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カシオの「G-SHOCK」が“CMF力”で切り開く未来

 カシオ計算機の「G-SHOCK」は“落としても壊れない丈夫な時計”という画期的なコンセプトの下、1983年に誕生した。2018年には35周年を記念してニューヨークをはじめ、世界各地でビッグイベントを開催し、多くのスペシャルモデルを発売した。その結果、第1次ブームを知る40代はもちろん、第2次ブームが20代にも波及している。「G-SHOCK」のアイデンティティーといえば“タフネス”だが、モノ作りの最前線では別のキーワードが合言葉になっている。それが“CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)”だ。同ブランドの開発拠点である東京都羽村市の羽村技術センターを訪れ、キーマンに話を聞いた。「G-SHOCK」が40周年に向けて見る未来とは?

“タフネス”だけじゃない
「G-SHOCK」の魅力

 “タフネス”は「G-SHOCK」のアイデンティティーだ。しかし、赤城貴康カシオ計算機羽村技術センター 開発本部 時計企画統轄部 第一デザイン企画部 11デザイン室 リーダーは、「“『G-SHOCK』らしさ”を形成するものはそれだけではない。“CMF”も重要なエンジンの一つだ」と話す。

 Cは色(カラー)、Mは素材(マテリアル)、Fは仕上げ(フィニッシュ)を指し、同社は3つの柱をそれぞれ充実させることで「G-SHOCK」の各シリーズを進化させている。そしてCMF力の強化に欠かせないのがデザイナーとエンジニアの密な協力体制であり、その最前線が羽村技術センターだ。「ここでは日々、CMF関連の新しい技術が開発されている。そのたびにわれわれデザイナーは、エンジニアからプレゼンテーションを受けている。両者は常に『この技術が何に役立つか、何に使えるか』を議論しており、このコミュニケーションがあるからこそCMF力が増幅できる」。最近の新作には、このCMF力の充実・進化から生まれた、これまでにない魅力を持つ「G-SHOCK」がいくつもある。

 例えば、樹脂とメタルを組み合わせた“大人のための「G-SHOCK」”である“MT-G”シリーズの20周年記念モデル“MTG-B1000RB”は、カラーの成功例の一つだろう。今年3月にスイスで行われた、世界最大級の時計・宝飾見本市「バーゼル・ワールド(BASEL WORLD)」で発表された同モデルは、ドイツの19年度iFデザイン賞を受賞した18年発売の“MTG-B1000”をベースにしており、ステンレススチール製ベゼルに新開発のレインボーIP(イオンプレーティング)加工を施している。「夜間にまれに月の光で発生する虹、月虹(げっこう)を表現するため、この技術を採用した」と述べ、ダイバーシティー(多様性)も表現するレインボーカラーの“MTG-B1000RB”は世界中のファンに受け入れられ、「G-SHOCK」の新たな扉を開けた。

 マテリアルの進化としては、2つの具体例がある。1つ目は“DW-5000C”から35年を経て18年に発売した、フルメタルモデルの“GMW-B5000D-1JF”だ。「“GMW-B5000D-1JF”は、15年の『バーゼル・ワールド』で市場ニーズを探るために一部の関係者にのみ公開した18金製モデルのプロトタイプがきっかけで誕生した。同見本市で高い評価を得たため、『G-SHOCK』35周年の最後を飾るアニバーサリーモデルとしてプロジェクトが正式にスタートした。その過程で、スクエア型のベゼルとケースの間に衝撃を吸収する樹脂を挟むという新たな耐衝撃構造が開発された。この技術を転用したステンレススチール製のフルメタルモデルが、18金製モデルより先に製品化された」。実はフルメタル化のアイデアは過去に何度か同社内で提案されてきたが、耐衝撃構造の壁が超えられず何度も頓挫したという。「金というマテリアルへの挑戦が、長年のアイデアを結実させた。18金製モデルの製作は、CMF化による製品開発の有効性を再認識させた、『G-SHOCK』にとって転機となった出来事だった」。2つ目は、今年10月に登場した“MTG-B1000XBD-1AJF”だ。ステンレススチールに代え、積層部にアクセントカラーを利かせたカーボンファイバーを“MT-G”シリーズで初めてベゼルに採用した。これにより疾走感のあるスポーティーなイメージが実現した。

 フィニッシュの代表例は11月に発売した、ステンレススチール製のケース&バンドにカモフラージュ柄を加えた“GMW-B5000TCM-1JR”だ。硬度や耐久性を向上させるDLC(ダイヤモンドライクカーボン)加工を施した表面に、大きさの異なる3つのドットをレーザー照射してカモフラージュ柄を表現した。塗装とは違って、劣化しにくいのが特徴だ。「売れ行きは上々だと報告を受けている。この技術は今後さらに活用していく予定だ」という。

羽村技術センターには
実験室もある

 “タフネス”がコンセプトの「G-SHOCK」にとって、製品開発に欠かせないのが、プロトタイプ段階での独自基準による徹底したテストだ。羽村技術センターには、このテストのための特別な部屋“時計部門・品質保証実験室”がある。190項目もの評価基準があり、1モデルにつき平均約100項目のテストが行われる。「G-SHOCK」に求められる基準をクリアするため、テスト装置の多くは社内で開発・製造したものだ。

東京・羽村生まれのアイデアを
形にする山形工場

 「G-SHOCK」をはじめとするカシオ計算機の時計の開発は、全て羽村技術センターで行われる。そしてフラッグシップモデルの製造を担当するのが、サクランボの産地としても有名な山形県東根市にある、山形カシオだ。ここでムーブメントなど多くの部品を生産している。注目すべきは、“メダリスト”と呼ばれる資格を持つ全社でわずか十数名の熟練工が、時計の最終組み立てを行う“プレミアム・プロダクション・ライン(PPL)”だ。“人とテクノロジーの融合”を目標とし、“メダリスト”と独自開発の機械が協力して時計の組み立てを一つ一つ行っている。時計の組み立てラインとして、世界有数の精度が自慢だ。

カシオは「G-SHOCK」のみならず!
「オシアナス」もCMF

 羽村技術センターでのCMF力強化によって、自身の殻を破る製品開発に取り組んでいるのは「G-SHOCK」だけではない。2004年にスタートし、“最先端技術とアナログ時計の魅力をミックスした時計を作る”をモットーとする「オシアナス」も同様だ。ただし「オシアナス」が目指すのは“絶対的な精度”と“時計としての美しさ”だ。そして美しさに関してカラーとマテリアルの追究から生まれた最新モデルが、琥珀色と青という2つの色を蒸着したサファイアクリスタルベゼルに、江戸切子の職人技を組み合わせた“OCW-S5000D-1AJF”だ。

 最後に赤城リーダーに「G-SHOCK」の、ひいてはカシオ計算機の未来について聞くと、「タフネスとCMF力を動力に、2020年には今までにない画期的なもの、より面白いものをお見せできる予定だ。期待してほしい」と力強く答えた。

PHOTO : NORIHITO SUZUKI,
TEXT : YASUHITO SHIBUYA(OFFICE NOMAD)

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カシオ計算機 お客様相談室
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