デコレーター、ペインター、フォトグラファー、そしてデザイナー……いくつもの顔を持つ多彩なアーティスト、ジュリー・ランソム。写真のピンクのランプをはじめ、最近パリのレストランやブティックでよく見かける多面体のランプを手がけるアーティストだ。自由を好み、パリを愛するジュリーの日常とは。
大学卒業後、フリーランスのジャーナリストとしてカメラを片手にカルチャー系の雑誌で働き始めたジュリー・ランソム(Julie Lansom)。2年後、友人から偶然依頼されたランプの制作をきっかけに、思いもよらぬアーティストの道へと人生が方向転換する。
「友人の一人に頼まれて制作したランプのオブシェをネットに載せたところ、またたく間にオーダーが殺到しました。雑誌やSNSでも話題となり、オーダーが増えすぎて対応できなくなり、とうとう8カ月後にはジャーナリストの仕事を辞めて完全にアート活動に専念することを決めました。特に人気のランプ『スプートニク』は、未来的で少しレトロな宇宙船をイメージしていて、木の枠と綿糸のみで作り上げる作品です。制作には2〜4日程かけて、全て1人で全工程を仕上げます。私は完璧主義で、複雑な組み合わせの留め方や結び方の法則を決めていて、一切の妥協をしません。一度だけ弟をアシスタントとして雇ったことがあるのですが、時間がかかったわりに仕上がりも納得できず、すぐにクビにしてしまいました(笑)。やはり家族と仕事をするのは難しいですね(笑)。私はアシスタントなしの、1人での創作活動が向いているみたいです」
パリをはじめ世界中のレストラン、ホテル、個人宅に向けて作られるオーダーメイドのランプ。ジュリーはさらに写真、絵画、水着ブランドのデザインなど多方面で精力的に活動する。そのクリエーションの源は自然と花だ。
「友人で元モデルのクレモンティーヌが1年半前にオープンした『ペオニー』は、お花屋さんとカフェが共存する面白い空間。毎週のように訪れて、珍しい花を見たり、ブーケを買ったり、そして友人とただ花を眺めながらカプチーノやタルティーヌを食べたり……私にとって癒やしの時間であり、発想が生まれる場所です。そしてこのお店にも私のランプが飾られているんです!お花はもちろん、自然が大好きなので、将来的には田舎で暮らして、太陽の光が注ぐ庭と動物に囲まれた生活をすることを夢見ています。もともとアート活動が生活の中心なので、時間の使い方が自由なところが性に合っていますね。おそらくどんな場所でも仕事はできると思っています」
アーティストとして活動するジュリーは、その審美眼も確かなもの。そんな彼女のジュエリーのこだわり、そしてパリの街についての想いとは?
「普段身に着けているジュエリーは全て家族やボーイフレンドからもらったものです。祖母のエンゲージメントリング、誕生日のお祝い、そしてボーイフレンドと付き合い始めた記念のリングなど。たとえお別れしてしまっても、ジュエリーだけは残るわね(笑)。そしてその時の記憶は永遠にジュエリーの中に刻まれています。今日も着けている『ブシュロン』のリング“キャトル”は、シックなところが気に入っています。手仕事の素晴らしさと美しさが見てわかるのですが、主張しすぎないところにエレガントさを感じます。
パリは私にとって恋人のような存在です。ずっと住んでいると建物は重々しく、メトロも街も騒がしく大嫌いになって離れたくなるのですが、いざ旅行から帰ってきてタクシーに乗りセーヌ川沿いのパリの景色を眺めると、『あぁ、でもやっぱりこの街は美しすぎる!』と思うのです。まるで恋人との関係のようですよね(笑)。パリは他の大都市に比べて小さなビレッジのようなかわいい街。今はまだこの街の魅力に取りつかれています」
元モデルのクレモンティーヌ・レヴィ(Clementine Levy)が2016年秋にオープンした朝食、ブランチ、アフタヌーンティーまでが気軽に楽しめるカフェ。特に抹茶のパンケーキやアボカドのタルティーヌが大人気。店内にはフラワーショップが併設され、定期的に行われるフラワーレッスンも人気だ
PEONIES
81 Rue du Faubourg Saint-Denis, 75010 Paris France
1968年に誕生した“セルパンボエム”は、スネークをモチーフにした「ブシュロン」を代表するアイコニックなコレクション。“セルパンボエム”は今年50周年を迎えたが、メゾンとスネークの関係は創業者の時代にまで遡る。創業者フレデリック・ブシュロンの妻ガブリエルは、好んでスネークをモチーフにしたジュエリーを愛用していた(写真)。強くしなやか、そして自由で大胆に女性を彩る“セルパンボエム”は創業者の想いを伝える、メゾンを代表するコレクションだ
ジュリー・ランソム(Julie Lansom) : アーティスト、画家、フォトグラファー、デザイナー。2014年からデコレーションやオブジェの作品を発表し、2017年には水着ブランド「EPI SWIM」を立ち上げ、デザイン・撮影までトータルディレクションを行う。パリをベースに活動
photographs : Yusuke Kinaka
text & coordination : Keiko Suyama
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