訪日外国人客が年々増加し、お客のニーズが多様化する昨今。プロフェッショナルな販売員・美容部員の重要性はさらに増していく一方で、販売員・美容部員への理解不足からネガティブなイメージが持たれるのも否定できない。そんな状況を改善しようと、ファッション販売員の地位とスキルの向上を目的に2016年に設立されたのが、一般社団法人日本プロフェッショナル販売員協会(JAPAN SALES PROFESSIONALS ASSOCIATION 以下、JASPA)だ。今年は、ビューティ業界から初の理事として日本ロレアルのフィリップ・アルシャンボー副社長が就任した。これにより、JASPAはファッションの販売員だけでなく美容部員と相互に地位を高めるサポートに注力していく。
WWD BEAUTY(以下、WWD):ビューティ業界から初の理事に就任した経緯について
フィリップ・アルシャンボー理事(以下、フィリップ):日本のビューティ市場やラグジュアリーファッション市場は今、とても盛り上がっている状態だ。しかし高齢化社会により働き手となる若年層は減る一方。そんな中、JASPAのように販売員の教育をサポートする機関があることはとても重要だ。日本ロレアルでは、4年前にビューティアドバイザーラブアンドケアプログラムを立ち上げ、美容部員の地位向上のために給料アップや福利厚生の改善のほか、労働環境改善を進めてワークライフバランスを保たれるようにしている。これにより、退職率も下がってきているという結果につながった。JASPAとは考え方や施策などが、ロレアルが掲げているものに共通している部分が多かった。これからはファッション、ビューティの店頭スタッフが相互にメリットとなるような関係を構築していきたい。
WWD:互いにどんな点が生かせると考えているか。
フィリップ:ビューティは圧倒的にお客さまの人数が多く、忙しいお客さまだと20分ほど、タッチアップをしても長くて45分ほどの接客だろう。美容部員から販売員が学べることは忙しいときに効率よくマネジメントを行えることだ。一方で、ファッション業界はストーリーテリングにとても優れている。ランウエイではデザイナーの込めた思いや情熱を伝えることができる。ビューティは製品数が多いため、ブランドストーリーよりも製品よりになってしまう。百貨店のラグジュアリーブランドで化粧品を購入するお客さまは、製品の良さはもちろんブランドストーリーにも憧れている部分もある。世界観をしっかり伝えることを販売員から学べるのではないか。
WWD:理想とする美容部員・販売員像について。
フィリップ:基本的なことだが製品知識があることは大事。今はインターネット上でさまざまな情報が流れているが、必ずしも正しいものだとは限らない。プロとして正確な製品や肌の知識を持つことが必要である。日本ロレアルでも共感できる接客を大切にしており、オンラインでは手に入れられないようなプラスアルファの価値を提供できる接客に注力している。お客さまに本当は何が必要なのかを分析する力が重要である。
WWD:日本と海外との美容部員・販売員の違いについて。
フィリップ:日本の接客はコンビニでもホテルでもどこでも、素晴らしいおもてなしが大前提にある。例えばフランスでは、場所によってサービスのレベルが極端に変化する。しかし、お客さまと一定の距離感を超えてはいけないという日本のマニュアル的な接客に比べ、フランスはパーソナルな接客が得意であり、距離の近い接客ができる。距離が近い分、記憶に残る接客が可能だ。日本ロレアルでは今年からサービスリテールアカデミーを行っており、おもてなし精神を守りつつも自分らしい個性を出した接客に挑んでいる。
WWD:理事としてこれから取り組んでいきたいことや意気込みは。
フィリップ:ロレアルとしてはどのブランドにも共通して、今の時代に合ったトレーニングを提供することが大事だろう。JASPAでは、論文や推薦状の書類審査や適性検査のある販売員のための新資格制度を来年から始める。ビューティでも、クオリティーの高い美容部員に対する独自の資格制度を設けることが役割だと考えている。そのためにも、ビューティ業界からJASPAの参加者を増やしていきたい。会社やブランドの顔である美容部員を支えていくことにこれからも注力する。