「イソップ(AESOP)」はこのほど、ブランドの33年の歴史を記録した本を発売した。初の書籍は総336ページにおよびイソップの理念や企業努力、製品開発における苦難などさまざまなエピソードを振り返る。文芸作品やフォトエッセイを盛り込み、写真は日本人写真家の山本豊が撮り下ろした。ブランド立ち上げから携わるスザーン・サントス(Suzanne Santos)=チーフ カスタマー オフィサーに、これまでの33年について聞いた。
WWD:本を出版した理由は?
スザーン・サントス=イソップ チーフ カスタマー オフィサー(以下、サントス):以前にも出版のオファーはあったのだが、ずっと断ってきたの。イソップでは店頭に並ぶ製品を3つずつ並べるなど「3」の数字を大切にしているのだけど、今年はブランド創立33周年というタイミングもあり、創業者のデニス・パフィティス(Dennis Paphitis)がOKを出した。
WWD:どのような内容になっているのか。
サントス:本の中身、1ページ1ページがイソップの世界そのもので、とてもプライベートなこともたくさん刻まれている。われわれの独特な世界観についてもっと知りたい、と思う人が世界中で多くいたし、今もいるはず。この本は、ある意味イソップの世界に入れる“鍵”のようなものだと思うわ。私は創業当時から携わっているので、自分にとっては人生の一部でもあるわね。一つの製品にここまでの時間と努力、感情を注いでいることを知らない人は多いと思うわ。それを知れる素敵な本になっているのよ。
WWD:ここまで世界中で愛されるまでに成長したのはなぜ?
サントス:まずは美容に対する全く新しいアプローチをとったこと。処方はもちろん、パッケージから店舗デザイン、そして美容にまつわる会話までを変えたかった。でもそれはあくまでも私たちの思惑で、お客さまに支持を得たのは、結局は製品力の高さだと思っている。製品においてはもちろん中身にもこだわっているが、使うだけで感情を掻き立てるような"エモーショナル"なものに仕上げているのも誇りにしていること。効果を実感した時の満足感だけでなく、それぞれのテクスチャーや香りを手にした時に、何らかのリアクションを引き起こす。それが大切。
WWD:店舗でも似たような体験をする。
サントス:もちろんよ。製品以外にも昔からこだわっていて、そういえば創業当初の面白いエピソードがあるわ。デニスのこだわりとして、昔はお客さまへのお釣りは必ず新札にしていたの。しかもその新札をローズオイルと一緒に冷蔵庫の中に保管することにより、お釣りを受け取ったお客さまはひんやりした感触とローズの香りを感じるでしょう?本当に小さなことだと思うけど、このように細部にこだわり続けたのよ。毎日銀行に行って新札をもらっていたから、銀行のスタッフには嫌われたけどね(笑)。あとは会社として食卓を囲ってみんなで食事をとることを推奨している。そこで大切なコミュニケーションが生まれるからね。今はデジタルですぐに連絡をとることができるけど、やっぱり対面で話し、食事をシェアするのは全く違うわ。だからニューヨークやロンドンのオフィスでは、早朝から出社して同僚と一緒に朝食をとっている社員が多いの。
WWD:「イソップ」は全店舗内装が異なり、リアル店舗にかなりの力を入れてきた。デジタルが発達している今、店舗にここまで投資する理由は?
サントス:デジタルだけで賄えないものがあるからよ。D2Cブランドが続々とリアル店舗を出しているのを見ればわかるでしょう?市場に多数のブランドや製品が溢れている今は、どれを選んだらいいのかわからない消費者も多い。ネットですぐに情報を手に入れられるけれど、実は製品を触ってみたり、プロのアドバイスを求めていたりするはずよ。もちろん、デジタルにも投資をしているけどね。これからの「イソップ」の成長は主にデジタルから生まれるものだと思うわ。
WWD:デザイン性の高さも人気の理由の一つ。
サントス:デザインはデニスにとって大切なこだわりの一つ。パッケージや店舗は、われわれが全てを賭けて作った大切な製品を包み込むものだから、中身同様に重要でしょう?そして他者と同じことはしたくない。常に業界をリードする存在として、ほかにはないデザインにもこだわっている。
WWD:今は体や肌につけるものにこだわり、ナチュラルな製品を求める人も増えている。“クリーンビューティ”というワードも浮上してきたが、イソップも創業当初から植物由来の原材料とテクノロジーを融合してきた。
サントス:その通りよ。イソップのスタンスは、フットプリント(環境への影響)はなるべく少なくありながら、きちんと満足できる効果を届けること。今はいろいろなワードがマーケティングのために使われており、残念ながらそれに影響されてしまっている消費者もいる。そのように操られている消費者のことを思うと悲しくて仕方ないわ。われわれは創業当初から植物の力を生かし、処方に無駄なものも入れていない。そしてリサイクル可能なプラスチックを用いたり、遮光性のガラスの瓶を使うことによって防腐剤の配合をなるべく少なくしたり、金属製のチューブにこだわったりしている。そして“ループ(循環)”する製品づくりを心掛けているわ。まだ完璧ではないけど、今後も続けるわ。