1月4日。晴れ。正月気分も抜けきれないまま、ロンドン・メンズ・コレクションから2020-21年秋冬シーズンのコレクションサーキットがスタートしました。他の都市に比べてメジャーブランドが少なく、というかほぼゼロに近い今のロンドンメンズ 。でも、王道ではない“裏街道”だからこそ見えるものもあるはずです。例えば新進気鋭のデザイナーだったり、ファッションウイークの新たな試みだったり。そんな期待を込めて、現地からリポートします!
12:00「ジョーダンルカ」
新年早々航空機のトラブルに見舞われ、ロンドンのヒースロー空港に着いたのがファッションウイーク初日の午前9時。予定よりも14時間遅れといういきなりのピンチ。「ジョーダンルカ(JORDANLUCA)」のショーまでは3時間というギリギリ具合ですから、最悪トップバッターのショーをスキップするという選択肢も頭をよぎりました。でもそこは諦めずに急いで準備し、滑り込みでなんとか会場に到着。結論は、見てよかったです。カルチャー系ストリートのロック仕立てはやや二番煎じ感こそあるものの、素材の品質やディテールの作り込みが1年前に比べて各段に成長しており(え、こんなにいいブランドだったっけ?)と思わず過去のルックをチェックしてしまいました。おそらく量産体制はほぼ度外視に近いのでしょうが、そんな自由奔放さは面白くもあり、伸び代を感じさせてくれました。
13:00「イーストウッド ダンソー」
続く「イーストウッド ダンソー(EASTWOOD DANSO)」は、黒人のための服。さまざまな思想やクリエイティビティーがあるのだとは思いますが、この完成度ではちょっとまだ厳しそう。クリエイションにかける思いを直球で伝えるのではなく、あえて難解複雑にして背景に何かある風を演出するのは、よっぽど実力がないとチープに見えてしまう危うさがあるなと改めて思いました。
14:00「エドワード クラッチリー」
「エドワード クラッチリー」2020-21年秋冬ロンドン・メンズ・コレクションから
新人デザイナーがスケジュールを埋める中、着実にキャリアを重ねている「エドワード クラッチリー(EDWARD CRUTCHLEY)」は貫禄すら感じさせるショーでした。どんなブランドのファッションショーでも15〜20分遅れでスタートするのが当たり前なのですが、会場がパンパンなせいかきっちりオンタイムでスタート。グラムロックと、1980年代後半から90年代の“あぶない刑事”やバブルのファッションをごった煮したジャンルレスな無国籍スタイルのセンスはピカイチ。テキスタイルの達人でもある彼のこだわりは今シーズンも随所でさく裂。身幅たっぷりのブルゾンやダブダブ袖のコートにはミンクファーを使ったり、エリック・ジョーンズ(ERIK JONES)の際どすぎるイラストをシルク素材に全面プリントしたりと、ビジネスというよりもライフワークとしてのクリエイションという印象でした。
15:00「プロナウンス」
「プロナウンス」2020-21年秋冬ロンドン・メンズ・コレクションから
中国人デュオによる「プロナウンス(PRONOUNCE)」は、前シーズンのピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)でのショーを経験したからか、堂々とした潔いコレクションでした。アクセサリーやディテールのキャッチーな演出はまだまだ不器用なものの、ハイウエストのパンツとロングコートのバランス感やいつにも増して高級感溢れる素材使いなど、インディーズからメジャーに駆け上がりたいという覚悟を感じました。「ディーゼル(DIESEL)」との協業も決まり、自信がついたのかな。
15:30「1X1 スタジオ」
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ニットを得意とするデザイナーの、リサイクル素材を用いたコレクション。会場は地下のクラブで、バッキバキのアングラムードです。さぞかし面倒くさい服が出てきそうだなと予感していたのですが、実際に見てみると、やっぱり面倒くさかったです(笑)。とはいえ中にはかわいいピースもありじっくり見てみたかったのですが、残念ながら時間がなく駆け抜けるように次の会場へ向かいました。
16:00「パリア / ファルザネ」
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1年半前に見た「パリア / ファルザネ(PARIA / FARZANEH)」のコレクションにココロ奪われ、それ以降も個人的に注目していましたが、翌シーズン以降は引き出しの少なさと難解さが目立ち、手探りが続いている印象でした。でも今回はようやく本領を発揮。イラン風の結婚式の演出からスタートし、ショーは和やかに幕を開けます。デザイナーのルーツであるイランの伝統的な柄使いはそのままに、“ゴアテックス インフィニアム プロダクト”などのハイテク素材をふんだんに使用してアウトドア要素をミックス。伝統と現在の文化をファッションを通して結びつける手法は一歩間違うとこじつけっぽくなりがちな危険がある中、違和感なく融合させたセンスが好きでした。
17:00「べサニー ウィリアムズ」
「べサニー ウィリアムズ」2020-21年秋冬ロンドン・メンズ・コレクションから
「べサニー ウィリアムズ(BETHANY WILLIAMS)」のショーも1年半ぶり。当時はまばらだった観客も今回は大入りで、またもオンタイムでのショー開始です。よくまあここまで注目されるブランドになったなと驚きました。サステナブルな生産や社会的弱者へのエンパワーメント、犯罪者の社会復帰の支援といった慈善活動をファッションを通じて行う姿勢が多くの人の心を動かした証なのでしょう。今回は子供のホームレスを支援する団体とコレクションを制作したそうです。クリエイションの幅も広がってきたので、荒さが取れて洗練されてきた時がより楽しみ。
18:00「ジョン ローレンス サリバン」
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「ジョン ローレンス サリバン」2020-21年秋冬ロンドン・メンズ・コレクションから
もはやロンドンメンズの看板ブランドの一つといってもいい、俺たちの「ジョン ローレンス サリバン(JOHN LAWRENCE SULLIVAN)」です。今回も突き出した肩のチェスターコートやスーツ、ピタピタのレザーパンツなど、ロックをベースにした得意の骨太テーラリング。ウエストにゴムを配して絞ったことで、肩がより際立ちます。きっと似合わないだろうけど、着てみたい。モデルは目を見開いて視線はまっすぐに向き、早足でランウエイを駆け抜けるという迫力のある演出でした。
18:30「バンド オブ アウトサイダーズ」
「バンド オブ アウトサイダーズ(BAND OF OUTSIDERS)」は創設者のスコット・スターンバーグ(Scott Sternberg)がブランドを去ってブランド一時休止以降日本ではすっかりご無沙汰な印象ですが、その後新体制で復活し、まだまだ頑張っております。でもちょっと普通すぎて個性が不足気味。僕も全盛期のころはオックスフォードのBDシャツを買いまくっていたファンなだけに、今後の奮闘に期待します。
19:30「ロビン リンチ」
急ぎ足で向かったのは、2019年8月に日本で開かれたファッションコンペ「ビッグ デザイン アワード(big design award)」の大賞に選ばれた「ロビン リンチ(ROBYN LYNCH)」のプレゼンテーション。デザイナーの出身地であるアイルランド伝統のアランセーターをストリートウエア仕立てにし、カラフルスポーティーだった前シーズンよりもぐっと大人びた印象でした。個人的には前シーズンの快活さが好きでしたが、これはこれで好きな人はいそうですね。
21:00「チャールズ ジェフリー ラバーボーイ」
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「チャールズ ジェフリー ラバーボーイ」2020-21年秋冬ロンドン・メンズ・コレクションから
本日のトリは「チャールズ ジェフリー ラバーボーイ(CHARLES JEFFREY LOVERBOY)」。ロンドンメンズ最後の切り札ともいえるヘンタイです(もちろんいい意味で)。ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivian Westwood)やジョン・ガリアーノ(John Galliano)、川久保玲らからきっと影響を受けているであろう彼のコレクションは、はっきり言って解読不能。とはいえ、それでも許せてしまうパワーと力強さを秘めており、とにかく俺が俺がの我の強さに圧倒されます。シーズンごとに、(今シーズンはそろそろクオリティーも向上しているかな)と淡い期待を寄せてはみるものの、これがまた何も変わらんのです(笑)。ただその変わらなさが人間ぽくもあり、愛される理由なのかも。服の品質はさておき、世界観を構築する力は群を抜いており、今シーズンも唯我独尊。ステージ中央のミラーボールの下には不気味で意味深な木が配置され、モデルたちは祈りを捧げたり、手を掲げたりして、新興宗教の儀式のような演出で観客を引きつけます。伝統衣装からパンクまで、時代感も性差も関係なく大胆に融合させたラバーボーイスタイルを引き立てていました。クリエイションの背景に何かをにじませたいなら、ここまで徹底してないとダメですね。でもこの巨大セットを組む資金はどうしているんだろうか。近日中に彼に取材予定なので、聞いてみようかな。