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連載 サステナビリティって何?専門家が答えます。

サステナビリティって何? 専門家が答えます。連載Vol.20 世界初、バイオデザイン修士課程で何を学べる? 企業や政府との実践的な取り組みも

 サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――といわれる一方で、具体的に何をどうしたらいいのか分からないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞きその解決策を探った。今回は9月にセント・マーチン美術大学(Central Saint Martins, UAL)でスタートしたバイオデザインの修士課程ナンシー・ディニーズ(Nancy Diniz)主任教授に聞く。

ゴールは生物学とデザイン学のハイブリッド

WWD:バイオデザイン修士課程では何を教えるのか。

ナンシー・ディニーズ(以下、ディニーズ):私たちのゴールは生物学とデザイン学のハイブリッドで、週に1回、バイオラボで生物学者と共に生物学とデザインについての実習も行う。マスターコースでバイオデザインを集中的に学べるのは世界初のこと。

WWD:学部では何を学んだ学生が多い?

ディニーズ:ファッション、テキスタイル、プロダクト、インダストリアルデザイン、建築など多分野にわたる。中でもファッションとプロダクトデザイン学生からの関心が高い。

バイオ素材はもちろん環境コンサルから生命倫理学まで

WWD:具体的に何を学ぶ?

ディニーズ:いわゆるデザイン学校で習わないスキルを教える。これまでデザインのワークフローは限られていた。私たちはどうやって新しいバイオ素材(生物資源から作られた素材)を作るか、腐敗をどう理解するかなど、ラボの規模からスケールアップすることを念頭に企業とコラボレーションしながら取り組んでいく。これからの技術であるバイオテクノロジーを実用化するためのギャップを埋めることも重要だと考える。

具体的には、1年目は学生にいろいろな方法を知ってもらい、与えられた課題に取り組む。2年目は自分が選んだ課題に取り組む。課題はフレキシブルで、例えばバイオエシックス(生命倫理学)もその一つ。新しい分野なのでニッチではあるが、これから先、法律から変わる可能性もある分野だ。多くの会社は今、サステナビリティ部門を開設しているけれど、これからは生命倫理学の部門もできるかもしれない。学生は環境コンサルティングやバイオレメディエーション(bioremediation、生物学的環境修復:微生物や菌類や植物などの酵素を用いて、有害物質で汚染された自然環境をもとの状態に戻す処理のこと)なども学ぶ。

課題に関しては、2つのインダストリーパートナーが決まっていて、1つ目は人工レザーを作る素材メーカーで、最近はバイオレザーも作っていて、バクテリアなどによる染色や表面加工に取り組む。

2つ目はモルディブ島のサステナビリティ企画。モルディブ島の環境変化に対して、モルディブ政府がサポートして5~10年計画で取り組むもので、私たちとは漁業・食品加工業による廃棄物に関するプロジェクトを始める。骨や貝、昆布やココナッツ、竹の使われない部分などを何かの素材に使えないかを考える。そのほか洪水による海岸線の変化や浸食、クリーンエネルギーや下水の処理などさまざまにある。モルディブはマサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)などともコラボしている。

また、バイオ素材だけではなく、サービスデザインや建築のシステムなどにも取り組む。例えば外壁などに埋め込むシステムなどだ。

WWD:バイオ素材の実用化が進んでいるが、バイオベース100%でないものも多い。その場合リサイクルできないものもあったりして、何を持ってサステナブルとするかの判断も難しい。

ディニーズ:今は時代が変わるとき。そして新しい素材は認定されなくてはいけない。今企業にできることは真剣に変わろうとしていることを素直に伝えること。いきなり100%生分解するなんて約束できるはずがない。ただ、その進捗状況を公開して透明であるべきだと思う。

科学に基づいた教育を

WWD:何に注力していくか。

ディニーズ:私は科学に基づいた教育に変えていきたい。これからのデザイナーには意識の高いデザインが求められる。環境にどういう影響を与えるかについて、リサーチを徹底的にすること。生産するのにいくらかかるかだけではなく、環境にどれだけのコストがかかるか、生態系にどういう影響を及ぼすのか――そういったことを考えられるデザイナーを育てていきたい。

WWD:そもそもあなたの専門は?

ディニーズ:バイオテクノロジー、バイオデザイン、バイオマテリアル。このエリアでは貢献できる。例えば廃棄物のみを使用したバイオマス繊維のプロトタイプの進め方などだ。それと計算(computational)によるデジタル製造、バイオ製造、それからシミュレーションも専門にしてきた。例えば生態系や行動の計算シミュレーション、パフォーマンスの効率化など。

過去には、音響を良よくするだけではなく、空気の改善も行う建築用アコースティックパネルを作った。菌糸体(mycelium)を培養した糊状のものを乾かして使った。菌糸体を培養して使うことは個人的にリサーチしている。

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