英国発「ハンター(HUNTER)」は、日本での売上高が3年前に比べ500%と大きく伸長する。2016年にオープンした東京・銀座の東急プラザ銀座の旗艦店を発信源に、レインブーツの「ハンター」にとどまらず、アウターウエアからバッグまでそろえるライフスタイルブランド「ハンター」へと進化し幅広いファンを獲得する。その立役者が、6年前にクリエイティブ・ディレクターに就任したアラスディア・ウィリス(Alasdhair Willis)氏だ。就任後、何を行い、何を行わなかったのか――2年ぶりに来日したウィリス・クリエイティブ・ディレクターに、その答えと、ブランドとしての信念、世界が直面しているサステナビリティ、そして妻ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)について聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):日本は上陸以来、APAC(アジア太平洋地域)をけん引する売上高を誇り、過去3年でも500%の伸びを記録する。その要因は?
アラスディア・ウィリス(以下、ウィリス):日本はアメリカ、イギリスに次ぐ3番目の市場で約19%の売り上げシェアとなるが、その拡大スピードは最も速い。そこで何より注目すべきは、日本の売り上げの45%がアウターウエアやバッグなど、フットウエア以外で占めている点で、まさに注力してきたことだ。私が「ハンター」に参加し“ハンター オリジナル”を立ち上げた理由は、レインブーツという単一のビジネスから、アウターウエアやバッグなど複数のカテゴリーを展開するファッション&ライフスタイルビジネスへと転換させるためだ。中核であるフットウエアビジネスを継続的に拡大しつつ、新しいカテゴリーをプラスオンとしてうまく機能させる。日本ではまさにそれが機能しており、うれしく思っている。
WWD:服やバッグのカテゴリーは、当然だが多くの競合がいた。その中でどのように差別化しブランドを確立していったのか?
ウィリス:新しいカテゴリーで成功するために重要なのは、従来のコアな商品に対して顧客が持つ愛着や親しみを、新設のカテゴリーにも移していくこと。「レインブーツを求めてハンターへ行く」のではなく、「自分の生活の中にハンターが欲しいから行く」というエモーショナルなつながりが大切だ。
WWD:そのエモーショナルなつながりとは?
ウィリス:カテゴリーを増やす中で、顧客の生活に寄り添った打ち出しを行なっている。「ハンター」のレインブーツが生活の一部になり、そこに思い出や記憶がある。例えば、このブーツがいかに濡れないかという機能面ではなく、「フェスで好きなバンドの音楽を聴いたときに履いていた」などだ。店頭では自分たちの生活や思い出と一緒に「ハンター」の話で盛り上がる。私自身もクリエイティブ・ディレクターを要請されたとき、真っ先に自分の子ども時代を思い出した。ハンターブーツを履いて小屋の外に立っていて、2人の姉妹が乗馬をしていたシーンがよみがえった。これはレインブーツにとどまらず、全てのアイテムでも同じ。これが顧客の広がりにつながっている。
WWD:「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」をはじめ、「ディズニー(DISNEY)」、アメリカの大手量販店「ターゲット(TARGET)」などさまざまなブランドとコラボレーションしているのが印象的だが。
ウィリス:実はクリエイティブディレクターに就任後、3年間はコラボレーションを一切やめた。アウターウエアやバッグなどの新しいカテゴリーをローンチするにあたり、各カテゴリーのパーソナリティーや「ハンター」というブランドをしっかり確立することが重要と考えたからだ。その後再開したが、想像以上に多くのブランドからコラボレーションの提案をもらっている。「ハンター」はハイファッションから手頃な価格帯、子どもまでリーチできる独特なポジションを持っている。
WWD:2020年春夏コレクションではサステナビリティが一番の話題だった。「ハンター」も9月に、この分野で先駆的存在であるブランド「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」とのコラボブーツを発表するなど、サステナビリティを推進する。ブランドとしてどう対応している?
ウィリス:専任のサステナビリティチームがあり、3つの側面からアプローチしている。1つ目は人権・職場・環境基準を満たす世界中の工場と提携するなどの社会的サステナビリティ、2つ目は人権・動物愛護・環境に配慮した素材を使用し、責任を持って調達する製品的サステナビリティ、3つ目はアジアにあるゴムのプランテーションや輸送、梱包など、製品開発における二酸化炭素排出量の測定・分析を行うなどの環境的サステナビリティだ。
妻のステラとは普段からサステナビリティについてよく話す。ベジタリアン一家で、虐待とみなされる活動はサポートしないことにしている。ただ、グローバルビジネスに携わっている以上そのバランスが難しいが、地球温暖化に最も関与しているのは食品業界とファッション業界と思っており、我々は地球の汚染者。その業界に携わる者として責任を負うべきだ。
WWD:日本のファッション企業も何かやらなければいけないことは分かっているが、どうすべきか分からず悩んでいるようだ。
ウィリス:大企業がこの問題を真剣に捉えれば状況は変わる。大企業がサステナビリティを最重要課題と考えて、変革は可能なのだと信じる必要がある。それが今まで起こらなかったこと自体が問題だが、ようやく動き始めた。でももっとスピードアップしなければならない。私とステラも中国のパートナーとミーティングを設け、環境におけるメッセージを伝えようと計画している。地球上の問題は私たちの手にかかっている。
WWD:「ハンター」の今後の目標は?
ウィリス:これまで同様に、サステナブルを意識・活動することを根底に、消費者のライフスタイルに寄り添えるブランドとして発信し、“会話”を増やしていく。売り上げでいえば、昨年の売上高は1億5000万ポンド(約210億円)だったが、3年以内に5億ポンド(約700億円)の規模にしたい。そしてグローバル市場でのeコマースの割合を36%から50%にすることが目標だ。アメリカやイギリス、日本市場の基盤を固めたら、次は中国に注力していく。