ファッション

デザイナーズブランドの強い味方 ファッションロー弁護士が提案する“リーガル・ディレクター”としての役割

 「WWDジャパン」12月9日号では、ファッション業界から集めた法律問題や悩みを弁護士4人が回答する「ファッションロー特集」を予定している。回答者の一人、三村小松法律事務所の小松隼也・弁護士は、弁護士のほかに“リーガル・ディレクター”を名乗る型破りな人物だ。

 何が“型破り”なのかを知るためには、“弁護士”や“弁護士業界”を取り巻く環境を知ることが必要だ。

 弁護士は悩めるクライアントの味方であることは間違いない。しかし、企業の担当者からすれば、高い専門性を持つ弁護士は敷居が高く気軽にコミュニケーションをとれる相手ではない。また、日本弁護士連合会の会則で広告宣伝が制限されていた時代があったり、そもそも弁護士の人数が少なかった時代は自ら営業しなくても仕事があったため、積極的に企業に働きかけるというマインドが弁護士業界に醸成されてこなかったことも手伝い、弁護士と企業の間には少なからず壁があると言える。

 中には例外的な弁護士もいるため一概には言えないが、一般的な印象はこんなところだろう。しかし、弁護士の人数が増えたことや、すでにどの企業も決まった法律事務所に仕事を依頼している状況ができあがっていることで、中堅・若手弁護士が新規のクライアントを獲得することが困難な時代になっている。

 そんな弁護士業界の中でもスタートアップやイノベーション分野など、時代の移り変わりに伴い新たに出てきた分野に特化することで注目を浴びる弁護士や新興の法律事務所が、ここ数年の間で増えてきている。その中でファッション業界を舞台に“リーガル・ディレクター”という新しい関わり方を提案することで注目されているのが小松弁護士だ。

 リーガル・ディレクターとは、「一言で説明すると、ビジネスにおける戦略をクライアントと共に考えるパートナーだ」と小松弁護士は言う。「例えば、ビジネスを立ち上げて最初の投資の段階から、商標登録、さまざまな協業先との契約、M&Aによる事業譲渡までビジネスに一貫して関わることで、『株式はこういう条件がいいよね』とか、『中国ではすぐに商標を取ろう』『工場さんと仕事するときは、これだけはメールで決めておいた方がいいよ』とか、コレクションの内容について『この国は法律が厳しいからパロディーはここまでにしておこう』とか、雇用に関しても『労働基準監督署はこういう考え方をするので、業務委託の内容はこうしよう』といったように、プロジェクトが始まる前からタッグを組んで一緒に考えることで、先の予測を立てることができます。何か起きてから対応することも弁護士にとって大切な仕事ですが、戦略を組める弁護士の方がトラブルを未然に防げますし、ビジネスに新たな選択肢を追加してもらうことができると思っています」。

 ファッション業界では、社長を兼任するデザイナーと片手で足りるくらいのスタッフでビジネスを始めるブランドも多い。その場合、法務の機能は持たずにスタートするため、企画段階から法務が関わることはないばかりか、トラブルが起きるまで後回しにされることもざらだ。「デザイナー=社長のようなブランドだと経営や法律が得意というわけではないので、『いざ条件交渉を始めるといっても何を決めなきゃいけないかが分からない』という相談も多いです」と小松弁護士も語る。「自分に相談をしてもらえたら、『パーセンテージ、納期、費用負担、それから型数をまずは決めましょう。次に販売する国、知財の取り扱い……』といったように、これまで培ってきたノウハウを生かして法律以外の部分もアドバイスできるんです。このように、契約やトラブル解決の知識を生かして戦略を含めたアドバイスをするのがリーガル・ディレクターの役割です」。

 つまり、言われるままに契約してしまって後でトラブルに発展するといった悲劇を、契約交渉の段階からアドバイスするなどして未然に防ぐのもリーガル・ディレクターの役割だ。弁護士が納期や型数などに口出しするのは、“専門外の人間のお節介”に思えるかもしれない。しかし、小松弁護士のように特定の産業のクライアントを多く抱える弁護士のところには他社の情報やノウハウが蓄積されるため、ビジネス面でも有効なアドバイスをすることができるのだ。

 中小企業の多いファッション産業においてはコストの面も気になるところだ。ただでさえ弁護士に頼むのは費用面がネックになるところを、ビジネス面までアドバイスを受けるとなると依頼したくても難しいこともあると思う人もいるだろう。これに対して「むしろトラブルになってから依頼される方が余計にコストがかかることも多いです。例えば『毎月月額2万5000~5万円で合計1~3時間までならどんな相談にでも乗る』といった形でご依頼いただければ、ビジネスの幅を拡げる選択肢を提案しつつ、無用なトラブルを未然に防ぐこともできるため、トータルでみればコストは抑えられるはずです」と説明する。

 “リーガル・ディレクター”を名乗っていなくても、同様の役割を果たしている弁護士は一定数いるし、コンセプト自体は決して新しいものではない。しかし、弁護士の業務内容に“リーガル・ディレクション”という名前を付けることで、依頼者側の心的ハードルを下げることが小松弁護士の狙いであり、事実、それは成功しているといえる。

 「プロジェクトの完成間近で相談に来られても『これはアウト』としか言えないこともありますが、企画段階から相談してもらうことで自由度が増して、とてもおもしろいコレクションに仕上がったこともあります。『弁護士に相談してできることが広がった』と言われるのが一番うれしいですね」と小松弁護士。ファッション業界にとって強い味方が誕生した。

YU HIRAKAWA:幼少期を米国で過ごし、大学卒業後に日本の大手法律事務所に7年半勤務。2017年から「WWDジャパン」の編集記者としてパリ・ファッション・ウイークや国内外のCEO・デザイナーへの取材を担当。同紙におけるファッションローの分野を開拓し、法分野の執筆も行う。19年6月からはフリーランスとしてファッション関連記事の執筆と法律事務所のPRマネージャーを兼務する。「WWDジャパン」で連載「ファッションロー相談所」を担当中

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