サステナビリティに取り組まない企業は存続できない――といわれる一方で具体的に何をどうしたらいいのか分からないという声も聞く。そこで「WWDジャパン」11月25日号では、特集「サステナビリティ推進か、ビジネスを失うか」を企画し、経営者やデザイナー、学者に話を聞きその解決策を探った。今回は番外編として、環境先進国のスウェーデンにあるファッション機関、スウェーデン・ファッション・カウンシル(Swedish Fashion Council、以下SFC)に話を聞いた。SFCは今年8月に開催を予定していたストックホルム・ファッション・ウイークを、「未来のために(due to the future)」として中止した。
WWD:改めてファッション・ウイークをやめた理由を教えてほしい。
ジェニー・ローセン(Jennie Rosen)=スウェーデン・ファッション・カウンシルCEO(以下、ローセン):現在、さまざまな産業が気候危機に対して迅速な行動が求められており、消費者意識も大きな転換期を迎えている。そこでわれわれは、従来のファッション・ウイークの形式にとらわれない別の方法を探すことにした。サステナブルな産業に生まれ変わるためには、まず自分たちが変わらなければいけないと思った。
WWD:従来のファッション・ウイークの問題点は何だったのか?
ローセン:ファッション・ウイークが取り立てて環境負荷が高いわけではないが、あのような短期間に世界中からバイヤーやプレス、インフルエンサーらを呼び寄せて行うよりも、もっとサステナブルで先進的な方法があるのではないかと思った。デジタルテクノロジーがいたるところで導入されている昨今、ファッションショーをデジタル化するアイデアも聞こえてきていた。われわれもファッション・ウイークに代わるデジタルプラットフォームを開設していく意向だ。
WWD:ファッション・ウイーク中止を求める社会的な圧力があったのか?
ローセン:消費者は抜本的な改革を怠っているファッション業界の現状にうんざりしていた。研究者たちが気候危機に関して警鐘を鳴らし続けていたが、業界の人々は「われわれは問題を理解している」と言いながら、これまでのビジネスのやり方を続けていた。それでは変化は生まれないことに人々は気が付いていたと思う。
WWD:ファッションショー中止に対してはどんな反応があった?
ローセン:決断した当初はどんな反応があるのか予想できなかった。しかし、いざ中止を発表すると業界内外に大きな影響を与えたようだった。海外のジャーナリストらは、今回の発表に加えて、スウェーデンがどれだけ環境先進国であるかを熱心に報道した。ストックホルム・ファッション・ウイークがここまで注目を浴びたことはこれまでなかっただろう。この注目度の高さは、今回の決断が正しかったことを示している。このような大きな決断に対しては否定的な反応も予想していたが、ファッション業界に関係のない消費者や企業もこの問題に対して高い関心を持っていることが分かった。これは、皆で解決策を模索するための大きな一歩になった。
WWD:他の国も続いてほしいか?
ローセン:気候危機はグローバル規模の協力なしに解決できる問題ではない。他の国でもわれわれの決断に賛同するような動きがある。近い将来、ファッション・ウイークをデジタル化する国も出てくるだろう。ほかにも、大量生産の規模を縮小するためのサブスクリプションサービスの開発や他業種との協業を進めていかなければいけない。
WWD:今、スウェーデンで注目の取り組みを教えて欲しい。
ローセン:今スウェーデンのテキスタイル産業と森林産業の間で、環境問題を解決するためのイノベーションがたくさん行われている。例えば、森林組合のソドラ(SODRA)は、循環型ファッション実現のため、もっとも一般的なテキスタイルであるコットンとポリエステルの混紡素材を分離するテクノロジーを開発し、産業レベルでのリサイクルを可能にした。また、リニューセル(RE:NEWCELL)はコットンの古着からビスコースレーヨン原料を再生する技術を開発した。業界の主要プレーヤーである「H&M」や「イケア(IKEA)」も、再生素材会社のストラ・エンソ(STORA ENZO)と協業して、よりサステナブルなビスコースの生産などに取り組んでいる。サステナビリティはスウェーデンの人々のDNAに組み込まれているが、それでもまだやるべきことはたくさんある。グレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)は多くの人の目を覚ました。彼女の影響で、ファッション業界に影響を及ぼす環境保護団体エクスティンクション・レベリオン(Extinction Rebellion)のような団体も誕生した。トゥーンベリが一人で始めた「フライデー・フォー・フューチャー」の活動では、今も国会議事堂の前で毎週デモが行われている。彼らの活動は私たちを正しい方向に導いてくれる原動力になっている。