※この記事は2019年6月18日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
「セリーヌ」新店に見るエディのセンス
上から目線な表現になりますが、こう言いたい。“やはりエディ・スリマン(Hedi Slimane)のセンスはいけている”と。「セリーヌ(CELINE)」がこのほどパリにオープンした新店の写真を見て思いました。
記事にはその特徴について「20世紀の建築様式のブルータリズム、モダニズム、バウハウス、オランダの芸術運動デ・スティル、それぞれの要素が掛け合わされたデザイン」とあります。難解な呪文のようですが、大胆に解釈すると「洗練されたむき出し感、機能的で厳格、同時に温かみもあるモンドリアン的構成の空間」ということでしょうか。違いますでしょうか。とにかく写真を見る限りカッコいい。
店内の彫刻などは4人の女性アーティストによるものだそうです。ティンカ・ボック(Katinka Bock)、フー・シャオユアン(Hu Xiaoyuan)、ジョージア・ディッキー(Georgia Dickie)、ロシェル・ゴールドバーグ(Rochelle Goldberg)。勉強不足ですみません、と思いながらインスタグラムでハッシュタグ検索してみるとその数は数百から多くて1500と、世にはまだあまり知られていないアーティストたちのようです(ちなみに#KAWSは103万)。無名ではありますが、いずれの現代アートもインスタ上の写真を見るだけで心地よいものでした。
ここで思い出すのが、エディ・スリマンが得意とするショーモデルのストリートハントです。エディが作るショー(キャンペーンも)は、モデルが非常に重要で、その多くが若く、無名ながら個性的な顔や態度が印象に残る人が多い。新しい価値観を表現するのに不可欠な存在です。
新しい店を装飾するのに選ばれた4人の女性アーティストたちの考え方も、モデルのキャスティングの考え方に通じるものがあります。今の「セリーヌ」の「態度」を決定づける存在として厳選したのでしょう。
デザイナーの仕事は、大きくは「クチュリエ(服を作る人)」と「スタイリスト(スタイルを作る人)」に分かれるかと思いますが、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)が前者ならイヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)は後者、アルベール・エルバス(Alber Elbaz)が前者ならエディ・スリマンは後者。極論すれば前者は着る人が主役のオートクチュールやテーラーが頂点であり、後者の主役はスタイル自体と言えるでしょう。ディオールやエルバスの服は着る人を包み込むような優しさがあり、サンローランやエディが作る服は自分の個性を押し殺してでも着てみたい欲望を喚起させる力があります。当時、70歳近かったカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)がエディの服を着たくて大幅ダイエットに成功したのは有名な話です。
「セリーヌ」就任時には危ぶまれた(私が危ぶんだ)、50歳を超えたエディ・スリマンのセンスの進化はどうやら止まっていない。直線好き(!?)のエディが、存在感あるらせん階段を選んでいるのを見てそう思いました。 “みんな違ってみんな良い”時代ではありますが、ファッション界にはやはり圧倒的にイケていて先を行くリーダーもまた必要なのです。さて、3シーズン目はそのセンスが服にどう反映されるのか、楽しみです。
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