アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が現地のファッション&ビューティの最新ニュースを解説する。今回は米大手百貨店ノードストロム(NORDSTROM)がニューヨークに出店した新タイプの店舗を前編・後編の2回にわたってリポートする。世界の小売業者が注目するこの店は何が画期的なのか。
ノードストロムがニューヨークのマンハッタンに新店舗をオープンした。グランドオープニングは10月24日。場所はセントラルパークの西南の角にあるコロンバスサークルから2ブロックほど北側の57番ストリート沿い、セントラル・パーク・タワーという7月に完成したばかりの有名な住居用高層ビルの足下に立地している。このマンションは高さ472m・131階建てで、世界で最も高い住居用ビルだ。
立地が立地だけに住んでいるのは超富裕層ばかり。リッチな顧客層を頭上に頂いての新店舗ということになる。
シアトルに本社を置く同社は現在米国内にデパートメントストアを110店舗展開している。主要な大都市圏にはほぼ出店しており、NYにも店舗を持っているのだが、マンハッタン内には店舗がなかった。唯一出店しているのはアウトレット業態「ノードストロム ラック(NORDSTROM RACK)」と、昨年この新店の隣にオープンさせたメンズ、ECで注文した商品の受け取りや返品が行える「ノードストロム ローカル(NORDSTROM LOCAL)」だけで、フルラインの通常店舗では初出店なのである。
そのためオープニング時には、ニューヨーカーにとっては待ちに待った店舗という文脈でメディアに報じられていた。
ちなみに新規の出店スペースがかなり限られるマンハッタン内において、メンズと隣り合わせて出店するのはかなり難しいことは容易に想像できる。おそらく相当前から綿密に計画していたのだろう。
店舗面積は32万スクエアフィート(約3万平方メートル)で、同社にとっては最大の店舗面積となっている。フロアは地上5階から地下2階の計7フロア。通常店舗は高くても3階なので今回はフロア数が多い。隣にメンズストアがあるため品ぞろえは女性専用となっていて、同社による正式な名称も「ウィメンズストアNYC」である。公式のステートメントでは、靴とバッグに力を入れて、靴は10万足(デザイナーブランドは50)、ハンドバッグは1万個(デザイナーブランドは3000)、ジーンズは6000本をそろえていると発表している。
ここで特徴をまず3つ挙げてみる。
1. ビューティ
ビューティ売り場が3つに分けられている。1階(740平方メートル)の化粧品売り場は、「サンローラン(SANT LAURENT)」など大きなブランドとそれ以外のブランドの2つに別れていて、さらに2階(560平方メートル)がスキンケアとサービスになっている。変則的なレイアウトとなっているのは、おそらく建物の構造上こうせざるを得なかったのだろう。建物の構造をゼロからやり直すのが難しいケースがマンハッタンには多く、変則レイアウトは普通のことである。
新しいのは2階のスキンケアのフロアだ。エレベーター(または階段)を出ると目の前で待ち受けるのが“ビューティヘブン”と名付けられたカウンターで、常駐しているコンシェルジュが案内や予約といった顧客サポートを提供している。ここからスキンケア売り場が始まるのだが、目を引くのは隣接しているサービスである。フェイスマッサージ、ネイル、ヘアスタイリングといったサービスを提供するテナントが売り場の隣に並んでいる。提供しているメニューの数をトータルすると100を超えるーーをうたい文句としている。
スキンケア売り場とビューティ関連サービスを隣接させる考え方は、例えば食品分野で物販と飲食を混在させるグローサラントと同じである。ECの時代に“それでもお客が来店する店作り”を考えるときに、ビューティ分野ではこういうアプローチがこれから必要になってくることだろう。
2. 物販以外の多数のサービス
スニーカーのクリーニング、靴の修理、「コンバース(CONVERSE)」とのコラボによるカスタムデコレーション、服のお直し、ギフトラッピング、パーソナライゼーション・スタジオなど物販以外のサービス売り場もあちこちに多数散在している。中でも私の興味を引いたのはパーソナライゼーション・スタジオだ。購入した商品にオリジナルの刺繍を施すといった特注品にするサービスである。
前述のビューティサービスや後編で説明する飲食など、人的サービスの多さがこの新店の特徴である。
3. 売り場とマーチャンダイジング
ノードストロム×ナイキ(NIKE)の店内コラボストア、バーバリー(BURBERRY)によるポップアップストア、伸び始めている新興ブランドを集めた「スペースブティック(SPACE BOUTIQUE)」、初回の「エバーレーン(EVERLANE)」を手始めに特定ブランドを短期間取り扱う「ポップイン@ノードスロロム(POP-IN@NORDSTROM)」ーー。この4つが特筆しておきたい売り場だが、後の2つは他の店舗でもすでに展開を始めており、この店舗のみのスペシャルは前の2つである。双方ともにデザインが奇抜で、路面に面しているため外側に向かって存在感をアピールしている。
さて、以上はごく一般的に認識されるこの新店のハイライトなのだが、本当のおもしろさは実は飲食、英語で言うところのホスピタリティー分野にある。
(12月26日の後編に続く)
鈴木敏仁(すずき・としひと):東京都北区生まれ、早大法学部卒、西武百貨店を経て渡米、在米年数は30年以上。業界メディアへの執筆、流通企業やメーカーによる米国視察の企画、セミナー講演が主要業務。年間のべ店舗訪問数は600店舗超、製配販にわたる幅広い業界知識と現場の事実に基づいた分析による情報提供がモットー