サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――といわれる一方で具体的に何をどうしたらいいのか分からないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞きその解決策を探る。今回は番外編として、「ミントデザインズ(MINTDESIGNS)」や「ケイタ マルヤマ(KEITA MARUYAMA)」など、東京コレクションでもおなじみのモデル、小野りりあんにスカイプで話を聞いた。彼女は、環境問題に関する情報発信を行うウェブメディア「スパイラルクラブ(SPIRAL CLUB)」の立ち上げメンバーでもあり、現在飛行機を使わずに世界中を旅している。
CO2を出さない旅とは
どんなものか体験してみたかった
WWD:現在はモデル業を休止して世界を旅していると聞いた。
小野りりあん(以下、小野):今は飛行機を使わずに世界の環境活動家や専門家に会いに行く旅をしているところなんです。昨日まではベルリンにいて「フライデー・フォー・フューチャー」の活動をしている子たちと出会い、そのツテをたどり今はハンブルクにいます。CO2を出さない旅とはどんなものか体験してみたくて始めました。出発点は東京で、東京から鳥取まで夜行バスで行き、そこからフェリーでモスクワまで10日間かけて行きました。
WWD:環境のためにアクションを起こそうと思ったきっかけは?
小野:北海道の自然が身近に感じられる環境で育ったことは大きいですが、一番はデンマークの教育機関フォルケホイスコーレで学んだことですね。そこで同年代の子たちがいろいろ考えて行動を起こそうとしているのを見ました。日本でも同じように問題意識を持って行動している子たちに会いたいと思い、NGO団体の350.orgに入りました。そこで、「スパイラルクラブ」代表の清水いあんと出会ったんです。
WWD:自分が生まれ育った土地の自然が壊れ始めていると感じる?
小野:それはひしひしと感じています。気温や空気も変化しているなと。私が子どもの頃は、北海道に梅雨はなかったのですが、今はあります。最近では農家の人から作物が育たなくなったと聞きますが、それも気候変動の影響なのだろうと思います。日本でもちょうど大きな台風が来ましたが、今は世界各地で森林火災や大洪水などが起きています。子どもの頃にそんな未来が来たらどうしようと不安に思っていた未来が、もうすでに来てしまった感じがします。
“環境について話そう!”をテーマに掲げたオープンコミュニティー
「スパイラルクラブ」
WWD:立ち上げに関わっている「スパイラルクラブ」について教えてほしい。
小野:「スパイラルクラブ」は、“環境について話そう!”をテーマに掲げたオープンコミュニティーです。環境に関心のある友人たちと、もっとみんなが自由に話ができる場を作りたいなと思って始めました。編集長の役職はあえて作らず、23人のメンバーそれぞれが、誰かとシェアしたい環境にまつわる情報を自由にアウトプットしています。
WWD:小野さんはどういうコンテンツを発信してきたのか?
小野:個人の生活レベルで、いかに環境に配慮したライフスタイルに変えていけるのかを中心に発信しています。これまでには、「ゼロウエイストピクニックやってみた」や「温暖化解決に向けて、私がやっている5つ以上のこと」といった記事を書きました。
WWD:「スパイラルクラブ」が毎月開催しているオープンミーティングとは?
小野:「スパイラルクラブ」が主催する誰でも参加できるミーティングです。毎回、その月の担当者が関心のあることをテーマにしています。これまでは、環境に配慮した歯磨き粉を作るワークショップをやったり、食の生産に関する動画を見てディスカッションをしたり。ちょうどアマゾンの森林火災が話題になったときには、その問題の背景についてみんなで話し合いました。自分たちが好きな本を紹介し合うこともありますよ。
WWD:どんな人たちが集まっている?
小野:だいたい20人くらいが集まっていて、平均年齢は20代前半くらい。もっと若い子もいれば親世代の人も来てくれます。日本で勉強している留学生のなかには、日本にいながら環境問題について活動したいと思う人たちが結構いて、そんな人たちが「スパイラルクラブ」に来てくれることもあります。けれど、最近は日本の大学生が増えている感じがします。ラジオ番組のJ−WAVEで紹介されることがあり、それを聴いて応援しようと思って来てくれる大人も多いです。
現状を変えていこうと
努力する人たちと一緒に働きたい
WWD:モデル業をやりながら、ファッション業界に対してどんな思いを抱えていた?
小野:モデルをやっていますが、正直現在のファッション業界のあり方には賛同できていません。ファッションとは自己表現の一部であるし、アートでもある。楽しいものであり続けていいはずだけれど、私たちはもう十分なほど生産しました。あり余って捨てるものばかりになったいま、すでにあるものでファッションを楽しむことはできると思います。
WWD:モデルの仕事をしていることに抵抗を覚えたことはある?
小野:最近は特にありますね。一緒に働いている人たちのことはとても好きで、一緒にクリエイティブなものを作ることも楽しい。けれど実際自分がやっていることは、本当は人々に必要のないものを要るように思わせる作業だったから、心が痛くなるときもありました。そこに対して疑問を持っていない人たちとコミュケーションを取る難しさも感じています。みんなを嫌な気持ちにしたいわけではないから、相手を否定せずに「ノー」と言うにはどうしたらいいのだろうと悩んだりもします。
WWD:洋服はどれくらい購入する?
小野:旅先の古着店や友達の展示会で買うことはありますが、あまり新しいものは買いません。自分が欲しいと思う最低限のモノしか持っていないです。
WWD:捨てることもない?
小野:基本的には周りの友達にあげています。フリマに出すこともありますね。環境活動に関わっていた母から“無駄にしない精神”を受け継いでいるのだと思います。
WWD:海外と比較して、環境問題に対する日本の人々の意識をどう見ている?
小野:最近は、エシカル消費やプラスチック問題に関する問題意識が高まってきていますね。若い子たちの間では、環境に配慮しているモノがあるのならばそちらを選びたいと思っている子たちが増えていると思います。日本がよく環境意識が低いと言われる原因は、情報の少なさにあります。やはり、英語がわかると環境問題に関する情報が毎日入ってきますが、日本語だと同じ情報が少ない。環境を気にしていないのではなく、ただ知らないだけ。情報があって知っていたら、今の状況にはなっていないと思います。だから私は、この旅を通して見たことや聞いたことをできるだけ日本語で伝えていきたいと考えています。
WWD:旅を終えた後のプランは?
小野:この問題に対して何かアクションを起こしたいと思っている老若男女をつなげ、ムーブメントを作っていきたいです。日本でも問題意識を持っている人たちを多く知っているけれど、彼ら・彼女たちが一緒になって動けていない現状があります。正直、消費に興味はないけれど、コミュニティーになるようなゼロウエイストショップを作ることも考えています。ただ、これまでモデルをやってきたことにで、ある意味人に見てもらえる立場にいて。「スパイラルクラブ」のオープンミーティングにも、私のインスタグラムを見て参加してくれている子もいます。今の自分の影響力を生かさずに、裏方に回るのはもったいない気もするので、自分のインフルエンサーとしての価値をうまく活用していきたいなといろいろ考え中です。
WWD:「WWD ジャパン」の読者には、ファッション業界に携わる人も多い。そんな読者に向けて伝えたいことはある?
小野:消費を楽しむ時代はこのままいけば終わってしまいます。それは誰も望んでいません。サステナビリティを語る上で絶対見逃してはならないのは、CO2の排出量です。自分の製品の排出量、そして国内外の輸送を含めて、遅くても「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことを一番の目標にしない限り、業界も社会も持続できません。これは科学的に証明されています。企業やブランドはまだ見ぬ技術が開発されることを待たずに、生産面、輸送面、販売面の全ての面でどうやったらCO2ゼロにつながるかを軸に考えてみてほしいです。もちろん、障壁はあるだろうけれど私はその変化のお手伝いをしていきたいです。変えていこうと努力する人たちと一緒に働きたいです。