歴史あるブランドはアイコンと呼ばれるアイテムや意匠を持ち、引き継ぐ者はそれを時代に合わせて再解釈・デザインする。アイコン誕生の背景をひもとけば、才能ある作り手たちの頭の中をのぞき、歴史を知ることができる。この連載では1946年創業の「ディオール(DIOR)」が持つ数々のアイコンを一つずつひもといてゆく。奥が深いファッションの旅へようこそ!
1年間続いた本連載も今回が最終回。トリはやはり“レディ ディオール”に飾ってもらおう。なぜならこのアイコンバッグには「ディオール」が大切にするコアバリューが詰まっているからだ。普遍性、エレガンス、職人の仕事、そしてアートとのつながり。今回は特にアートとのつながりについて掘り下げる。
「ディオール」を創業する前の1928年、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)は23歳の時に友人たちと小さなアートギャラリーをパリの裏路地に開き、ギャラリストとして活動していた。若手起業家であるムッシュ・ディオールは、パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)などすでに有名だった大御所画家たちの作品に加え、サルバドール・ダリ(Salvador Dali)やアルベルト・ジャコメッティ(Alberto Giacometti)など当時は駆け出しの芸術家たちの作品を扱っていた。そして彼らの存在を世に知らせるベく、奔走していたという。父親からの反対を押し切ってその仕事を選んだという若きクリスチャン・ディオールの理想に燃える姿が目に浮かぶようだ。ムッシュ・ディオールにとって芸術は資産価値や投資対象ではなく、時代を読み解き、新しい価値を生み出す一つのコミュニケーションであり自己表現だったのだ。
46年に「ディオール」を創業した後もムッシュ・ディオールは、ファッションとアートのつながりを大切にしてきた。芸術と表裏一体の関係性はメゾンの基本姿勢であり、歴代のデザイナーたちもその精神を受け継いできた。だから、95年に誕生した“レディ ディオール”そのものにもアートの要素が見て取れる。
そして2019年の今、アーティストが再解釈しデザインする“ディオール レディ アート”というプロジェクトが続いている。“レディ ディオール”を題材に世界の芸術家が自由に表現し商品として販売するもので、4回目の今回は11人が参加。日本からは名和晃平が参加している。本連載ではそのうち、9つの作品を紹介しているが、実用品でもあるハンドバッグ上での表現というある種の制約は、芸術家たちのクリエイティビティを刺激するようで、実にユニークな作品がそろっている。ファッションを通じて芸術家を刺激し、彼らの存在を世に知らせてゆく。このプロジェクトはまさにギャラリストでありクチュリエであったムッシュ・ディオールの姿勢を体現しているといえるだろう。同プロジェクトは12月17日より国内ではハウス オブ ディオール銀座で発売される。(本連載終了)