※この記事は2019年7月1日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
通勤のお供におススメのエッセイ「男子観察録」
ヤマザキマリさんのエッセイ「男子観察録」(幻冬社文庫)がおススメです。映画「テルマエ・ロマエ」の原作者であるヤマザキさんの文章は、深い知識に裏打ちされていてかつ、軽妙。その人間観察力やどんなテーマもユーモアに昇華する語り口が素晴らしく、スマホ疲れした通勤のお供にぴったりです。
同書では古今東西の男性25人を取り上げ、その魅力を解説しています。家の近所の書店を巡回中に思わず手に取ったのは、表紙にキューバの革命家チェ・ゲバラ(Che Guevara)のイラストが載っていたから。さらに目次に十八代目中村勘三郎とスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)、サンドロ・ボッティチェリ(Sandro Botticelli)と山下達郎、加えてマルコ少年と並んでノッポさんなどの名前を確認して迷うことなく会計に向かいました。
くしくも先週、「WWDジャパン」7月1日号を校正中に、「マルニ(MARNI)」2020年春夏メンズ・コレクションのインスピレーションがチェ・ゲバラであると知りました。赤ペンを片手に若手記者に「チェ・ゲバラって何した人かわかって校正している?」と先輩風を吹かせましたが、かくいう自分が一度もゲバラを通っておらず、「大して語れないわ」と自戒していた矢先に書店で例のベレー帽を前後ろに被ったイラストのチェ・ゲバラと目が合ったというわけです。そしてヤマザキさんが書く、「Tシャツで有名なアイコンの人」というツカみから始まり、「文章や絵や音楽と同じく、自らの思想で群衆を動かす事もいわばひとつの表現だ」と着地するゲバラ評にしごく納得したのでした。
「マルニ」のクリエイティブ・ディレクターであるフランチェスコ・リッソ(Francesco Risso)は、チューリップハットをかぶっている姿がNHK教育テレビの工作番組に登場するノッポさんに似てなくもないし、ヤマザキさんと気が合うかも。2人の対談が実現したら面白いかもしれません。
メンズファッションのアイコンは個人的に、見るからに“イケメン”であること以上に、このエッセイに登場するような人たち、つまりバランスを崩しかねないほどに何かに熱中したり、偏っている嗜好・志向・思考を持っていたりする人が気になります。そうやってじりじりと命を燃やしている人たちからにじみ出る強さがスタイルとなり人を惹きつけると思うからです。ジェントルマンの権化みたいな英国ウィンザー公爵も、多趣味・多恋愛が独特なスタイルの礎になったと聞きます 。
そう言えば、スティーブ・ジョブズがインスピレーション源のコレクションって見たことがないですね。ヤマザキさんの文章を通じてジョブズの魅力を再発見し、ジョブズの生き方にオマージュを捧げるコレクションを見てみたいと思いました。
IN FASHION:パリコレもストリートも。ジュエリーもインテリアも。今押さえておきたい旬なファッション関連ニュースやコラムを「WWDジャパン」編集長がピックアップし、レターを添えてお届けするメールマガジン。日々の取材を通じて今一番気になる話題を週に一度配信します。
エディターズレターとは?
「WWDジャパン」と「WWDビューティ」の編集者から、パーソナルなメッセージをあなたのメールボックスにダイレクトにお届けするメールマガジン。ファッションやビューティのみならず、テクノロジーやビジネス、グローバル、ダイバーシティなど、みなさまの興味に合わせて、現在9種類のテーマをお選びいただけます。届いたメールには直接返信をすることもできます。