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「グレタ たったひとりのストライキ」 両親が見つめ続けた真実

 16歳で米誌「タイム(TIME)」が選ぶ2019年の「今年の人」と、科学界で話題になった「今年の10人」に選出されたグレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)。地球温暖化対策の強化を求めるスウェーデンの環境活動家として、9月にニューヨークで開催された国連気候行動サミットで、各国の首脳そして世界の大人たちに温暖化対策の行動に出るよう強く訴え、ときに怒りをにじませながら話すその姿は日本のメディアでも取り上げられ、彼女の名前を多くの人たちが知ったのだと思います。

 その彼女の強い意志、そしてエネルギーの源になっているのは何なのか、私はメディアに映し出される一部の言動のみしか知らなかったので、それを知りたくて一冊の本を手にしました。そこに書かれていたのは、想像をはるかに超えたものでした。

 本書「グレタ たったひとりのストライキ」は有名オペラ歌手であるグレタの母マレーナ・エルンマン(Malena Ernman)が、俳優で夫のスヴェンテ(Svante Thunberg)、妹のベアタ(Beata Ernman)、そしてグレタと共に書き上げた本であり、母親の目線で書かれています。

すべては授業で観た映画が始まりだった

 18年に、スウェーデンの国会議事堂の前で地球温暖化に対するストライキを一人で始めたことをきっかけに、世界に知られるようになったグレタですが、「すべては、11歳の時にグレタが授業で世界中の海に浮遊する大量のごみに関する映画を観たことから始まった」とあります。その映画を観ている間、彼女は泣き続け、南大西洋では浮遊プラスチックごみが集まり、その面積がメキシコよりも大きい島を作っていることにショックを受けたといいます。

 5年生になった当時、毎晩寝つくまで泣き、登校しながら泣き、授業中でも休み時間でも泣き通し、教師たちはほぼ毎日電話をかけ、そのたびに主夫になった父が彼女を連れて帰っていたそうです。

 グレタは摂食障害になって10キロ痩せ、家族以外とは話さなくなり、うつ、アスペルガー症候群(自閉症に含まれるひとつのタイプ)、選択性かんもく症(家庭で家族が相手であれば自由に話せるにもかかわらず、学校や幼稚園など、家族以外の人が相手の場合に話せなくなる疾患)と診断されたのでした。今となっては多くの子どもや若者に影響を与え、大人をも動かす彼女が、それまで他人と話をせず食事もとれない日々が続いていたのです。そして専門家の話を聞いたり、書物を読むなどして独学で気候問題を学んだというのです。

「才能があるのに繊細すぎる少女」

 「暗闇の中に隠れ、あらゆる意欲を失った」というグレタと、その彼女を支え、ときに葛藤する家族の姿がそこにはありました。会話を交えながら、隠すことなくありのままの姿が淡々と書かれているので、その状況がストーリーとして入ってきます。両親がグレタの世話にかかりきりになっていたころに、妹のベアタのアンガーアタック(怒り発作)が増え、「パパもママもグレタのことばかり心配して、私のことはほったらかし。ママなんか大嫌い」と本棚からあらゆるDVDを投げつけるシーンには、読みながら胸が締め付けられるような思いでした。ベアタもまたADHD(注意欠如・多動症)、アスペルガー症候群、強迫性障害、反抗挑戦性障害の傾向があると診断された両親の当時の心境は、私たちの想像を絶するものだったのだと思います。

 そのような過酷な状況の中から現在に至るまでの道のりが、家族の前で語られるグレタの言葉と両親の思いと共につづられています。そして彼女の言葉によって家族も影響されていきます。気候問題や地球温暖化を中心とした環境問題の話は、ときに数字や専門用語の羅列で難しく感じてしまいますが、彼女から発せられることばは、とても現実的で身の回りに起こっている事実であり、理解しやすいことばで語られています。

「あのとき、彼女は見えない境界線を越えた」

 グレタがたった一人でストライキをすると計画し、自転車で国会議事堂へ向かう背中を見送りながら、「あのとき、彼女は見えない境界線を越えた。あと戻りすることも、取り消すこともできない境界線を」と語った父親のそのときの気持ちが、ありありと伝わってくるようでした。本音を言えば、両親はストライキをしてほしくなかったといいます。グレタは多くの批判を受けることも覚悟の上だとはいえ、両親として娘を守りたいと思うのは当然のことでしょう。一方で、家族以外の人と話すことができなかった娘が、大勢の前ではっきりと自分の考えを述べる姿をまるで奇跡のように感じていたのでしょう。

 その後のグレタの活動は多くの人に知られることになり、日々注目を集める存在になりました。本の中でとても印象的だったのは、空き時間にこっそり勉強を教えてくれたグレタの先生のことばです。「私はこれまで、才能があるのに繊細すぎる少女が精神的に壊れてしまう例を、たくさん見てきました。もうたくさんです。私の方が限界なんです」と言って彼女を助けていたことでした。世の中の問題の大小にかかわらず、それを自分ゴトとして捉え発信していくことに、大人も子どもも関係ないのだということです。私たちはまず現実を知ることだと16歳の少女に教わりました。本書はそれを知る第一歩になると思います。

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