10月31〜11月4日にジョージアの首都トビリシで「メルセデス・ベンツ・ファッション・ウイーク・トビリシ(MERCEDES-BENZ FASHION WEEK TBILISI)」が開催された。今季は2015年にスタートしてから10シーズン目の節目を迎えた。資源が少ないことや国自体の経済的な問題から生地や縫製の質にはやや難はあるが、独自の美意識から生まれる創造性は多くの人を魅了していた。世界中から来場した約100人の招待者の中から、複数のバイヤーとプレスに注目ブランドについて聞いた。
SITUATIONIST
「抜きん出た独自性」と絶賛
1 / 9
数シーズン前にショールームのトゥモロー(TOMORROW)と契約した「シチュエーショニスト(SITUATIONIST)」と「マテリアル(MATERIAL)」は、世界中にアカウント数を一気に増やして消化率も好調のようだ。特に「シチュエーショニスト」は、今季インターナショナルゲストから最も高い評価を得た。イタリア版「ヴォーグ(VOGUE)」の編集者リカルド・テルツォ(Riccardo Terzo)は「トビリシで最も良質なブランド」と称した。「ジョージアの歴史と遺産を、完璧にウエアラブルな衣服に転換できる唯一のブランドだ。1990年代の『ヘルムート ラング(HELMUT LANG)』っぽいミニマルなアプローチと、くすんだカーキやサンドといった色彩も毎シーズン非常に効果的である。アクセサリーやスタイリングが十分ではないが、今季も一番クールなコレクションだった」とコメントした。
柴田麻衣子リステア(RESTIR)クリエイティブ・ディレクターも同ブランドに高評価をつけた。「デザインから生産までを全てジョージアで行っていることが本当にすごいと感心したし、第三国の商品には見えないほど品質も高い。(資源が少なく選択肢が限られていることから)ジョージア発ブランドの世界観は似通ってしまうものだが、『シチュエーショニスト』は抜きん出て独自性が明確だ」と説明した。日本ではカシヤマ ダイカンヤマ(KASHIYAMA DAIKANYAMA)で販売するほか、伊勢丹での取り扱いも決まっているという。
TAMRA
高いセンスは評価されるも品質が課題
1 / 8
スケートカルチャーがベースのストリートウエア「タムラ(TAMRA)」は2シーズンぶりにショーを行った。ホテル「スタンバ(Stamba)」のインダストリアルな雰囲気の地下スペースを会場に、回転する丸いボードの上に順にモデルが乗るといった突飛な演出だ。解体した古着の布を使った衣服と、ワークウエアやジャケット、スキーウエアなどを無作為に組み合わせたルックがコレクションを飾った。筆者にとっては今季最も印象に残ったショーで、中国版「エル(ELLE)」やポーランド版「ヴォーグ」などプレスからは注目を集めた。柴田氏に感想を求めると「演出や音楽、キャスティングがほかと違うアプローチでセンスが良い。『タムラ』に限らずほかのブランドも、トビリシという独特の雰囲気の中で見ると、まるで魔法がかかったのように素敵に映ることがある。しかし、商品を店頭に並べただけだと高円寺っぽい古着感も否めない。冷静になって考えると、買い付けにまでは至れないケースが多々ある」とバイヤーらしい視点を述べた。
BABUKHADIA
時代感を捉えた品の良いモノ作り
1 / 6
「タムラ」とは全く異なる毛色ながら、筆者の印象に残っているのは「バブカディア(BABUKHADIA)」だ。ショーで見たルックからは、新生「ボッテガ ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」をほうふつとさせる、エレガントで程よく肩の力が抜けた都会的な女性像が浮かんだ。凝ったディテールや洗練された雰囲気、レザーと刺しゅうの上質さは格別。パリのコンセプトストア、トム グレイハウンド(TOM GREYHOUND)のバイヤーを務めるエカテリーナ・グラズノヴァ(Ekaterina Glazunova)も気に入った様子で、実際にショールームでサンプルを試着しながら細部をチェックしていた。「イタリア産の上質なレザーと絶妙なニュアンスカラーが美しい。ボタンやベルトの付け替えによって、シェイプやデザインを何通りにも変えることが出来るディテールも気に入った」とかなりの高評価だったが、オーダーまでには至らなかったという。「価格帯が高過ぎた。コートで約20万円だと、『ジル サンダー(JIL SANDER)』『ロエベ(LOEWE)』『マルニ(MARNI)』と同じフロアに陳列することになる。たとえ品質が高くても、顧客は知名度の高いブランドと比較して『バブカディア』に手を伸ばすことは少ないだろう。トビリシを過去数シーズン訪れて素敵なブランドをいくつか見つけたが、高い価格帯が買い付けへのネックになっている。マーケティングを強化し、税金や配送料も考慮した上で価格帯を見直すべき」と語った。
INGROKVA
メンズ誌編集長が目をつけた注目株
1 / 4
世界中から訪れた招待客はウィメンズ担当のプレスやバイヤーが多い中で、メンズ雑誌「ファッキン ヤング(Fucking Young)」の編集長アドリアーノ・バティスタ(Adoriano Batista)はメンズブランドに注目。彼が評価したのは「シチュエーショニスト」と「インゴロヴァ(INGROKVA)」だ。ウィメンズブランドとしてスタートした「インゴロヴァ」は、ジジ・ハディッド(Gigi Hadid)やレディ・ガガ(Lady Gaga)といった著名人が着用したことでメディアでの露出が増え、19-20年秋冬からはドーバー ストリート マーケット ロンドン(DOVER STREET MARKET LONDON)で取り扱いが始まった勢いのあるブランドである。今季のショーではメンズモデルを起用し、ユニセックスとしてのイメージを打ち出した。バティスタは「将来的にメンズラインを展開していく場合、今季提示したルックはとても良い出発点となるだろう。潜在的な可能性を感じた」と述べた。