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連載 小島健輔リポート

「アメリカンイーグル」も撤退 外資アパレルチェーンが消えていく【小島健輔リポート】

 ファッションビジネスのコンサルタントとして業界をリードする小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。紳士服大手の青山商事はこのほど「アメリカンイーグル」の事業終了を発表した。相次ぐ低価格の欧米カジュアルブランドの撤退の背景は何か。

 10月末で全14店舗を閉めて撤退した「フォーエバー21(FOREVER21)」に続き、「アメリカンイーグル アウトフッターズ(AMERICAN EAGLE OUTFITTERS)」まで年内に全33店を閉めて撤退すると発表されるに及び、外資アパレルチェーンが出店している商業施設デベロッパーは少なからず衝撃を受けている。撤退しないまでも不採算店舗の閉店を計画しているチェーンは少なからず、外資アパレルチェーンは総崩れの状況を呈している。

米国AEO社への事業譲渡ならず事業清算へ

 青山商事が米国アメリカンイーグルアウトフィッターズ社(AEO社)とのフランチャイズ契約を2022年2月の期限を待たず解消して「アメリカンイーグル」事業から撤退することは6月7日には発表されていたが、その段階では米国AEO社への事業譲渡交渉が進展していて、主力店舗は営業を継続するとみられていた。それが11月8日の発表では一転して全33店を閉店することになった。以下に「アメリカンイーグル」事業撤退に関わる特別損失を開示した青山商事のプレスリリースを掲示する。

日本におけるアメリカンイーグル事業について、当社連結子会社である(株)イーグルリテイリング は、2019年12月末日をもって事業を終了する予定でありますが、現在、米国 American Eagle Outfitters, Inc.との間で、2019年6月7日付「連結子会社の事業譲渡検討等に係る基本合意書締結に関するお知らせ」にてお知らせいたしましたとおり、事業譲渡にむけての交渉を進めております。
交渉の過程で、一部譲渡予定であった店舗の譲渡が見込めなくなったこと(EC事業については譲渡予定)などにより、2020年3月期第2四半期累計期間の連結業績に、事業整理損失69億98百万円(内56億22百万円は第1四半期会計期間に計上済)を計上いたしました。
あわせて、2020年3月期通期の個別業績に、上記事業整理損失に関連投資不動産の減損損失等を加えた78億90百万円を特別損失として計上する見込みとなりましたのでお知らせいたします。
なお、事業譲渡にむけての交渉は継続中であり、内容が確定し開示が必要な場合には、改めてお知 らせいたします。

 2010年に青山商事90%、住金物産(現・日鉄物産)10%の合弁で設立したイーグルリテイリングが米AEO社のフランチャイジーとなり、12年4月に東急プラザ表参道原宿の明治通り路面に「アメリカンイーグル」1号店を開設した。ピーク時の17年3月期には34店舗を展開して148億円を売り上げても営業損益は15億円の赤字で、国内カジュアルチェーンとの競合で18年3月期には既存店売上が2ケタ減に陥った。19年3月期も既存店売り上げが89.8%と低迷し、売り上げが123億円まで減少して営業損益で13億円の赤字を計上していた。

 青山商事が17年3月期にイーグルリテイリングの株式評価損8900万円、同社への貸付金貸し倒れ引当金37億2100万円、計38億1000万円の特別損失を計上した段階で撤退は時間の問題とみられていたが、米国AEO社への事業譲渡を含め、損失を最小化する撤退方法が模索されていたようだ。

 米国AEO社への事業譲渡交渉が行き詰まって全店閉鎖に追い込まれ、もはやこれまでと20年3月中間期に69億9800万円、20年2月期通期では78億9000万円の特別損失を計上することになったが、17年3月期に計上した特別損失とこれまでの累積赤字を合わせれば170億円近い資本が浪費されたことになる。

なぜ「アメリカンイーグル」は
日本市場に根付かなかったのか

 「アメリカンイーグル」が販売不振で撤退することになった要因はさまざまな関係者が指摘しているが、共通しているのは「ユニクロの壁」と「アメカジの時代ずれ」だろう。

 「ユニクロ(UNIQLO)」の品質と価格がデフェクトスタンダードとなって久しいわが国のカジュアル市場では、その水準に届かない外資ブランドが市場に根付くのは難しく、「アメリカンイーグル」の薄っぺらい品質感とそれに比しての割高な価格は到底、通用しなかった。米国ではキャンパスインナー&ルームウエアブランド「エアリー(AERIE)」の人気もあって、本家「アメリカンイーグル」は好調を継続しているが、アスレカジュアルのゆる抜けたウエアリングが一般化して「ワークマンプラス(WORKMAN PLUS)」がブレイクする高感度なわが国カジュアル市場では、「アメリカンイーグル」のふた昔も前の古典的な「アメカジ」が受け入れられるはずもなかった。それは前世紀の古びた「ジーンズとアメカジ」に固執する「ライトオン(RIGHT-ON)」の絶不調を見ても明らかだ。

 加えて、米国AEO社のフランチャイズ展開ゆえシーズンMD展開が日本市場と噛み合わず、日本市場独自のゆる抜けたフィットに対応できなかったことも業績の足を引っ張った。せめてディスプレイだけでも今風なゆる抜けスタイリングを表現できていれば、もう少しは顧客を惹きつけられたのではないか。同じジーンズショップでも、古典的なフィットの「ライトオン」と今風にゆる抜けたフィットの「ボーンフリー(BORN FREE)」では天と地ほどの鮮度感の差がある。

 少子高齢化による社会負担増と経済の停滞、女性の社会戦力化で“お洒落文化”が衰退しTPOが崩れて衣料消費が萎縮していくわが国だが、それに逆比例するように消費者の着こなし着崩し感度は加速度的に進化している。そんな日本市場でグローバル一律なスタイリングを押し付ける外資アパレルチェーンが売り上げを伸ばすのは極めて困難で、生き残ることさえ難しくなっている。

外資アパレルチェーンは風前の灯

 リーマンショックから数年間は一世を風靡した外資アパレルチェーンも一転して逆風にさらされ、閉店や撤退が相次いでいる。

 外資アパレルチェーン主要5社合計の日本国内売り上げは10年の1372億円からピークの15年は2626億円と倍近くに伸びたが、17年1月の「オールドネイビー(OLD NAVY)」全店撤退を契機に減少に転じた。同年5月には「ギャップ(GAP)」が渋谷店を閉店、「フォーエバー21」もららぽーとTOKYO-BAY店、ダイバーシティ東京プラザ店、イオンモールの和歌山店/各務原店を閉め、10月には日本上陸1号店の原宿旗艦店も閉店している。18年7月には「H&M」も同じく日本上陸1号店の銀座店を閉店。19年に入っては5月に「ギャップ」が原宿店を閉店、10月末には「フォーエバー21」が全店を閉めて撤退し、「アメリカンイーグル」も年内で全店を閉めて撤退する。

 まさに雪崩打つような閉店と撤退のラッシュで、19年の主要5社合計の日本国内売り上げはピークの8掛けの2090億円前後まで急落し、20年には残る3社合計で1860億円前後まで落ちると推計される。インディテックス日本法人、H&Mジャパン、ギャップジャパンの外資大手3社を束ねても、伸び悩んでいるとはいえ8730億円(19年8月期)に達する「ユニクロ」国内売り上げの2割強でしかない現実が日本市場の難しさを浮き彫りにしている。

アパレル市場は
ローカル回帰している

 グローバル展開のアパレルチェーンが失速しているのは日本市場に限ったことではない。「ユニクロ」と「ザラ(ZARA)」こそ伸び続けているが「H&M」は15年で頭を打ち、「フォーエバー21」は破綻寸前だ。

 グローバル化がトレンドだったのはリーマンショック対策の過剰資金が途上国に流れて市場化が急進した08〜15年で、16年のブリグジット決定とトランプ当選を契機に世界はローカル回帰と分断に転じ、アパレル消費もローカルに回帰して米国でも日本でもローカルブランドが復調している。日本では苦戦して撤退する米国のローカルアメカジ「アメリカンイーグル」にしても米国では好調だし、日本のローカルギャルカジュアルの“聖地”渋谷109も10年ぶりの活況を呈している。「リーバイス(LEVIS)」の地域別売り上げの推移を見れば、ローカル回帰の流れが克明に解るが、転換点はやはり16年だった。

 世界のアパレル市場はアングロサクソン系とラテン系の欧米市場、ツングース系と漢民族系のアジア市場、勃興しつつあるネグロイド系のアフリカ市場などからなるが、トレンドもともかくフィットが根本的に違う。同じ欧米市場でもアングロサクソン系(「H&M」)とラテン系(「ザラ」)、アジア市場でもツングース系(華北市場)と漢民族系(華南市場)で少なからず異なる。ゆえに、グローバルなアパレルブランドは異なる市場にはローカルフィットで対応しており、一定の売上規模を獲得できないと市場に定着できない。

 わが国にブランドのジャパン社や正規代理店によって欧米から輸入されるアパレル商品の多くはジャパンフィットで別注生産されているが、売上規模の小さなブランドや百貨店の直買付け品はジャパンフィットになっていない。アパレルチェーンでも、本国でエスニックマーケティングに習熟していた「ギャップ」などはジャパンフィット(多分、アジア共通の華南フィット)で対応しているが、欧州系のアパレルチェーンはローカルフィットに消極的だ。

 欧米のトレンドとわが国のトレンドが接近していた08〜15年はそれでも済んだが、日本市場のローカル回帰が強まり、欧米市場とかけ離れたゆる抜けフィットやオーバーサイジングが一般化するに及んで差が大きくなり、日本市場向けのローカル企画やジャパンフィットに取り組まないと売り上げを維持できなくなったのではないか。ローカル化は日本市場だけでなく世界的な潮流だから、各国市場に対応する手間とコストを割けず閉店や撤退を選択するチェーン(当然ブランドも)が続出していると捉えるべきだ。

外資アパレルの撤退は止まらない

 「フォーエバー21」に続く「アメリカンイーグル」の撤退で商業施設デベロッパーは少なからず困惑していると思われるが、外資アパレルチェーンの閉店や撤退はこれで終わりそうもない。

 販売不振に加えてオリンピックを控えたインバウンド需要による繁華街の家賃高騰が旗艦店の採算を圧迫しており、ECシフトによる旗艦店の役割の低下もあって閉店を決断するチェーンが増えている。まだ表面化していないが、すでに定期借家契約更新の断念を申し入れている旗艦店も少なくないと聞く。

 それはお手頃なアパレルチェーンに限らず、日本市場にマッチせずローカルフィット可能な売り上げ規模に届かなかった外資アパレルブランドにも波及するだろう。一握りのスーパーブランドの陰で大多数の外資アパレルブランドは苦戦を強いられており、ジャパン社の採算が取れず代理店流通に回帰したり、不採算店を大規模に整理したり、日本市場に見切りをつけて撤退するブランドが続出するのではないか。商業施設デベロッパーのみならず百貨店も覚悟を決めた方が良いだろう。

小島健輔(こじま・けんすけ):慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、小島ファッションマーケティングを設立。マーケティング&マーチャンダイジングからサプライチェーン&ロジスティクスまで店舗とネットを一体にC&Cやウェブルーミングストアを提唱。近著は店舗販売とECの明日を検証した「店は生き残れるか」(商業界)

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