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世界最大のLVMHが埋もれた人財発掘プログラム開催 仕掛けた女性初の執行役員の想いは?

 LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)はこのほど、組織内の人材発掘や起業家マインドの醸成などを目的としたプログラム「DARE」の7回目となるプログラムを日本で開催した。「DARE」とは、破壊「Disrupt」、行動「Action」、冒険「Risk」、そして起業家精神「Entrepreneur」の頭文字を連ねたものであり、同時に「勇気を持って、〜〜する」を意味する動詞でもある。

 全3日間のイベントは、「リテールのイノベーション」がテーマ。さまざまなブランド、さまざまな職種で働くことでLVMHを支えるアジアの管理職から選ばれた約60人が参加した。各自はまず、自分のアイデアを英語でプレゼン。投票により60から12に絞った後は、チームに分かれ、残り2日をかけてアイデアを練り上げた。アイデアは、外部の起業家を中心とするメンターにより問題点などを指摘され、ブラッシュアップされる。煮詰まり、対立し、ケンカまで勃発する光景は、ハッカソンのように刺激的だ。

 LVMHはなぜ、「DARE」を開くのか?グループ初の女性執行役員で、「DARE」の陣頭指揮を執るシャンタル・ガンペルレ(Chantal Gaemperle)LVMH 人事&シナジー担当上級副社長に話を聞いた。

WWD:「DARE」の目的は?

シャンタル・ガンペルレLVMH 人事&シナジー担当上級副社長(以下、ガンペルレ上級副社長):目的は、いくつもあるの。まずは、今なお成長を続ける巨大企業の中で、新しいタレントを見つけること。LVMHの社員は、現在およそ16万5000人。日本だけで7000人。そして2018年には4万人がグループに仲間入りしている。そんな拡大する企業の中で、埋もれかねない「人財」を発掘したい。2つ目の目的は、その中でインスピレーションを見つけ、創造性を養うこと。理想的なのは、アイデアの波に常に飲まれているような会社に進化することね。3つ目は、アントレプレナー(起業家)マインドを養うこと。2つ目のインスピレーションの話とリンクするけれど、イノベーションは、各ブランドの経営陣やクリエイティブ・ディレクターだけが生み出すものじゃない。イノベーションはどこにも、日々の生活の中にも潜んでいる。それを見つけ、育み、自分たちでブランドや会社を大きくするマインドを醸成したい。そして最後は、未来を夢想すること。「DARE」は、タレント(人財)とイノベーションの交差点。今回はAPAC(アジア環太平洋地域)の6000人の管理職からアイデアを募り、寄せられた250のアイデアから選んだ60の発案者が来日し、3日間のプログラムに取り組んだ。60はさらに絞られ、12に。そして皆がチームに分かれる。知らない人に向かってプレゼンし、投票し、チームに編成され、そこで“マジック”を生み出す。私たちは、その過程でタレントを発見し、未知なる人財のワンダフルなアイデアに出合うの。どんな組織でも、切実な問題を認識しているのは、組織を根底で支えている人たち。でも多くの組織は、そんな人の意見に耳を傾けようとしない。だから私たちは、メッセージを発信できる環境、メッセージを理解する風土を整えたかった。それがイノベーションのスタートだと思う。だから「DARE」では、いきなりアイデアをピッチさせ、それを皆が聞くところからスタートし、同じようなプレゼンで終了する。最終的には優れたアイデアを表彰するけれど、「DARE」には勝者も敗者もない。それは、社内も同じね。

WWD:いくつかの目的を話してくれたが、裏を返せば、これまでのLVMHには起業家マインドが根付いていないなどの問題点があった?

ガンペルレ上級副社長:特別大きな問題に直面していたとは思わない。でもグループは成長を続けているし、何より世界がオープンになって、私たちの働き方も変わってきた。そこにデジタルが加わって、ますます複雑な世の中になっている。74のブランドを抱える私たちはこれまで、垂直的な組織を複数有する企業体だった。それぞれのブランドには、個々の文化と目的があるから、個々が独立した組織である必然性もあった。でも、そろそろ文化的な革命が必要。垂直的な組織を越境できるようになったら、スタッフの働き方はもちろん、モチベーションは明らかに変化する。「DARE」は、その起爆剤なの。

WWD:日本での開催前に、すでに6回の「DARE」に取り組んでいる。手応えは?

ガンペルレ上級副社長:2017年にスタートして以降、ポジティブなサプライズの連続よ。たくさんの反応が寄せられ、生まれたアイデアもビジネスに近づいている。小さなアイデアじゃないの。すごく大きなアイデアよ!

WWD:今回は日本の他、中国、オーストラリアとニュージランド、シンガポールなどのスタッフが参加した。日本のスタッフからのアイデアは、物流なども意識した現実的なもの。中国人スタッフによるアイデアは、はやりのKOL(Key Opinion Leader、日本で言うインフルエンサーのようなもの)。そして南半球のアイデアは、サステナブル。各国の特徴が面白かった。

ガンペルレ上級副社長:確かに地域ごとの傾向はあるし、現実的な戦略から途方もない夢まで、さまざまなアイデアが飛び出してくる。でも、それが大事。日本人らしい手堅さも必要だし、一方でクレイジーも大事。でもアイデアの多くは今、ダイバーシティー(多様性)とサステナビリティー(持続可能性)の2つと密接に関わっている。特に日本での「DARE」は、リテールにおけるイノベーションを考えた。今のビジネスを将来も価値あるものに、そう考えるとダイバーシティーとサステナビリティーにたどり着くのは、当然のことだと思う。

WWD:「DARE」で生まれたアイデアの中で、実際ビジネスに結びつきそうなものはある?

ガンペルレ上級副社長:例えばかつての「DARE」では、ブドウの皮や種を使ったスキンケアプロダクトのアイデアがあった。私たちはたくさんのシャンパンブランドを有しているから、ブトウの皮を利用することができたら、グループにとって大きなシナジーになると思う。他にも、近々に発表できそうなアイデアがいくつかあるわ。そして嬉しいのは、この「DARE」に似たプログラムを、各国、各ブランドがローカライズして、自分たちの組織をブラッシュアップしようとしてくれていること。日本では「タグ・ホイヤー(TAG HEUER)」や「ロロ・ピアーナ(LORO PIANA)」が皆で集まって、創造性を高めようとしているわ。最終的には、私たちが主導しなくても「DARE」スピリットが勝手に進化して、広がっていくことが望ましい。

WWD:今後のプログラムの予定は?

ガンペルレ上級副社長:まずは、「DARE」を世界各地に広げること。アメリカの西海岸や、東南アジアでも挑戦したいわ。卒業パーティーね。「DARE」 卒業生が再会できる場所を提供できれば、組織もアイデアもさらにブラッシュアップできると思う。

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