でのモノを作りの仕組みは十分回るのではないでしょうか。

WWD:どのような方法論が考えられると思いますか?

水野:インターネットの世界の楽観的な見方ですが、自社開発のプログラム機能を無償公開するAPI(アプリケーションプログラミング・インターフェイス)のような考え方があってもいいかもしれません。作り方などを公開していけば利用者は一気に増える。コア技術だけ守りつつ開放できる範囲をオープンにして仲間を増やす――このオープン&クローズ戦略でビジネスを展開できるのではないかと考えています。

課題は、日本ではこの問題に対しての切迫感を全く感じられないこと。サステナブルマテリアル、サステナブルファッションをサステナブルに消費する文化をサステインすることを、ロジカルな部分を超えて示さないとピンときません。

つまり、デザインする対象が服でもサービスでもなく文化になりつつあるということです。サステナブルな服を着て、自分の態度や思想を示すことがよいことだとされる文化をつくらないとピンとこないのでは。製品やサービスだけだと利益誘導型でしか考えられないので、上位の文化から考えることが必要です。

いかに文化を作り出すのか

WWD:その文化をつくることができる人とは?

水野:グローバル企業のトップが音頭を取るのか、はたまたユーチューバーなのかわかりませんが、最近はファッションデザイナーの力をあまり感じられません。文化をつくる人は育つのか、別の領域から連れてこないといけないのかはまだわからないのが現状。いずれにせよ、あらゆる世代に浸透させていくことを考えるのが重要で、理詰めで語っているだけでは通用しないと思います。

WWD:他の分野を参考にする手段も考えられます。

水野:例えば食に関して言えば、ライフスタイルや文化を変えないままだとコンビニ飯やファストフードでいいという考えになってしまう。ローカルフード・地産地消など、食べ物はわかりやすいですが、ファッションで地産地消と言われてもピンとこない。ローカルにサステナブルな生態系をつくることは面白いけれど、ファッションにおいては食文化のように限られた地域でエコシステムを閉じることは難しいと思います。

先日の台風被害に顕著ですが、モノを捨てられないという状況に陥って初めて都市部の生態系が脆弱であることが見えてきました。廃棄はいままでは海外に依存していましたが、対外的な法的制限が各国で設けられ始めているため、国内で解決しなくてはならない状況になりつつあります。製品寿命を伸ばす方法や、商品としてリユース可能な状態で回していくセカンドハンド市場やサブスク市場を開拓していくことは、インフラが脆弱な都市部にこそ有効なのかもしれません。

法律や経済、あるいはデザインで対応するなど、あらゆる領域の活動を動員しないといけないのがサステナブルファッション。人の行動を抑制・促進することは、最後は文化をデザインすることにつながります。現状のファッション業界からどのように働きかけることができるのかは見えてきませんが、サービスのデザインをファッション産業の人がうまく応用できるようになればいいのではないでしょうか。

秋吉成紀(あきよしなるき):1994年生まれ。2018年1月から「WWDジャパン」でアルバイト中。

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