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スニーカーショップの黒船「SNS」が代官山にアジア初出店 共同経営者2人は“モノを売らずに商品を売る”

 12月14日、スウェーデン発のスニーカーショップ「スニーカーズエンスタッフ(SNEAKERSNSTUFF以下、SNS)」が世界7店舗目となる東京店を代官山にオープンした。アジアでの出店はこれが初めて。場所は東京・代官山の「フレッド シーガル(FRED SEGAL)」跡地を含むログロード代官山の3棟(2〜4号棟)で、オープン初日には数百人以上のスニーカーギーク(オタク)たちが列を成す盛況ぶりを見せた。

 「SNS」は、もともと熱狂的なスニーカーギークだったエリック・ファーガリンド(Erik Fagerlind)とペーター・ヨンソン(Peter Jansson)が、1999年に1号店となるストックホルム店をオープン。一時はスウェーデン内で複数の店舗を運営していたが、現在はストックホルム店のほかに、ロンドン、パリ、ベルリン、ニューヨークとロサンゼルス、そして東京店と、世界の主要都市に絞った7店舗体制で売り上げは好調のようだ。その背景には、他のスニーカーショップと一線を画す空間づくりにある。それぞれの店舗がその土地の風土や文化にスウェーデンやスカンジナビアの歴史をミックスしたデザインで、東京店も店内に入るとすぐに什器の異質さやディスプレーなど、「SNS」独自の世界観を堪能することができる。

 創業から20年という節目で東京店を開いた理由や、1つの国に複数の店舗を持たない訳、人生の“ベストスニーカー”など、オープンに合わせて来日したエリックとペーターの2人に話を聞いた。

設立のきっかけは趣味のスニーカー収集

WWD:「SNS」を立ち上げる以前は何を?

ペーター:私たちが若い頃のスウェーデンにはスニーカーショップというものが存在せず、スニーカーに関わる仕事がしたければスニーカーも扱っているような一般的なスポーツショップで働くしかなかったから、そこで働いていた。

エリック:私は子どもの頃からバスケットボールが好きで、“人生丸ごとバスケ”というぐらい今でも大好き。だから自然とナイキ(NIKE)のコマーシャルに洗脳されるような形でスニーカーにハマった(笑)。16歳の高校生のときに、週に2日間だけの職業体験の授業があったからスポーツショップを選び、その期間が終了した後に「週末だけでも働きたい」と頼み込んで働くことになった。

WWD:2人の出会いは?

エリック:スニーカーには、「もっと深く知りたい」と男心をくすぐらせる何かがあり、スニーカーが好きな人はどこかオタクっぽく、大っぴらに自慢するわけではないが静かに張り合う感じで互いに知識を競い合ったりする(笑)。そうやって私も知識を披露していたら、「君みたいなギークがストックホルムの北にいる」と教えられた。私は南の出身なんだが、「俺みたいなオタクがもう1人?そんなのいるわけないだろ」って半信半疑だったんだが、それがペーターだった。それから一緒にスニーカーを探しにニューヨークに行ったりするようになり、1999年に「SNS」を立ち上げることになった。

ペーター:「SNS」を立ち上げる前は、自分たちのためにスニーカーをただ収集していただけだった。それを知った友人や友人の知り合いが、「手数料を払うからこれを探してきてくれないか」と依頼をしてくるようになり、そうこうしているうちに気が付いたらという感じだ。

WWD:ということは、ショップを立ち上げるためのビジネス的なことは学んでいない?

エリック:ビジネス面での教育は受けていないが、そういう学校を出たプロから現場でいろいろ教えてもらったから問題ない(笑)。「SNS」の歴史を振り返ると、3つの時期に分けることができる。第1期は、いいスニーカーを見つけては売ってということの繰り返し。事業と呼べるようなものではないお粗末なもので、あるのは情熱だけだった。だが続けていくうちに、出費に売り上げが追いつかず、仕入先のブランドに支払いができない状態が続いてしまった。これが第2期だ。ここでようやく、スニーカーナードのためだけではない大きなビジネスであることに気付き、同時にブランド側は金銭的な面だけでないさまざまな理由で「SNS」と取り引きしていることを知ったーーつまり、ブランドからすれば「SNS」に卸す分は大した売り上げではないのだが、「SNS」で取り扱われているということが一種のステータスになっていた。

第3期は出店に関することだ。99年に1号店をストックホルムに出店するまではよかったが、スウェーデンのほかの街にも出店したところうまくいかなかった。需要の高い都市部でない限り国内では成功しないと分かり、自然と海外に目を向けることになった。ただ私たち2人にはそうした経験がなかったから、パートナーを探してビジネスのノウハウを学んだ。ここまでの12年間は紆余曲折あったが、今日までは順調に歩めている。

WWD:先ほど、ギーク同士でつながったことが「SNS」の立ち上げに関係していると言ったが、90年代後半の日本では“エア マックス 95(AIR MAX 95)”を例に空前のスニーカーブームが起きていたのでナード同士は簡単につながることができた。ストックホルムではそうしたブームはなかった?

ペーター:スウェーデンでも似たような動きがあったといえばあったが、ストックホルムには200万人ほどしか住んでいないので、東京に比べれば規模は小さなものだった。

エリック:話が少しずれるが、昔は大きなスニーカーブームの波がスウェーデンに遅れてきていたように、20年前の世界は今よりもっと広かった。だが十数年前から、みんなが同じようなモデルを履いている。現在はさらにその動きが加速していて、誰もがインターネットで同じサイトを見て、生み出す側も着想源が同じだから、世界中で波が同時に起きている。地域ごとに多少の違いはあるかもしれないが、トレンドは大体同じで動きが速い。どこかで「あのスニーカーがクールだ」と盛り上がれば、世界中でそのスニーカーがクールということになる。20年前はそうじゃなかった。

憧れの地・東京への出店

WWD:日本出店の経緯とアジア戦略は?

エリック:11年ごろに世界中の顧客が同じようなものを求めていると分かり、「SNS」をグローバル展開することを決めた。ただ事業を拡大させたい半面、いわゆる“企業”にはなりたくなかった。この2つを両立させるには、1つの都市に20も30も出店するのではなく、各国もしくは各地域に1店舗だけ出店すればいいと考えた。全体で見れば大きな規模の事業だが、どの国でも大量出店はしていない。

そして、グローバル展開するならばアジア地域は欠かせない。私たちは長年にわたり東京からいろいろとインスパイアを受け、大いに敬意や憧れを抱いている。だからこそ東京に出店するのは逆に抵抗があり、最初はソウルを検討していた(笑)。しかし、ナイキやアディダスに相談したところ東京への出店を勧めてくれたし、やはり東京は私たちに最も影響を与えたアジアの街で、一番長い時間を過ごしている場所。来年にはオリンピック・パラリンピックも控えているので、これ以上の機会はなかった。もちろん、アジアの他の地域でもそれぞれに独自のカルチャーがあり、重要な市場だと認識しているので出店は計画中だ。

WWD:スニーカーカルチャーが根付く渋谷・原宿エリアではなく、代官山に出店した理由は?

ペーター:ほかが出店している場所は避けたい上に、原宿にこれ以上スニーカーショップはいらない。そもそも代官山は、どこかクリエイティブな街なので前から好きだった。「SNS」の近くにハンドボール専門店があるように、競技人口の少ない店があってギークを受け入れてくれる雰囲気も街にあるなと(笑)。出店した代官山ログロードは、もともと「こういう場所がいい」と参考にしている店舗だったので、空いたと分かった瞬間に飛びついた。

エリック:ストックホルム店も住宅街にあり、周りにほかのスニーカーショップがない場所だ。ただこれは当時、都市部に出店する資金がなかったからなんだが、結局それが「SNS」らしさにつながった。このような“らしさ”を維持することは大事だと思っていて、パリではマレ地区、ニューヨークではソーホーではなく、わざわざ足を運んで「SNS」の店舗を探さなくてはいけないような場所に出店している。だから東京店もこれまでに出店してきた場所と同じく、みんながその土地に持つイメージとは正反対の場所に出店し、「SNS」がその街(代官山)を訪れるきっかけになってほしい。

「SNS」の売り上げは主にオンラインなんだが、店舗がこうした離れた場所にあることによって訪れる人が少なくなり、「SNS」について聞いたことはあるけれど見たことはない、空想上の存在のようになる。だからわざわざ足を運んで訪れてくれた人たちには、素晴らしい体験をしてもらいたいと考えて店づくりをしている。

成功の秘訣は“体験”

WWD:「SNS」は内装や外装に力を入れることで知られているが、東京店のポイントは?

エリック:第一に、「SNS」自体はスウェーデンらしさを大切にし、各店舗はそれぞれの街に敬意を払いローカルな要素と交じり合ったものにすることを心掛けている。私たちが解釈した“東京”は、積み重ねてきた豊かな歴史や伝統的な職人の手作業、細部へのこだわり、ロボットや自動洗浄式のトイレといったテクノロジーなどの未来的なものが融合している街。店舗にもそれが反映されていて、テーブルを3Dプリンターで作ったり、「ゴジラ」や「鉄腕アトム」などのアニメを着想源としたテクニカルで人工的な部分もあったりする一方で、随所に伝統的なクラフツマンシップを生かしている。また、侍などの日本の歴史上で重要な存在も取り入れるなど、店内にはオリジナルのアートピースや什器が70以上ある。もちろん、これらは全て私たちのレンズを通して見た日本なので、「これが日本だ!」なんてことを言うつもりはなく、ただ日本の豊かな伝統や文化に敬意を払ってオマージュを捧げたかったということ。

最近の小売り業界ではとにかく“体験”が重視されていて、ただ商品が陳列されているだけでは十分ではなく、顧客やカルチャーと深く結びつき、より多くのものをギブバックする必要がある。だから店舗ではアートの展示やワークショップ、音楽イベントなどを開催し、積極的に子どもたちも招待することでカルチャーが交わる場所になってほしいという思いがある。そうした場所にはカフェとギフトショップがつきものなので、スニーカーショップの隣に併設する予定だ(2020年2月オープン予定)。

WWD:「SNS」限定アイテムなどはどれぐらいの頻度で用意していく?

ペーター:「SNS」のオリジナルアパレルは2カ月に1度のペースで新作をリリースする予定だが、スニーカーとなると正確な数字を出すのは難しい。オープン時には「SNS」限定じゃないのも含めると50以上を用意した。ただ「SNS」では、毎週10~15のスニーカーが抽選販売されているので、単純にこれだけで週に10アイテムは必ず入れ替わっている計算になる。

WWD:東京店の売り上げ目標と、現在の全体での売り上げは?

エリック:今年は全体で1億ドル(約109億円)を見込んでいる。東京店の売り上げ目標も一応設定しているが、今はどれだけの顧客が店舗に訪れかに重点を置いていて、シビアに店舗を運営するつもりは全くない。例えば、東京店で年間1000万ドル(約10億9000万円)を売り上げようとすると、毎日人がすし詰めになるほど訪れない限り無理なのでクレイジーな話だ(笑)。オンラインで利益を上げる方が効率的だが、売り上げやサイトアクセスがいくらあっても盛り上がっている様子は見えづらく、インディペンデントな印象になってしまう。だからこそ「SNS」は体験のための投資をしている。顧客に楽しい時間を提供すればオンライン上でも話題となり、結果としてECでの売り上げが上がる。

ペーター:「昨日の夜、『SNS』の楽しいパーティーに参加してきたんだ!」という誰かの投稿がオンラインで話題になれば、大勢の人が「SNS」を検索してオンラインで買い物をしてくれる仕組み、これが成功の秘訣だ。

エリック:つまりは、“モノを売らずに商品を売る”という手法で、商品じゃない部分に力を入れて、後は商品が購入されるのを願い待っている(笑)。

プロが見る今のスニーカーシーン

WWD:スニーカーのプロである2人は、2次流通市場での高騰をはじめ異常な盛り上がりとなっている昨今のスニーカーシーンをどう見る?

ペーター:2次流通市場そのものを嫌う人もいるかもしれないが、史上最高の盛り上がりであることは間違いない。最近は10歳の子どもでもスニーカーにハマっていたりと、スニーカー市場そのものが大きくなっていることを実感する。こんなことは20年前にはなかった。手に入れることが難しくなったと文句を言う中高年層もいるが、とても面白い状況ではあることに間違いない。

WWD:ラグジュアリーブランドのスニーカーシーンへの参入も目立っている。しかし、スポーツブランドほどのスニーカーギークはいない。これをどう考える?

ペーター:例えば特定のデザイナーやラグジュアリーブランドが好きということがあっても、ファッションの流行で好きなデザイナーも変化する。キム・ジョーンズ(Kim Jones)が「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」から「ディオール(DIOR)」に移ったが、今後別のブランドに移ればファンも一緒に移っていくだろう。このように特定のデザイナーにフォロワーがつくことが、ラグジュアリーブランドのスニーカーギークが生まれにくい理由なのではないだろうか。

エリック:ペーターの言う通りだ。デザイナーやブランドにはフォロワーがいるが、彼らは流行やデザイナーの移り変わりと共に移動していくもので、スニーカーギークはただスニーカーだけが好きだから、その間に交流はないんだと思う。スニーカーブランドは、基本的にスポーツシーンに根差している。だから生み出されるスニーカーは用途がはっきりしている。それに対してラグジュアリーブランドの作るスニーカーはデザイン性が重視され、最悪の場合、機能性が全く考慮されていないように見えるモデルがある。ギークの多くは日常で履きたがるので、これも大きいだろう。

WWD:最後に、2019年は時代の区切りだが、人生の“ベストスニーカー”は?

ペーター:レコードショップの店員に「一番好きな曲は?」と聞くような難しい質問だ。“今週のベストスニーカー”なら、今私が履いている「SNS」と「アディダス」のコラボ“スタンスミス(STAN SMITH)”を挙げる(笑)。

エリック:こういった質問はよくされるんだが毎回困る(笑)。なぜなら、これまで3000足以上は履いてきたが、もしどこかで“ベストスニーカー”というものに出合っていたら、そこでスニーカーへの愛は終わっているだろうから。これがスニーカーの素晴らしいところで、毎日のように素敵な1足が現れるたびにエキサイトする。そして私にとってスニーカーは、単なるプロダクトとしてだけでなく、音楽や匂いのように五感に訴えてくるもので、思い出や記憶と結び付いている。“ジョーダン フライ(JORDAN FLY)”を見ると、「ああ、このシューズを見て“ジョーダン”と恋に落ちたんだ」と記憶がよみがえるんだ。クッキーの匂いを嗅ぐと、母親が子どもの私にクッキーを焼いてくれていたことを思い出すようにね。とにかく私たちは、40歳を超えても旅行の際に下着より多くのスニーカーをバッグに詰めこむ、いつまでたってもスニーカーギークなんだよ(笑)。

ペーター:ランチ前はこれを履いてランチ後はこれ履く、なんてザラにあるさ。

エリック:おかしいことは自覚しているが、いつ何を履きたくなるか分からないから仕方がない。税関を通るときにはすごく不審そうな顔をされるがね(笑)。

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