「WWDジャパン」12月9日号では、「みんなの疑問・不安に4人の弁護士が答えるファッションロー特集」を予定している。“ファッションロー”とは、“民法”や“労働法”など、個別の法律を指す言葉ではなく、ファッション産業に関係するあらゆる法律の総称だ。言い換えるなら、“民法”の中でファッション産業に関係する部分も、“労働法”でファッション産業に関係する部分も全て“ファッションローの一部”ということになる。
とはいっても具体的なイメージを持ちにくい“ファッションロー”について、その成り立ちや誕生の背景をファッション・ロー・インスティテュート・ジャパン(FASHION LAW INSTITUTE JAPAN以下、FLIJ)の創設者、金井倫之・弁理士兼ニューヨーク州弁護士に聞いた。
WWD:ずばり、ファッションローとは?
金井倫之・弁理士兼ニューヨーク州弁護士(以下、金井):それぞれの法律を縦串とするならば、ファッション産業という横串を刺したときに引っ掛かってくる部分を“ファッションロー”と呼びます。アメリカでは“エンターテインメントロー”や“スポーツロー”、“フード&ベバレッジロー”など、産業ごとに分類することはよくあります。
WWD:横断的に習得するということは、それぞれの法律の全体像や深い部分は見過ごされることになる。横断的に学ぶことのメリットは?
金井:基本的には、「〇〇法の全てを学ぶより、産業にとって必要なところだけを横串で勉強した方が効率的だ」という発想なのでしょう。産業ごとによく使う法律は違いますから。米国はファッションデザインの保護制度が遅れているといわれています。日本では不正競争防止法で守れるようなものも米国には類似の法律はありませんし、意匠法だけで完璧に保護しようと思っても厳しい。こうなると横断的に必要な法律の必要な部分を学んで組み合わせて使っていく必要あるわけです。弁護士などの法律家は体系的に学ぶ必要があるかもしれませんが、デザイナーや企業の実務担当者にとっては実務に必要な法律だけを勉強すればよいと思いますし、そういう意味では産業ごとに横串で学ぶことには意味があると思います。
WWD:“ファッションロー”という考え方はどのようにしてできた?
金井:ニューヨークにあるフォーダム大学(Fordham University)の教授、スーザン・スキャフィディ(Susan Scafidi)が2010年にアメリカファッション協議会(CFDA)から100万ドル(約1億900万円)の援助を受けて大学内にNPO法人「ファッション・ロー・インスティテュート(以下、FLI)」を立ち上げたことが始まりです。フォーダム法科大学院ではファッションローの講義も開かれています。
WWD:フォーダムの講義ではどんなことを学ぶ?
金井:私は14年に「ファッション・ロー・ブート・キャンプ」という集中講座を取り、そこでは知財のほかに、モデルの人権や独占禁止法、税関対策などを学びました。このときは50人ほどが参加していて、デザイナーとアパレル企業の実務担当者と弁護士などの法律家がそれぞれ3分の1ぐらいずつでした。
WWD:金井さんは「FLIJ」を立ち上げているが、ここではどんな活動をしている?
金井:メンバーと3カ月に1度のペースで勉強会を開いたり、ニュースレターを通じて情報提供したり、専門学校などでファッションローの授業をしたりしています。ロビーイング活動などもやります。
WWD:会員数と勉強会の内容は?
金井:会員企業数は9社です。勉強会では、「こういうことに困っている」といった相談や、「こういうことがありました」という情報共有です。法律論などを話し合ったり、海外の判例研究も行います。1回の勉強会に参加するのは多くて20人ほどです。自社のことも相談するので、人を増やしすぎると相談しにくくなったり情報が漏れる心配もありますから、あまりオープンな会にしていないのが現状です。
WWD:FLIJを立ち上げた背景や思いは?
金井:14年にフォーダムの講義を受けて、日本でもFLIのような機関があったらおもしろいかなと思い立ち上げました。ファッション業界では法務が後回しになりがちですよね。「問題が起きたときに考えよう」という企業も多い。日本でも訴訟が増えてきたこともあって、ファッションローを考える場所だったり、デザイナーさんが困ったときの駆け込み寺だったり、そんな“場”になるといいなと考えています。