“時計専門店”という言葉を聞いたことがありますか?――答えは「NO」で構いません(笑)。かくいう僕も、時計担当を拝命した1年半前までは聞いたことがありませんでした。つまりは“時計”を“専門”に売る“店”のことなんですが、具体的に想像しづらいですよね……?時計の販路は百貨店やセレクトショップ、家電量販店などいくつかありますが、その一つが時計専門店です。時計しか売っていないので専門性はとても高く、結果としてよく“予習”した男性客が多いです。つまり女性や一見さんには、なかなかにハードルの高い存在でもあります。でも「こんなぜいたくな空間を知らないなんてもったいない!」――そんな素直な思いが本連載スタートのきっかけでした。「気負わず、ふらっとのぞいてください」、店舗スタッフはやさしくほほ笑みますが、「そうですか、じゃあ……」と言える(僕のような)ずうずうしさを持った人は多くないはず。そこで、この連載なんです!高級時計の世界に、ほんの少し早く入ったオールドルーキーの僕が素直な感想とともに伝えるので、近くにあるのに遠い存在の時計専門店を少しでも身近に感じてもらえたらと思います。
時計専門店は地域ごとに有力店があります。大都市の東京には複数ありますが、その一つが2006年にオープンしたイシダ表参道です。表参道のど真ん中、ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)表参道の地下にあります。取り扱いブランド数は約30で、常時約1500本の時計が店頭に並びます。経営母体は1979年創業のベスト販売。ほかにベスト新宿本店や札幌のイシダ・ノース・フォーティスリー・ディグリーズなどの時計専門店を持ち、スイスの時計ブランド「ブライトリング(BREITLING)」銀座店も運営しています。
連載第1回で紹介したいイシダ表参道は1フロア構成で、売り場面積は約600平方メートル。都内最大級で、1ブランドあたりのコーナーが広いのが特徴です。2018年12月のリニューアルで「グランドセイコー(GRAND SEIKO)」や「ラドー(RADO)」など8ブランドが新たにラインアップに加わりました。今年の12月6日には「トム フォード タイムピース(TOM FORD TIMEPIECES)」の世界初となるコーナーもできました。鈴木一弘店長に聞きます。
WWD:イシダ表参道の客層は?
鈴木一弘店長(以下、鈴木):男女比は7:3です。30代後半から40代後半がコアで、半数を占めます。土地柄、クリエイティブな職種の方が多いですね。そのためデザイン性の高いアイテムが売れています。
WWD:女性比率が意外と高い印象です。
鈴木:「カルティエ(CARTIER)」「フランク ミュラー(FRANCK MULLER)」「ショパール(CHOPARD)」などが女性の心をつかんでいます。ちなみにインバウンド客は1割以下です。
WWD:売り上げベスト3ブランドは?
鈴木:1位が「カルティエ」、2位が「IWC シャフハウゼン(IWC SCHAFFHAUSEN)」、3位が「ブライトリング」です。
WWD:2位、3位は男性ファンの多い時計ブランドですね。イシダ表参道には1万円台の「G-SHOCK」から2000万円の「A.ランゲ & ゾーネ(A.LANGE & SOHNE)」までありますが、一番売れる価格帯は?
鈴木:約80万円です。ちょうどインポートブランドの中心価格帯と重なります。
WWD:一つには絞りづらいでしょうが、現在の“推しブランド”は?
鈴木:本当にお答えするのが難しい質問ですが、どうしてもと言われれば……「オメガ(OMEGA)」でしょうか。30代半ば~50代男性を中心に支持されています。19年は月面着陸50周年で※、20年2月には007シリーズの25作品目となる「ノー・タイム・トゥ・ダイ(NO TIME TO DIE)」で俳優のダニエル・クレイグ(Daniel Craig)扮するジェームズ・ボンドが着用する“シーマスター(SEAMASTER)ダイバー300M 007エディション”も発売になります。それになんといっても、7〜9月には「オメガ」がオフィシャルタイムキーパーを務める東京オリンピック・パラリンピックが控えています。売り上げ的にも、ますますの盛り上がりが期待できます。
※アポロ11号のクルーが「オメガ」の“スピードマスター(SPEEDMASTER)”を着用
「オメガ」の“シーマスター ダイバー300M 007エディション”
いかがでしたか?なるべく端的かつ分かりやすくお伝えしたつもりですが、時計専門店の片鱗をつかんでもらえたでしょうか?付け加えるなら、「とにかく一度行ってみて」です。以下は鈴木店長には怒られてしまうかもしれませんが……、1.知る人ぞ知るショップなので若年層に人気の「G-SHOCK」のレアモデルの在庫がまだあるかも!?、2.イシダ表参道の入るビルの地下1階にはとてもきれいな隠れ家的トイレがあります。
時計をより多くの顧客(候補)に見せることは、時計専門店の仕事です。つまり堂々と訪れていいんです!「『WWD JAPAN.com』にそそのかされて……」と僕のせいにしてもらって構いませんので(笑)、ぜひ体験してみてください。