※この記事は2019年7月9日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
イノベーティブという魔法の言葉
この春、久しぶりにニューヨーク5番街を歩き、ファッションビジネスの趨勢が凝縮される通りなんだとあらためて認識しました。今年に入り、「ヘンリ ベンデル(HENRI BENDEL)」(1月)や「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」(3月)など閉店のニュースが続いたことから寂しくなっているのかと思いきやそれほどでもなく、特にセントラル・パークからブライアント・パークまでの17通り分(徒歩約15分の距離)は、今もつわものたちがしのぎを削るブランドビジネスの関ケ原です。
「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「ティファニー(TIFFANY & CO.)」「ブルガリ(BVLGARI)」「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS」が角を取っている5番街と57丁目の交差点をセンター・オブ・センターだとすると、その数ブロック内にじりじりと攻め込んでいるのが「ユニクロ(UNIQLO)」と「ザラ(ZARA)」、そして「ナイキ(NIKE)」「アディダス(ADIDAS)」といったファストファッションやスポーツの企業であり、まさに時代を映しています。
その中でもとても印象的だったのが、650番地に昨年11月にオープンした「ナイキ」でした。「ナイキ ハウス オブ イノベーション000(NIKE House of Innovation 000)」という名前のこの新業態は、上海に続いて2店舗目で、デジタルとリアルの体験をその場で受け取れるのが売りです。平日の昼間、閑散としている店も多い中で、近未来感と開放感とがあるこの店には老若男女がそれこそ吸い込まれるように入っていきます。6層の上階を目指して買い物客が上がっていく様子は、なんだか宇宙船に吸い込まれる地球人みたいでした。
今の地球人を惹きつける魔法の言葉が店の入口に描かれていました。“WELCOME TO HOUSE OF INNOVATION”です。私もこの言葉に引き寄せられて入店しました。足を踏み入れたときの自分の心理を分析すると、「イノベーティブなモノ、コトに関わっている自分ってなんだか誇らしいしワクワクする」です。軽いですね(笑)。「ナイキ」のスニーカーを履いたところで、走る速度が超人的に速くなるわけでないことはわかっていますが、スニーカーを手に取り眺めているだけでイノベーティブな新しい自分になった気分(笑)です。店内に掲げられた“SEE IT, SCAN IT, TRY IT ON”の文字にも心をつかまれました。
どう褒められたらうれしいかは時代の価値を映す鏡だと思いますが、“イノベーティブである”は今や、“カッコイイ”とか“強い”、“カワイイ”“スマート”などと並列な褒め言葉なのだと思います。閉塞的になりがちな時代に風穴をあけるヒーローの姿と重なるからです。
だから「グッチ(GUCCI)」が、米国のビジネス誌「ファーストカンパニー(Fast Company)」がイタリアのミラノとフィレンツェで今日7月9日から3日間開催する第1回「ヨーロピアン・イノベーション・フェスティバル(European Innovation Festival)」のスポンサーを務めると聞いて、目のつけ所がさすがと思いました。どんな内容かはどうぞこちらをお読みください。「グッチ」というブランドがなぜ今強いのかがよくわかります。きっとそこには次の時代を引っ張るヒーローたちがいる、そんな予感がします。
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