森山未來が紡ぐ“時” 「ヴァシュロン・コンスタンタン」と刻む未来
1755年創業の世界最古のウオッチメゾン「ヴァシュロン・コンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)」が、表現者・森山未來との“時”を刻む。森山は10代から芸能の世界に飛び込み、俳優やダンサーといったさまざまな分野の表現者として、唯一無二の存在感を放つ。「ヴァシュロン・コンスタンタン」が269年間継承してきた時計製造技術を結集した、“曲線美”と“直線美”という対照的なコンセプトの時計2つと共に、彼が思う“時”の概念や、表現者として生きることについて聞いた。
PATRIMONY
MANUAL WINDING
時とは、今の連続
どう信じて、対峙するか
時計が正確に刻むのは“時刻”であり、それは世界中の誰もが分かりやすく共有できる“時間”だ。10代から現在まで芸能の世界で躍動し続ける表現者・森山未來にとって、“時”とは“今の連続”だという。「これまでをどう歩んできたか、全てを振り返ることは僕には難しい。でも、過去の大切な瞬間を主観的に捉えることはできるし、それらが蓄積して今の自分があるという感覚は持っています」。自身の名が“みらい”である以上、時について考えを巡らせてきたことは容易に想像できる。「これは考え方の1つですが、リニア思考における“今”はこの瞬間にも後ろに下がっているわけで、そうなると未来も今に対するアプローチでしかないといえると思います」。
何をしていても
つながりが大事なんだと思う
森山が身に着けたのは、曲線美がコンセプトの“パトリモニー(Patrimony)”コレクションだ。彼にとって曲線は、「緊張感とある種の異物感を内包しながらも、体にすっとなじむ心地よさ」を抱く対象だという。バレエやストリートダンスなどのように、限定されたスタイルを持たないダンサー森山未來。一方で、あるときはエリートサラリーマン、あるときは落語家やアスリートなど、全く別のキャラクターを演じ切る役者・森山未來。この双方には、「自分の日常との切り替えがなるべく起きないように意識している」という共通点がある。さらに、「根源的な部分で大事にしているのは、人とのつながり合い」と続ける。パフォーマンスであれ映像であれ、自分1人で何かを作り上げるのは困難だと知っているからこそ、さまざまな人と関わりながら、人間関係そのものが作品となっていく側面を重視する。それは、複雑なパーツが組み合わさることで時を刻み出す、時計の成り立ちともどこか似ている。
Traditionnelle
Complete Calendar
視座と提案
僕がこの先したいこと
連続性やつながりは、表現者・森山のインスピレーションに深く関係している。挑戦のためのリサーチが発見につながり、アクションを起こすことでまた新たな出合いを生み出す——「同じ場所にじっとしているのができない性格なので、動いていることがとにかく多い。でも、だからこそフレッシュなものに触れる機会が多いという面もあると思います」。そんな森山は近年、演者として表舞台に立つほか、キュレーターやプロデューサーなど総括的な役割を担う機会も増えている。「舞台やパフォーミングアーツの分野ならプロデューサー、アートの分野だとキュレーターと呼ばれますが、正直なところ名称は関係なくて。これから実現していきたいのは、そういった場作りの延長線上に自分がパフォーマーとしてどう立てるか」。目に映る、完成形だけで価値を図るのではなく、そこへ至るプロセス、連続性に思いをはせることで、見方は変わり、それぞれの必要性が感じられる。
技術=アートではないけれど
突き詰めることには意味がある
“トラディショナル(Traditionnelle)”コレクションは、直線美を随所にあしらったコレクションだ。「本当の意味での“直線”は、実は身の回りに少ない。だからこそ人は直線、あるいは幾何学的な何かに神秘性を見いだすのでないでしょうか」と、森山は切り出す。直線は、精巧になればなるほど強さを増していく。それらをかなえるための技術力を突き詰めていくと、アート性にたどり着く。そのストイックなまでの探究心を、森山は現代のコンテンポラリーダンスの礎を築いた1人とされる振付家ウィリアム・フォーサイスに例えた。「ダンスパフォーマンスにおける体の使い方は、論理的に捉えていることもあれば概念的に捉えていることもありますが、少なくても僕はロジックだけにも直感だけにも頼りたくない。そのバランス感を一番意識していると思います」。
2013年、文化庁文化交流使としてイスラエルに滞在した森山は、「国外に身を置いたことで、日本の文化や日本そのものに対してより意識するようになりました」と語る。「絵画にしろ音楽にしろ、日本は平面的な捉え方が基本的であるのに対して、欧州をはじめ諸外国は立体的に捉えます。これは良しあしの話ではなく、そういった平面性が日本人の中にあること自体に意味があると思うんです」。日本の芸能や芸術が外からの文化を継承しながら変遷したのであれば、森山自身もまたそれを見つめることで、必要な要素を抽出し、パフォーマンスへと変換していく。「だからアートだ、芸術だというつもりはないけれど、通ずる部分はあるように感じています。結果として、コミュニティーが新しく生まれ変わっていくようなことに携わっていきたいです」。
Mirai Moriyama
Profile:森山未來/俳優、ダンサー:1984年生まれ、兵庫県神戸市出身。5歳からダンスを学び、15歳で舞台デビュー。俳優として多数の映画賞を受賞。2022年4月より、神戸市にArtist in Residence KOBE(AiRK)を設立し、運営に携わる。 24年9月末には、芸術祭「森の芸術祭 晴れの国・岡山」に招聘され、岡山県奈義町に現存する芸能を基に、文化芸能とコミュニティーの関係性を再提案するパフォーマンスイベント「さんぶたろう祭り」をプロデュース・出演した。ポスト舞踏派