デザイナー・廣川玉枝が 紐解く「赤」のルーツ
2022/12/19
創業150年の資生堂が唯一そのまま社名を掲げ、独自の日本的美意識を体現し続けているグローバルプレステージブランド「SHISEIDO」。その代表的なプロダクトを入り口に、日本の伝統文化やルーツと接点を持つさまざまな表現者たちへのインタビューを通して、「日本の美」の共通項を見出していく。
第3回はデザイナーの廣川玉枝にインタビュー。服飾ブランド「ソマルタ(SOMARTA)」を主軸に、家具や車いすなどのプロダクトデザイン、芸術祭では祭そのものの創出を手掛けるなど、ボーダレスな活動を続けている。数あるクリエーションの中で際立つ、色彩としての「赤」。彼女の目に映るその魅力とは。
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デザイナー・
廣川玉枝が
紐解く
「赤」のルーツ
廣川玉枝(ひろかわ・たまえ)イッセイ ミヤケを経て、2006年SOMA DESIGN設立。同年、服飾ブランド「ソマルタ」を立ち上げ、07年春夏東京コレクションでデビュー。第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。18年「WIRED Audi INNOVATION AWARD」受賞。14年「廣川玉枝展 身体の系譜」、21年「廣川玉枝 in BEPPU」など単独個展をはじめ、東京オリンピックの表彰台ジャケットをアシックスと共同開発するなど、企業とのコラボレーションも多数。現在参加している「DESIGN MUSEUM JAPAN展 集めてつなごう 日本のデザイン」は22年12月19日まで国立新美術館で開催中
誰もが美しいと思う「普遍」を目指して
- 「ソマルタ」のシグネチャーアイテムである無縫製ニット “スキンシリーズ” は、2006年のブランドデビューと同時にスタートし、現在も続いています。10年代はレディ・ガガ(LADY GAGA)の着用などでたびたび注目を集め、17年にはMoMA(ニューヨーク近代美術館)収蔵のニュースでも話題に。今年で16年目となります。
- “スキンシリーズ”はブランド設立時からの根幹です。「第2の皮膚」のコンセプトを基軸にここまで続いています。プロダクトとしての佇まいや品質は変わらないということが、理想的だと考えています。時代を超えて生き続ける、普遍的なものづくりに取り組みたいと考え、研究開発をつづけようと決めました。
- 「ソマルタ」の基本姿勢として、いわゆるトレンドよりも普遍性に重きを置いているのでしょうか。
- デザインや美意識に「普遍」と「流行」があるとしたら、私は「普遍の美」を目指したいと考えています。時代を超えることができる良いものを作り続けるのは難しく、そこに魅力があると思うからです。以前、資生堂で「一瞬も 一生も 美しく※」というコピーがありましたよね。「一瞬」という点のメッセージであると同時に、「一生」の長い時間軸もある。その両方を目指すというのは本当にすごいなと感心したのを覚えています。資生堂のフィロソフィーを端的に表した強い言葉で、今でも好きなコピーです。 ※ 資生堂が2005年に定めたコーポレートメッセージ。14年の広告コピーでも登場
- 「普遍」を追求するモチベーションはどのようにキープできるのでしょうか?
- 私が追求する普遍は、時代を超えることができる美しさです。例えば夕焼け空や海など、自然が織りなす情景を見るとき、誰もが心の底から美しいと思うのはなぜだろう?というようなことをいつも考えています。いつもおいしい老舗の蕎麦屋とか、ロングセラーの化粧品もそうかもしれませんが、時間を超えて美しい、おいしいと思える人間の根源的な感覚ってありますよね。それが何なのかを知りたくて、私は服を作り続けているのだと思います。
- 肩書きは「ファッションデザイナー」ではなく、「デザイナー」ですね。
- 世の中には様々な職種にデザイナーと呼ばれる人たちがいます。建築、グラフィック、プロダクトなどのデザイナーたちは、ものづくりのペースがファッション産業と比べて開発期間が長期にわたるものもあります。「10年先の建物を作っている」みたいな話を聞くと、だいぶ未来だなと思う一方、私はそういう時間をかけて丁寧なものづくりを提供する「デザイナー」のあり方に共感しているところがあって。世の中のあらゆることが博物学によって分類、分断されて、デザインも作るものによって分野が分けられてきましたが、私はなるべくそういう境界を取り払った上で、大きな「デザイン」という視点でものを捉えたいと考えています。じっくりと時間をかけてものを見たり作ったりすることが、子どもの頃から好きみたいです。
- 表層的なデザインではなく、人間の暮らしに根づく服。
- 例えば服や化粧を施すことで自分を超えた存在になろうとするのは、他の動物にはない人間だけの特徴です。私はそういった装うことで人が変化していくことに興味があります。デザインとは、人間とは何かを知ることだと思います。それが私の中で初めて形になったのが、「第2の皮膚」を目指した“スキンシリーズ” でした。
- 「第2の皮膚」は、服の境界を取り払うための道具でもある?
- そうですね。無縫製の製法にも大きな可能性を感じ、研究して生まれた皮膚のような衣服です。「ソマルタ」を立ち上げた時、ブランドの根幹となる衣服として “世界服” を目指そうと考えていました。
- 具体的に“世界服”とは?
- 例えば日本の着物、インドはサリー、ヨーロッパは西洋服など、土地の気候や風土、文化に根ざした民族服がありそれぞれに違いがあります。しかし、皮膚や肌は、国や地域、性別や年齢、民族、文化をも超えて人類誰もが持っているものです。“世界服”とは、地球上に存在する全ての人類が共通感覚を持って認識できる衣服のことです。“スキンシリーズ”では「第2の皮膚」をコンセプトに、皮膚のような道具としての衣服を作ることで、世界の人類共通の普遍性を持つ“世界服”のデザインになると考えたのです。
- 「ソマルタ」には着物をワンピースに仕立てた “キモノクチュール” というラインもあります。
- 「第2の皮膚」と並行する文脈で、着物もまた“世界服”なんです。老若男女問わずに、誰もが着られる民族服というのは、アジア諸国ならどこかの国や地域にあるかもしれないと思ってリサーチしたことがあるのですが、日本だけでした。面白いですよね。日本は平面の文化といわれていますが、着物が日常着だった時代の日本人は、平面が立体になったとき、つまり袖を通したときにどのように見えるかということを理解していました。ということは今、着物の形を洋装型に変えたとしても、日本の美意識を損なわないままに着物と呼べる服ができるのではないか。新しい技術を融合しながら、未来につなげることができるのではないかと考えました。日本ならではの、自然を身にまとおうとする姿勢は、重ねの美や色や模様で表現しています。テキスタイルも重要な要素の一つで、着物の形は男女とも同じだからこそ、美意識を布地で表現する必要がありました。だから染織の技術が発展したのだと思います。
宇宙とつながる「肌」、生
命がめぐる「赤」
- 「ソマルタ」の服には、トライバルな色柄、原始的な紋様が多い印象です。
- アフリカのボディーペインティング、インドのヘナタトゥーなどを引用したことがあります。昔から人間は、民族や文化に関わらず肌に何かを施し、表現をする行為を繰り返してきました。皮膚はまた、刺青やタトゥー、ボディーペイントのように、人間が祈りや願いを込めたり、自己表現をする為のメディアでもあります。祝祭や祈りの儀式などで神に近づいて、ひとつの宇宙を目指すために。それを衣服として実現することができたら人類の願いや夢がかなえられると思いました。
- 宇宙といえば、コスメティック (cosmetic) は、宇宙=コスモス (cosmos) と同語源といわれています。化粧の原点とも重なってきますね。
- 「肌で感じる」という言葉がまさにそれを表していますよね。人間は、宇宙とつながるために化粧や装いの文化を発展させてきました。肌は人体の中で最大の器官であり、なおかつ外側に開いた感覚器官。肌という存在について考えると「肌感覚」という表現はしっくりきます。
- そんな中、「ソマルタ」は赤をよく使っています。
- 赤のテーマは多かったかもしれません。人間に限らず、全ての動物が内側に持っている血を象徴する生命の色です。例えばインドには、赤を身にまとうと血行が良くなるというカラーエナジーと呼ばれる学術研究があるようです。目で認識する色が、脳あるいは肌に伝わって、実際にそういう効果が現れるのだと思います。火や太陽を想起させるエネルギーの色でもありますね。
- 廣川さんが芸術祭「廣川玉枝 BEPPU」(2021)で手掛けた衣装も赤が印象的でした。同じくデザインを手掛けた東京五輪の表彰台ジャケットは朱赤。赤は日本の色でもあると思いますか?
- 日本は大地に豊饒をもたらす太陽信仰の国で、日本人は昔から自然と一体になることを至高としてきました。その精神性や美意識が、生活に密接するあらゆるデザインに落とし込まれてきたのです。意識してなくても、私たちは根の深いところで赤を大事にしている民族なのかもしれません。
エネルギーを伝える
「SHISEIDO」の
赤いパッケージ
- 大分県別府市で開催された芸術祭 「廣川玉枝 in BEPPU」では、祭りそのものからデザインしたとか。
- 火山が多い九州には昔から山岳信仰があり火の神を御神体として祀っています。火山から湧き出る大地のエネルギーが、温泉になり衣食住に直結してそのまま人間の暮らしに現れています。日本の美しさとは、全てが自然への畏敬の念から得られたもので、芸術の根源は日常の中で神々に感謝を捧げる祭りから始まったという気づきから、芸術祭では祭りをテーマに、祭祀のデザインをはじめ、火や水、土など別府に豊饒をもたらす自然神を可視化した精霊の衣裳や祭装束、建築の装飾に至るまで手掛けました。赤は疫を祓う魔除けの色でもあるので、町全体が赤い布で包まれるイメージで祭を執り行いました。
- 資生堂の社名の由来は「万物資生(ばんぶつとりてしょうず)」。儒教の経典『易経』の一節「至哉坤元 万物資生(大地の徳はなんと素晴らしいものであろうか、全てのものはここから生まれる)」からきていて、日本の美しさと向き合う姿勢がつながっているようです。
- 資生堂といえばコスメティックであり、創始は資生堂薬局から始まったサイエンスを併せ持っていますが、その根幹には自然があり、融合しているということですね。資生堂の「花椿」マークも自然を象徴していますし、日本的な美意識を感じます。
- 今回、ブランド「SHISEIDO」を代表する赤の2品、“アルティミューン”※の美容液と“エッセンシャル イネルジャ”※※ のクリームを使っていただきました。いかがでしたか。
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“アルティミューン”※は肌が元気になる感じがしました。テクスチャーが独特で、サラサラなのに少しとろみがあって、すっと滑らかになじみます。“エッセンシャルイネルジャ”※※ はまさに保湿力だなと。ふくよかな質感がありベタつかないので、肌なじみが良かったです。
※“アルティミューン™ パワライジング コンセントレート Ⅲ”
※※“エッセンシャルイネルジャ ハイドレーティング クリーム” - 廣川さんにとって日々のスキンケアとは?
- 人間の基本は食べ物でできているので、まず食事に一番気を使っています。ただ、忙しい時期はいろいろケアを怠ることもあって、そうすると肌にも影響が出てきてしまう。スキンケアは、そんな時でもバランスが整うようにいい方向に導いてくれる存在だと捉えています。今回試した「SHISEIDO」の2品は、まず赤いパッケージに惹かれ、手に取った瞬間、エネルギーをもらえる感じがあります。モノとして好きだと思う気持ちも大事ですよね。しばらく使い続けてみて、さらに肌が変わる手応えを感じてみたいです。
FOCUS ITEM
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- PHOTOS:KOUTAROU WASHIZAKI (HANNAH)
- HAIR & MAKEUP:YUKA FUKANO(SHISEIDO)
- EDIT & TEXT: MIWA GOROKU
- DESIGN:ANICECOMPANY INC.
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SHISEIDOお客さま窓口
0120-587-289
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