ファッション

「アミ」のウィメンズが日本上陸 デザイナーの思い、CEOの狙い

 「アミ アレクサンドル マテュッシ(AMI ALEXANDRE MATTIUSSI以下、アミ)」は、2019-20年秋冬コレクションからウィメンズ・コレクションを本格始動し、店頭販売を開始した。そのプロモーションも兼ねて、中国と韓国、最後に日本を巡るアジアツアーを今秋行い、各都市でランウエイショーやパーティーを開催。東京でのイベントには、ウィメンズコレクションをまとったインフルエンサーやモデルをはじめ、メディア関係者らが200人以上も訪れて大盛況だった。ビジネスも好調という「アミ」が愛される理由とは?また20年春夏コレクションでシャープに変化したクリエイションの先に、どのような未来を描いているのか?クリエイション面をデザイナーのアレクサンドル・マテュッシ、ビジネス面をニコラス・サンティ・ウェイル(Nicolas Santi-Weil)CEOに聞いた。

デザイナーの思い
「スタイルを貫くこと。そして
誰に届けたいかを常に考えること」

WWD:ウィメンズは2019年春夏シーズンにパリのみで試験的に発売した後、翌シーズンから日本を含む世界でも販売を開始した。その意図は?

アレクサンドル・マテュッシ=デザイナー(以下、アレクサンドル):自分自身で納得できるウィメンズのコレクションを作るには時間が必要だったからなんだ。それとパリの店舗に絞って販売することで顧客と対話することができ、実際に購入してくれた客層やニーズをリサーチできたのもよかった。19-20年秋冬からは世界でも販売を始めたけれど、その姿勢は継続したいから一部の都市に販路を絞っている。一気に拡大するのではなく、ニーズがある顧客に確実に届けたいからね。

WWD:ウィメンズをデザインするときは、メンズと何が異なる?

アレクサンドル:基本的なことは変わらない。というよりも、変えていないという方が正しいかな。ブランドとしての一貫性を大切にしているから、同じ素材やモチーフを使うように意識している。これまで培ってきたメンズウエアの基礎的な部分はあえて崩さず、女性の体型に合わせて袖丈や肩幅を調整しているんだ。東京で販売しているのは15型程度とコレクションとしてはまだ大きくないけれど、将来的には拡大してきたい。近い将来、ウィメンズの世界観を表現できる店舗を東京に開きたいと思っているよ。

WWD:女性客に届けたい、「アミ」の一貫性とは?

アレクサンドル:エレガントでシック、いい生地を使って洗練されていること。そして、パリらしくあること。特定の女性像は描いてないけれど、デザインはシンプルだから、スタイルが確立されている女性のワードローブに取り入れてもらいやすいような服を作りたい。たとえば19-20年秋冬コレクションでは、テーラードやシャツ、スーツなどベーシックな服が中心だけど、ディテールやフォームにヒネリを加えて味のあり仕上がりを意識した。

WWD:2020年春夏のコレクションでは、これまで一貫していたフレンチベースのカジュアルからシャープなフォーマルに変化したように感じたが?

アレクサンドル:どう?好きだった?20年春夏は習慣化していたデザインを一度封印し、シャープでクラシックなテーラリングを提案してメンズウエアの原点を探求したかった。同じモノは作り続けたくないし、自分自身も新鮮な気持ちで仕事に取り組めたよ。とはいえ、シルエットやフィット感などから醸し出すムードはこれまでと同じさ。次のコレクションでは、新旧のクリエイションを融合したスタイルを見せられると思うよ。

WWD:クリエイションの変化は、世界的なフォーマル回帰も影響している?

アレクサンドル:それはあまり関係ないかな。あくまで、自分の考えや気分でたどり着いたスタイルさ。ストリートウエアの流行やフォーマル回帰、何色が流行るといったトレンド考察はあるけれど、広い視野で見ればどんなスタイルや色だって存在している。ピンポイントでコレと決まったものって本来はないと思うんだ。だから僕たちはシックであり、クールなスタイルを今度も貫くだけ。そして、誰に届けたいかを常に考えながらね。

CEOの狙い
「土台はできた。次は
さらに認知を広げていく段階」

WWD:現職に就任した経緯は?

ニコラス・サンティ・ウェイルCEO(以下、ウェイルCEO):前職はパリのファッションブランド「クープルズ(THE KOOPLES)」の共同創設者として経営などに携わっていた。2012年に投資家の友人から「あるファッションブランドに投資したいから見てきてほしい」と連絡があり、それが「アミ」だった。パリの百貨店ボン・マルシェ(LE BON MARCHE)とプランタン(PRINTEMPS)にちょうど店を開いたタイミングだったので、ランチタイムに視察に行くことにした。店を訪れると服はもちろん、スタッフの接客も熱心でとても気持ちよく、すぐにファンになった。友人にすぐ連絡し、「デザイナーに会いたい」と自分から頼んだ。アレクサンドルのポジティブな性格やビジョンにも共感し、現職へのオファーに快諾したのを今でも覚えている。

WWD:ブランドのビジネスの現状をどう見ている?

ウェイルCEO:順調に成長している。売上高は公表できないが、昨年は前年比25%増で今年は同35〜40%増を見込んでいる。急激に伸びているわけではないし、ゆっくりでもないバランスがとれたペースだ。家に例えると、少なくともメンズに関しては土台が完成したところ。でも僕たちが描く「アミ」という家にはまだ2階もなければ屋根もない。いずれは庭やプールや作りたいけど、全く焦ってはいない。

WWD:では現在の重要課題は?

ウェイルCEO:土台はできたので、次はさらにブランド認知を広げていく段階。今は音楽や映画などのカルチャーが好きな高感度の層には知られているが、より広げたいと考えている。ただし、「アミ」らしいパリのムードは一貫させ、友達の輪を広げていくイメージ。現在の直営店舗はパリに3店、ロンドンと東京、香港、北京、成都に1店舗ずつ構えている。だから、アメリカに出店することが次の大きな目標だ。客層を広げるためにはオンラインも重要で、各都市で順次開設した公式ECも好調だ。オンラインやオフライン、創業地パリだけではなくそれ以外の都市、コアなファンと新規顧客の売り上げなど、全てにおいて偏りがないバランス感を意識していきたい。

WWD:バランスと繰り返しているが、現在の売上比率も狙い通りなのか?

ウェイルCEO:今の売り上げ比率は卸が50%で、直営店が30%、ECが20%と狙い通りだ。ウィメンズを始めたことで、今後は売上高自体がさらに伸びると期待している。実はウィメンズを始める前から、30〜40%の売り上げは女性客によるものだった。だから新しく女性客を獲得することができれば、数字だけではなく知名度も自然な形で広まっていくと考えている。出店もウィメンズの販路も、急激に増やすことではない。前職では3年間で300店舗をヨーロッパだけで出店するというクレイジーな経験をしてきた(笑)。だからこそバランスを常に意識し、それが奏功している。バランスの良さこそ、「アミ」の土台を築いてきたものだから。

WWD:CEOとして、デザイナーのアレクサンドルに今度何を期待したい?

ウェイルCEO:彼はクリエイティブを担うブランドのパイロットだとすると、僕はビジネスを担う副操縦士。役割は異なるけれど、店を出店したり、ECを開設したりなど何かを決断するときはお互いが納得したものだけを進めてきた。だから今後も互いに本音をぶつけ合っていきたい。彼と話すと分かると思うけど、本当に素直な性格で考えをそのまま伝えてくれる。彼に何かを期待するというよりも、自分がその気持ちに応えるためにはっきりとした意見を持ち続けたい。

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