※この記事は2019年6月25日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
末恐ろしいスポティファイ育ち世代
皆さんは、音楽は何で聴いていますか?私は一時期ユーチューブ漬けでしたが、今はどっぷりスポティファイ(Spotify)派。回し者ではありませんが、一歩オフィスを出たら、寝る時と取材の時以外はイヤホンを耳に入れっぱなしでまさに“No Sportify No Life”。飛行機に乗る前日はその時の気分の曲を大量にダウンロードしています。
携帯電話はiPhoneなのでアップルミュージック(Apple Music)でもよかったのでしょうが、スポティファイ派になった理由は、吉井雄一・巴里屋社長のプレーリスト(選曲集)が欲しかったから。吉井さんが関わる「ミスター・ジェントルマン(MISTERGENTLEMAN)」のショーの選曲が好きで、さかのぼると「フェノメノン(PHENOMENON)」時代の選曲も好きでした。2012年春夏コレクションで、山下達郎がかかった時の透明感ある光景は目に焼き付いています。音楽はその場の空気を明らかに変えますよね。その吉井さんからスポティファイにプレーリストを出していると聞いて即ダウンロードしました。
使い始めて思うのは、「ストリーミング世代は感性の育ち方も違うんだろうな」ということ。ファッション関係者の多くは音楽から影響を受けていますが、ストリーミング以前と以後では影響の受け方は全然違うと思います。レコード&CDを所有する行為は、好きな音楽を自分で“掘り集める”感覚でした。でもストリーミングだと、アルゴリズムに基づくおススメが勝手に編集されて次々と届き、 “気がつくとそこにいた”感覚で新しい曲に触れている。ロック、ヒップポップ、ジャズ、EDMといったジャンルや年代を軽々と超えているのに、超えているという感覚すらなく、それが心地よい。これはレコード生まれのCD育ちからすると、ものすごいカルチャーショックであり同時に快感です。
そうやって出合ってハマっているミュージシャンが、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)です。村上隆とコラボしたり、モード雑誌の表紙を飾ったり、「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」の広告キャンペーンに参加したりと、すでに何かと話題の17歳。ささやくような歌声はそれこそ何系とカテゴライズできませんが、脳内に響いて残ります。
と!この原稿を書いていたら原宿のセレクトショップ、グレイト(GR8)が、ビリーとの限定コラボコレクションを6月23日から販売中との記事が上がりました。さすがグレイト、速いです。それにしても記事に使用している写真が斬新です。ビリーがホテルか何かのバスルームで鏡を使って自撮りしています。
ビリーと同世代がまもなくファッションビジネスシーンにも登場してきますが、きっと彼らが作る服は、それ以前の世代が作る服とは何かが違うはずです。アプリで音楽を作り、レーベルに属さずネットを介してファンに直接届けるストリーミング世代のミュージシャンと同じく、服の作り方や売り方も変わってくるはずですし、すでにそうなりつつあります。
そういえば、LVMHプライズの取材で知り合った新進ブランド「カイダン・エディションズ(KWAIDAN EDITIONS)」のデザイナーデュオは、自分たちを“根無し草(フローティング)”と表現していました。夫のハン・ラー(Hung La)はベトナム系アメリカ人で妻のレア・ディックリー(Lea Dickely)はフランス人。働く場所はロンドン。カテゴリーに収めたくなるのが取材する側の心理ですが、彼らのルーツもクリエイションも“何系”と収めようとするのは無理があります。魅力を感じたらカテゴライズせず、あるがまま受け入れるべしなんだ……。そう思います。
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