ヘアサロンとしては珍しく、メルセデス・ベンツ ファッションウィーク東京にコンスタントに参加するなど、日本を代表するデザイナーズサロンのトニーアンドガイ ジャパン。トップとしてその舵取りをする雑賀英敏が考えるサロン経営とは?
――サロン経営で意識していることは?
クリエイティブとビジネスのバランスは常に意識している。トニーアンドガイでは、メルセデス・ベンツ ファッションウィーク東京を始め、年間80近くものショー&イベントに参加している。コレクションチームを固定して、どのショーも同じメンバーで参加すれば楽だが、それだとクリエイティブとサロンワークが分離してしまう。バックステージなどでの経験をサロンワークに生かしてほしいので、できる限り多くのスタッフがショー&イベントに参加できる仕組みを作っている。
――集客に関して行っている施策は?
ウェブでの施策を行っている。これを行うには経緯があり、以前に一度、スタッフの声に押され、クーポンを活用して集客するサイトに登録したことがある。しかし、さほど新客が増えないうえ、顧客から不満の声があがってしまった。そもそも、トニーアンドガイが提案するエッジィでモードなスタイルは、クーポンを活用する客層とはなじまない。そのことが実証された形となった。そこで、不特定多数にではなく、トニーアンドガイの提案に共感してくれそうな層にのみ情報を発信するため「TONI&GUY AMBASSADOR(トニーアンドガイ アンバサダー)」制度を設けた。これは、施術の仕上がりに対するコメントや店販品を使ってみた感想などを自身のブログやフェイスブックに書き込み、トニーアンドガイを宣伝してくれるアンバサダーを顧客から募集するもの。アンバサダーには、新メニューの体験、美容イベントへの優先招待などの特典を用意している。こうして発信された情報は、美容意識の高い顧客の友人や、普段からトニーアンドガイのホームページをチェックしている人などに届くので、効果を発揮している。
――サロン経営における課題は?
日本のサロン全体の課題でもあるが、やはり他の美容先進国と比べて、カット料金が安すぎると思う。実際、私のカット料金も、ロンドンにいたころの半額に設定している。美容師の社会的地位向上のためにも、美容師のなり手を増やすためにも、必要なことは“短く働いて多く稼ぐ”ことだと思う。その実現に向け、今年1月からはスタッフの週休2日を実行している。
――クリエイティブ教育で行っていることは?
「メルセデス・ベンツ ファッションウィーク東京」を始めとするファッションイベントのバックステージにコンスタントに参加していることが、最良のクリエイティブ教育だと考えている。映像やインターネットなどで現場の様子を確認することはできても、その場にいなければ体験できないことの方が重要。独特のスピード感の中でクリエイティブな仕事が求められる厳しさや、わずか数分に全てをかけている人が集まる中で仕事をするプレッシャー、充実感を体験することは、その後の美容師人生の大きなプラスになると考えている。そのため、ファッションイベントのバックステージに参加するスタッフを固定し、常に同じメンバーで臨むのではなく、できる限り多くのスタッフが関われる仕組みを作っている。
――ベーシックな技術教育に関しては?
ベーシックな技術に関しては、フランチャイズ店も含めて、全てのスタッフが同様のやり方で、同様のメソッドをマスターできるようにしたい。クリエイティブな部分には、各々のクリエイティビティーを発揮してもらいたいが、ベーシックな部分はトニーアンドガイのDNAに関わる部分だからだ。そのため現在は、スタッフ全員がいつでも見られる教育動画アプリを制作していて、それを使った教育を来年1月からスタートさせる予定だ。スタッフがパスワードを入れてアクセスすることで、見たい技術動画をいつでもどこでも見ることができる。これにより、フランチャイズ店のスタッフも、本店と同様の教育を受けることができる。動画のいいところは、雑誌などとは違ってスピード感が分かることだ。自分で「自分の技術は速い」と思っているスタッフの施術風景を録画して本人に見せたところ、「これスローモーションですか?」と聞いてきた、というエピソードもある。そもそもこの取り組みを始めたきっかけも、1つのエピソードからだ。1年間、同じ課題がどうしてもクリアできないスタッフがいたので、彼女の作業風景と私が同じ課題に取り組んでいる映像とを比較して見せたところ、その次のテストで一発で合格したのだ。これにより、美容師の技術は動画で学ぶことに適していると確信した。
――今後の教育の課題は?
今から3年前、私がトニーアンドガイジャパンの代表に就任したときは、同サロンは“全ての仕事を感覚的にこなすクリエイティブ集団”という感じだった。全体的に“右脳系”の仕事には強い反面、数字に弱く、会議で店販品の売れ行きを聞いても、感覚的に売れている製品が挙がってくる状況だった。それ以降、ジュニアスタッフまでもが売り上げの報告をアップするソーシャルネットワークを構築するなど地道に取り組んできた結果、数字やデータへの意識がかなり浸透してきた。今後もSNSや動画を使いこなし、クリエイティブマインドを維持しつつ、数字を常に頭に入れておく姿勢を徹底していきたい。