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カリスマ創業者の後 エディターズレターバックナンバー

※この記事は2019年10月3日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

カリスマ創業者の後

 老舗セレクトショップ、サンモトヤマの自己破産申請のニュースを聞いて、小売業の格言を思い出しました。

 「店は客のためにあり、店員とともに栄え、店主とともに滅びる」

 小売業に関する雑誌や書籍の出版社、商業界の創業者である倉本長治氏が戦後まもない頃に遺した言葉で、小売業の本質を突いた言葉として語り継がれています。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長も著書の中で「好きな言葉」だと述べています。

 「店は客のためにあり、店員とともに栄え」は説明不要でしょう。「店主とともに滅びる」は経営者の失策や、創業の理念が揺らいだり、時代に対応できなくなったりすることを指します。

 サンモトヤマの創業者である茂登山長市郎氏は、戦後の復興期から高度成長期に「グッチ(GUCCI)」「エルメス(HERMES)」など欧州の高級ブランドを日本に紹介したカリスマ経営者であり、小説のモデルになったりもしました。90歳を過ぎても会長として現役を貫いた茂登山氏でしたが、2017年に96歳で死去。その後、同社は今年3月に長野県の実業家に全株式を譲渡したものの、5月にはそれを買い戻しました。信用不安の情報も飛び交い、ついには今回の自己破産に至りました。茂登山氏の死去から2年も経たないうちの急展開でした。

 もっとも同社の低迷は、1990年代以降に欧州の高級ブランドが次々に日本法人を設立して、直接上陸を果たした頃から始まっていました。帝国データバンクによると、同社の売上高は88年7月期が86億円、2002年7月期が67億円、18年7月期は29億円で赤字に陥っていました。カリスマの死去で求心力が失われ、山積していた問題が一挙に噴出したのかもしれません。

 同社に限らず、小売業やアパレルは創業者の強烈な個性を原動力に発展し、カリスマが退場した後に競争力を失ってしまうケースが多いといわれています。消費者相手のビジネスは他の業界よりも変化が激しいからでしょう。サラリーマン経営者の常識的な手腕では対応できず、時代に対する嗅覚に優れて、多少強引でも自分の意思を押し通せるカリスマ創業者が結果として消費者の支持を集めてきました。

 しかし企業であるからには「店主とともに滅びる」わけにはいきません。社長の最大の仕事は後継者の育成とも言われています。それは多くのファッション企業にとっての課題です。

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