2019年に相次いで発表された百貨店の閉店が、地方経済に与える打撃は小さくない。地方都市はどこも中心部の空洞化が悩みのタネだ。業績不振が理由とはいえ、大きな売り場を持つ百貨店が撤退すれば、近隣の商店街の人出にも影響を及ぼす。
セブン&アイホールディングス傘下のそごう・西武は10月、全国で5店舗を閉めると発表した。20年8月に西武岡崎店(愛知県)、西武大津店(滋賀県)、そごう西神店(兵庫県)、そごう徳島店(徳島県)が、21年2月にはそごう川口店(埼玉県)が閉店する。加えて西武秋田店(秋田県)と西武福井店(福井県)では営業規模を縮小することが決まった。
とりわけ地元に衝撃が走ったのが、そごう徳島店だった。百貨店はピーク時に比べて店舗は減ったものの、今のところ47都道府県の全てに店舗はある。だが、県内唯一の百貨店であるそごう徳島店が撤退を決めたことで、徳島県が初めて百貨店ゼロの県になってしまうのだ。
そごう徳島店はJR徳島駅前に1983年に開業。ピーク時の93年2月期の売上高は444億円だったが、2019年2月期には128億円とほぼ7割も減った。98年に明石海峡大橋が開通したことで買い物客が関西に流出したり、市内や郊外に大型のショッピングセンター(SC)が開業したりしたことが痛手になった。
低迷を続けたそごう徳島店は、外商などによる上顧客の売上高に占める比率が4割に達する。若い世代を中心とした一般客の百貨店離れの裏返しとして、相対的に上顧客の比率が高まった。百貨店でしか販売されていない衣食住の商品も少なくない。上質なアパレルやバッグ、シューズ、宝飾・時計、美術などの品ぞろえではSCよりも百貨店に分があるし、中元・歳暮やギフトは百貨店の包装紙がありがたがられる。富裕層や所得に余裕のある中高年やシニアたちの百貨店支持率は依然として高い。
通常、百貨店が閉店した場合、同じ地域にある別の百貨店が上顧客の受け皿になるのだが、今回は全く前例のないケースになる。中高年やシニアを中心とした上顧客が県境を越えて高松三越や高知大丸に行ったり、明石海峡大橋を渡って関西に向かったり、ECに移行したりすることも考えにくい。
他の地方でも徳島県と同じ状況になりかねない。今回のそごう・西武の発表で営業規模の縮小を打ち出した西武秋田店と西武福井店も県内唯一の百貨店である。その他にも百貨店が1店しかない県はいくつもある。その多くはジリジリと客離れが進みながらも「地域から百貨店の灯を消さない」という使命感で踏みとどまっている。
そごう徳島店を契機にして「百貨店ゼロ県」がドミノ倒しのように他県にも広がってしまうのか。まさに正念場を迎えている。