東京・原宿のヘアサロンで店長を務めた後、2018年に独立。フリーランス美容師として、個室シェアサロン「ゴウトゥデイシェアサロン(GO TODAY SHAiRE SALON)」でサロンワークをこなす宮永えいと。美容師をライフワークとしながらも、仕事としての動画制作や、メンズメイクに関する情報発信を行うなどマルチに活躍する彼に、美容師の新しい働き方について聞いた。
WWD:以前のヘアサロンで働いていたときと、シェアサロンで働くようになった今とでは、美容師としての働き方は変わった?
宮永えいと(以下、宮永):めちゃめちゃ変わりました。給料が3倍になり、技術の幅が広がったと思っています。サロンには独自のスキルの“うり”があって、以前はそのスキルのみを磨いていましたが、今はそれぞれ所属していたサロンが異なる美容師が集まっていて、お互いのスキルをシェアしているので、いろいろな知識や技術を習得できるようになりました。給料が3倍になったのをきっかけに、サロンでの勤務日を減らして、動画制作に割く割合を増やしています。
WWD:マルチに仕事をしている印象があるが、今はどういう働き方をしている?
宮永:“ライフワークは美容師”と考えているので、ベースはサロンワークです。週4日は「ゴウトゥデイシェアサロン」でサロンワークを行って、残りの3日は動画制作という週が多いですね。フリーランスになったのが1年前で、何をやろうと思ってフリーランスになったかというと、広告や動画やメディアがやりたかったからでした。母がもともとファッション誌の制作に関わっていたこともあり、編集や発信することに興味があって、独立して1番最初にやったのは動画の制作チームを作ることでした。以前に所属していたヘアサロンで美容師をやっていたときにできたコネクションを使ってメンバーを集めました。そのチームでプロモーションビデオや企業のウェブCM、インスタの広告動画などを請け負いで制作する一方で、自分で「ユーチューブ」の発信もやっています。
WWD:動画制作のノウハウはどうやって学んだ?
宮永:まず「自分にも動画制作ができる」と思ったきっかけが、前のサロンを辞める前にあったんです。お客さまの女の子が、来店するたびにヘアカラーに関する知識が増えていて、ある日僕でも知らない施術を彼女が知っていたんです。驚いて何で知っているのか聞いたら、「インスタグラムで毎日カラーについて調べまくっている」と。そのとき、SNSには専門的な知識が溢れていると、改めて知ったのと同時に、発想を変えれば僕にもできると思ったんです。インプットしまくれば、プロの知識を超えられる。その日から1年間くらいはずっと動画を見ていました。企画書の作り方とかもインターネットで学んで、今ではラフやストーリーとかも全部自分で考えて作っています。
WWD:メンズメイクに出合ったきっかけは?
宮永:「ファイブイズム バイ スリー(FIVEISM × THREE)」のバータイプのファンデーション「ネイキッドコンプレクションバー」が発売されるときに、公式サイトを見たのがきっかけですね。それまで僕のメンズメイクのイメージは、韓国好きな男の子や(当時の)りゅうちぇるが行っているメイクで、女の子と同じようにきれいさや華やかさを求めているものだったんです。でも「ファイブイズム」はデビッド・ボウイをフィーチャーするなどそれとは違ったので、何か違うなと引っかかりました。女の子らしいイメージとは違うメンズメイクに気付いて、メンズメイクの可能性を感じるようになりました。そして、「営業などにおいて自分の印象を上げるためのビジネスマンメイクが、これからくるんじゃないか」とひらめいたんです。そこで発信を始めるために、ビジネスマンメイクをインプットしまくってプロメイクを越えようと思い始めた矢先、そのインプットに使うコンテンツがなさ過ぎることに気付いたんです。それで、ないなら自分で動画を作ってしまおうと思いました。
WWD:メンズメイクの動画の大半が、ビジュアル系になるためのものでしたよね。
宮永:そうですね。僕が今発信しているのは、ビジネスマン向けの“身だしなみメイク”。男性の“あるある”で、20代は「キラキラしているね」と言われるのに、30代になると「覇気がないね」と言われてしまう。その原因の1つは、肌や自分に対してのあきらめだと思うんです。ひげが青くなるのは仕方がない、くすんでいるのもクマも仕方がない……。男性はそうなりがちだけれど、女性は年齢を重ねてもメイクでちゃんときれいにしている。男性もそういうところをアプローチしていけば、ずっとフレッシュな印象で、営業マンとして仕事に勤しむことができるのではないかと思っています。
WWD:「ユーチューブ」って短くて見やすいものの方が再生回数が多いイメージなのですが、宮永さんの動画は長いですよね。何か戦略があってのことですか?
宮永:そもそもユーチューバーになりたいわけではないので(笑)、再生回数はそれほど意識していないですね。それより今は、メンズメイクの知識を正しく、丁寧に発信していくことが大事で、メンズメイクの市場を作る期間だと思って「ユーチューブ」を活用している感じです。
WWD:これまでメンズメイクの情報を発信してきて気付いたことは?
宮永:「メンズメイクに一番近い領域の人ってどんな人だろう」と考えたときに、以前はファッションが好きな人だと思っていました。なので、ファッションの発信もすることでメンズメイクの入り口を広げようとしてきたんです。でも最近分かったことは、ファッション好きな人は服でお金が消えていってしまうので、真の消費者にはならないということでした。そこでどんな人がターゲットになるのか改めて考えたところ、ガジェット系や革製品など、男っぽいものにオタク気質がある人だと気付きました。そういう男性って、収集癖があってカスタムが好きな人が多く、そこがメンズメイクアイテムにリンクするんです。メンズメイクは、ブランドによって効果や効能、成分が違うので探求心をくすぐられるし、カスタムもできる。中学生の頃、ヘアワックスを組み合わせて効果を変えることにハマった男性は少なくないと思いますが、その感覚ですね。今はそういう人たちをユーザーだとイメージして動画配信しています。
WWD:配信するメイク動画のこだわりは?
宮永:僕がやっているのは、華やかにきれいにするメイクではなく、“修正”なんです。メイクはスキンケアの延長線上にあると思っていますね。“スキンケアを年中頑張ったけど、なくせない悩みをメイクで3秒で直そう”がコンセプトですね。それを分かってもらうために必死で、ファンデーションを「フェイススタイリング」と呼んでみるなど、使用する文言も試行錯誤しています。
WWD:宮永さんの動画って、自身が出演してメイクしていることが多いですが、自身でメイクしていて気付いたことは?
宮永:前のサロンにいたときは、大半のお客さまから「えいとさん疲れていますね」って言われていたんです。当時は僕もスキンケアなどはしていなかったのですが、今よりも働いている時間は少なかったですし、疲れの度合いでいえばそこまで今と変わらないのに……。でも最近は「疲れていますね」と言われなくなりました。多分、ファンデーションなどをぬっているからで、毛穴とかクマとかを隠すことによってトーンアップして、疲れが見えなくなるからなんです。人と関わるうえで、「疲れてますね」って相手に言わせてしまうのは、相手に気をつかわせてしまっていることだと感じています。今はそれがなくなって、フラットに接することができていると思います。
WWD:2020年は、メンズメイクはどうなると思う?
宮永:現状でいうと、メンズメイクアイテムで“攻めている”のは「ファイブイズム」しかないんです。でもいろいろなメーカーが、探り探りでBBクリームなどを展開し始めています。それが徐々にビジネスとして軌道に乗り、「成功するかも……」という流れが出る気がしますね。メンズBBクリームがある程度認められる世の中に、20年はなると思います。
WWD:自身の目標は?
宮永:20年は、「ユーチューブ」の登録者数を増やしたいですね。そして次のステップとして本を出版し、それからメンズメイクの商品を作りたいと思っています。それが当面の目標ですね。