ファッション

UAウィメンズの好調を支える自社レーベル戦略 次なる注目はジュエリーの「プリーク」

 ユナイテッドアローズ(UA)が堅調です。2020年3月期上期(2019年4~9月)を振り返ると、小売り+ECの既存店売上高が前年実績を割り込んだのは、低気温だった4月と7月のみ(4月に割り込む前は14カ月連続前年実績超え)。上期累計では前年同期比3.5%増でした。今秋冬は大型台風、増税、暖冬というトリプルショックで「リーマンショック並みの苦戦」といった声も業界では聞こえてきますが、UAは増税直後の10月に同8.0%減と大きく落としたものの、11月には同1.6%増と持ち直し、市況全般に比べたら健闘しているといえると思います。

 UAは今秋、ECのシステム構築をこれまで委託していたZOZO傘下のアラタナから、内製に切り替えると発表していました。しかしやはり自社では手に負えず、再度アラタナに委託することになったのは既報の通り。この顛末についてはいろいろと厳しい意見が飛び交いましたが、見方を変えれば、そんな風に大きな変革にチャレンジしようとできたのは、店頭が好調だからこそだともいえます。

 では何がUAの好調を支えているのかというと、それはウィメンズです。この一年を振り返っても、「ウィメンズはオンとオフ、どちらのシーンでも着られる提案が支持されていてずっといいですね」といった話が広報さんにヒアリングしている際によく出ました。ウィメンズ好調の背景には、ここ数年行ってきたMDスケジュールの再編・細分化が大きくあるようです(細分化で夏商戦を強化したことで、実際に8月の小売り+ECの既存店売上高は同12.3%増と大きな伸びでした。昨年8月も一昨年に比べて11.7%増と2ケタ増だったのにも関わらず!です)。それと同時に忘れちゃいけないのが、前述の広報さんの言葉にもある「オン、オフどちらのシーンでも着られる提案が支持されている」ということ。

 UAって、基本はメンズもウィメンズもトラッドです。それは創業当時からトラッドのスタイルだけでなくその精神性(みたいなもの)も掲げてきた会社ゆえなんですが、ウィメンズの場合、すごく雑に言うとトラッドってブレザーにキルトスカートみたいな恰好です。正直、こういう着こなしって今の時代の多くの女性にとってはリアルじゃないですよね。オフィスに着て行ったら、大半の人は「そんなにカッチリした格好で、今日何かあるの?」って周りに言われちゃう。そこに対応すべく、UAはこのところ、ウィメンズのオリジナルで“今っぽい”感じの、肩の力の抜けたレーベルを次々開発しています。

トラッド提案ではつかめない層を獲得

 UAの竹田光広社長は2019年4〜6月期の決算会見で、「男性のオフィスの着こなしがカジュアル化しているのと同様に、女性もどんどんカジュアル化している(なんなら女性のカジュアル化は男性よりも随分先行して進んできました)。そこにマッチするようなレーベルを開発しているし、その手法が当たっている」といったことを話されていました。

 19年春夏に立ち上げた「イウエン マトフ(AEWEN MATOPH)」はまさにそんなオリジナルレーベルの1つ。ディレクターは、かつてマーキュリーデザインで「バナーバレット(BANNER BARRETT)」「アミウ(AMIW)」を手掛けてきた二ノ宮和佳子さんです。彼女はまさにUA的なトラッドの文脈ではなく、ガールズマーケットの文脈でやってきた方。20年春夏の「イウエン マトフ」も、きれいな色使いで女性の「ほしい!」を刺激する商品をそろえていました。二ノ宮さん自身がモデルで非常にフォトジェニックなのもポイントです。

 そしてもう一つは、「ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ(BEAUTY & YOUTH UNITED ARROWS以下、B&Y)」業態から19年秋に立ち上げた「ロエフ(LOEFF)」。元々「B&Y」の企画チームにいた鈴木里香さんがディレクターの「ロエフ」は、「イウエン マトフ」とは違ってメンズウエアがベース。ただし、UA元来のトラッド的なメンズライクではなく、リラックス感があるところが今っぽい。

新人デザイナーの登竜門でファイナリストに

 さて、以上でご紹介したオリジナルレーベルに続く存在になるかもしれないのが、UAとしては初のジュエリー・アクセサリーのオリジナルレーベルだという「プリーク(PREEK)」です。18年に立ち上げて、これまでは東京・青山の「エイチ ビューティ&ユース」や名古屋や広島の「UA」店舗など計9店で扱ってきたそう。20年春からは他社への卸も開始し、飛躍を目指します。今週から、ラフォーレ原宿内のカルトショップ「GR8」でも販売を始めたそうですよ。

 こちらのブランド、立ち上げに至ったストーリーがとても面白いのでご紹介させてください。ディレクターの芦沢佳澄さんは、「B&Y」の企画として09年にUAに入社。「本当はファッション専門学校時代に留学したかったけど、かなわなくて。でも、海外のコンペに応募するという夢が諦められなかった」と、会社員をしながら山縣良和さん主宰のファッションスクール、ここのがっこうに入学。そこで「芦沢はなんかジュエリーが向いていそう」という坂部三樹郎さんの謎の(?)託宣を受けてジュエリーデザインを開始。12年に若手デザイナーの登竜門であるイタリアのコンクール「イッツ(ITS)」に応募し、ファイナリストに選出されました。今でこそ、ここのがっこうは「イッツ」入賞者を毎年輩出していますが、当時はまだまだ入賞者が少なかったころです。

 その後もUAで働きながらジュエリー作りを継続。ただし、「UAは副業が禁止なので作っても売ることはできず、ディスプレー用に使ってもらうぐらいに活動は留まっていました」と芦沢さん。そんな状況を変えたのがUAの栗野宏文上級顧問クリエイティブディレクターです。ここのがっこうの活動もサポートする栗野さんが、「自分のジュエリーを(副業などにするのではなく)会社の中で事業として売れる体制を作らなきゃダメだ」と芦沢さんにアドバイスし、竹田社長など経営陣にプレゼンする機会もセッティングしてくれたんだとか。「そこから1年かけて、山梨・甲府(日本一のジュエリー産地)や浅草のジュエリー工場などに生産のためのネットワークを広げて、18年のブランド立ち上げにこぎつけた」んだそうです。

 UA入社前は「ニートだった時期もあるんですよ」と話す芦沢さん。チャンスをつかんだことを祝福すると同時に、UAにとっても、こういったパッションあるクリエイターが社内から出てきたことはすごく幸せなことだなと思います。同質化激しい今のファッション市場をサバイブしていくためには、結局はこういう情熱ある新しい芽をいかに育成するか、もしくは呼び込むかに企業の命運がかかっている。ベイクルーズグループが、社内のパッション溢れる20代を集めて「オリエンス ジャーナルスタンダード(ORIENS JOURNAL STANDARD)」を20年春から新たに始めるというのも、この話と同じ文脈だなと思った次第です。

 というわけで、UAのウィメンズは20年春夏も引き続き要チェック!です。

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