映像クリエイター・関和亮、そして作家・本谷有希子。東京を代表する2人の表現者が出会ったきっかけは、今年5月にウェブ公開された「ブシュロン」創業160周年のオリジナルショートフィルムだった。それぞれ監督と脚本を手がけた2人が関監督のオフィスで再会を果たし、今作品のエピソードや互いの仕事、ジュエリーについて語り合った。
WWD:お2人は、今回の「ブシュロン」フィルムプロジェクトで初めて仕事をご一緒されたと聞きました。どのような経緯だったのでしょうか。
関:最初にお話いただいたとき、「映画」というキーワードが上がりました。僕は映画を撮ってきた人間ではないので、脚本は別の方にお願いしたかった。「ブシュロン」の方やプロデューサーと対話をしながら、「脚本は、本谷さんにお願いできたらいいね」ということになり、お声がけさせていただきました。撮影の2カ月前くらいですね。
本谷:これまでやったことのない仕事ですし、すごくワクワクしました。でも、まずお話を聞こうと思って。関さんやスタッフの方が、私の事務所に足を運んでくださったんですよね。
関:そうそう、それが初対面。
本谷:最初の打ち合わせで、まず「これまでのジュエリー広告の概念から逸脱したものをつくろう」という方向性が見えました。「おとぎ話」をテーマにいくつか創作をお願いしたい、とのことだったので「シンデレラ」「赤ずきん」「眠れる森の美女」と、それぞれプロット案を用意しました。結果、「シンデレラ」に決まり、誰もが知るこの物語をモチーフに、自分らしく大胆に生きる主人公を描きました。
関:スケジュールもタイトだったので、やり取りもわりとスピーディーでした。「ここはちょっと、突き詰めて話したい」という時には、本谷さんに急きょこのオフィスに来てもらったこともありましたね。
今作品で初タッグを組んだ本谷有希子と関和亮。完成に至るまでの制作エピソードを語る2人は、笑顔が絶えない
(関)ウオッチ“リフレ”(ラージモデル、SSケース、ホワイトラッカーダイヤル、カボションサファイア、ブラックアリゲーターストラップ)56万円、リング“キャトル ブラック”(WG、ブラックPVD、ダイヤモンド)106万円
WWD:脚本を書く上で、本谷さんが一番重きを置いたことは何でしたか?
本谷:「ブランドの伝統を守りつつ、固定観念を壊す」という、両面を考えながらつくるのが私に課せられた命題でした。フランスの歴史あるメゾンでありながら、革新的であり続ける「ブシュロン」をどうしたら表現できるか、常に問い続けていました。私は壊しすぎちゃうので、そのさじ加減が難しかったですね。
WWD:主人公の女性(レティシア・カスタ)がリングを着けた拳でお義姉さんを殴るシーンには、とても驚きました。
本谷:美しいジュエリーをより魅力的に描くには?と考えた時に、「きれいなものをただきれいに見せるのはつまらないよね」と関さんと意見が一致したんですよね。一見すると美しくはないような景色の中にジュエリーが存在することで、そのジュエリーがより引き立つのかな、と。
関:シンデレラのような不遇な状況に置かれた女性が、ジュエリーをしていたり、お義姉さんを殴る、というのはあまり見ない演出かもしれないね。
WWD:高橋一生さん演じる主人公の男性とジュエリーの関係性を描く表現も印象的でした。
関:そうですね。何不自由ない生活を送る名家の男性という設定だったので、ジュエリーを特別なものとして描きたくなかった。無造作的に扱うことで、彼のキャラクターが浮き彫りになると感じていました。最後、指輪を投げ捨ててお城を飛び出すシーンは、このストーリーの象徴的なものの一つになりました。
本谷:よく「ブシュロン」がOKしてくれましたよね。
関:厳密には、ダメって(笑)。でも、彼の中のスイッチが入る瞬間を表現したい時に、何かが跳ねるという見せ方をしたかった。音で、指輪が跳ねるように見せているんです。映像作品だからできることですね。
WWD:お2人にとってジュエリーとはどんな存在ですか?
本谷:素敵なジュエリーを身に着けるとやはり、「女性に生まれてよかったな」と高揚感に包まれます。いかにも着けているというよりも、今日のようなカジュアルなコーディネートにさりげなくまとうのが好きですね。
関:仕事中に着けることはないのですが、ジャケットを着て食事に出かけるときなどには、お気に入りの時計を身に着けます。やはり、背筋が伸びますね。気合いを入れて着けるよりも、さらりと身に着けたい。華美なものでなくても、ジュエリーはそれだけで存在感や強さがあると思うんです。
「近所で買った」という永井荷風のプリントが施されたTシャツと合わせたのは“セルパンボエム”コレクションより緑色が美しいマラカイトのピアスとペンダント、そしてターコイズのリング。シンプルな“キャトル”のブレスレットもよく似合う
(本谷)ピアス“セルパンボエム”(ラージモデル、YG、マラカイト)117万円、ペンダント“セルパンボエム”(スモールモデル、YG、マラカイト)22万5000円、バングル(左)“キャトル クル ド パリ”(WG)55万、(中)“キャトル クル ド パリ”(YG)49万9000円、(右)“キャトル グログラン”(YG)49万9000円、リング(人さし指上)“キャトル ラディアント”(YG、WG、ダイヤモンド)55万円、リング(人さし指下)“セルパンボエム”(YG)9万3000円、リング(中指)“セルパンボエム”(スモールモデル、YG、ターコイズ)20万6000円
WWD:数々のミュージックビデオを手がけられてきた関さんですが、普段の映像編集はいつもこのMacでされるのですか?
関:そうですね。描いた絵コンテに沿って撮影し、持ち帰ったものをここで編集します。(絵コンテとミュージックビデオ映像を見ながら)ね、コンテ通りでしょう(笑)?
本谷:本当だ、すごい(笑)!そのままじゃないですか!
関:絵はうまくないんですけど……。コンテはいわば「設計図」ですね。これによって、スタッフ全員が動くので。ミュージックビデオの場合はこうして、音楽と撮影した映像のタイミングを合わせたり、ずらしたりしながら、その節その節の映像を決めてゆく、というイメージですね。
本谷:面白いですね。編集ができない舞台とは全く異なるので、とても新鮮です。
WWD:最後に、お2人が描く未来像や今後のやりたいお仕事について教えていただけますか?
本谷:まず、8月末に発売した新刊を「売って歩くこと」ですね。できるだけたくさんの人に読んでほしいから、人に任せるだけでなくて自分から積極的に動いた方が物事が動き出すのかな、と感じています。若い頃は、こういうの苦手だったんですけどね。
関:僕はこれまで短い映像をつくることが多かったので、長いものにも挑戦してみたいですね。1話1時間で10本の続編とか。
絵コンテは関監督が描く。「関さんが描いた絵コンテを見ながら完成作品を見られるなんて、ぜいたくですね(笑)!」(本谷)
WWD:最後に、お2人が描く未来像や今後のやりたいお仕事について教えていただけますか?
本谷:まず、8月末に発売した新刊を「売って歩くこと」ですね。できるだけたくさんの人に読んでほしいから、人に任せるだけでなくて自分から積極的に動いた方が物事が動き出すのかな、と感じています。若い頃は、こういうの苦手だったんですけどね。
関:僕はこれまで短い映像をつくることが多かったので、長いものにも挑戦してみたいですね。1話1時間で10本の続編とか。
本谷:私は短い文章に惹かれています。長いストーリーだと、終わりに向けて文章中の色々なことを回収しなくては、と余計なことに絡み取られてゆくような感覚があるんです。短くなれば、そうした制約から解放されて自由度が高まるのかなって。短距離ランナーの方が、向いているのかもしれません。
関:真逆だね(笑)。映像は、ミュージックビデオで4分くらい。一番短くて15秒……。
本谷:その短い中に、見せなくちゃいけない情報と伝えたいことが詰まっていますもんね。
関:短さ、というのが一つの良い制限になっていて、その中にいかに面白みを凝縮できるかを、いつも探っていますね。長い映像をやってみて「やっぱり、中距離かな?いや、短距離ランナーだわ」ということになるかもしれないけどね(笑)。
東京を代表する2人のクリエイターが出会うきっかけとなった、「ブシュロン」創業160周年を記念したオリジナルショートフィルム「Cinder Ella 〜ある愛と自由の物語〜」。フランスと日本を舞台に不朽の名作「シンデレラ」を再解釈したストーリーで、フランスの人気女優レティシア・カスタと日本の俳優・高橋一生が主演した。「歴史あるメゾンでありながら革新的であり続ける『ブシュロン』をどう表現できるか問い続けた」という本谷有希子が手がけた脚本を、映像クリエイター・関和亮が鮮烈に描いた。「ブシュロン」が大切にする自由な精神をテーマに、自分らしく大胆に生きることを描いたこのフィルムは、公式ウェブサイトで2019年3月まで公開中。
1858年に「ブシュロン」を創業したフレデリック・ブシュロンは、アパルトマンのサロンで顧客を迎えることが一般的だった1893年、ジュエラーとして初めて通りに面したヴァンドーム広場にブティックを構えた。そこはラペ通りと交差する広場の角地で、1日を通していちばん日当たりのいい26番地。今ではハイジュエラーが軒を連ねるヴァンドーム広場でもっとも古い歴史を持つ「ブシュロン」は当時から先見の明に優れ、伝統とモダンな精神が共存するコレクションを発表し続けている。そのブティックは現在、さらなる進化のために改装中で、年内にリニューアルオープンする
関和亮(Kazuaki Seki):音楽CDなどのアートディレクション、ミュージックビデオ、TVCM、TVドラマの演出を数多く手がける一方で、フォトグラファーとしても活動。「第14回文化庁メディア芸術祭」エンターテインメント部門優秀賞、「SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS」等、受賞多数。2017年株式会社koe.incを設立
本谷有希子(Yukiko Motoya):「劇団、本谷有希子」主宰。2007年「遭難、」で第10回鶴屋南北戯曲賞受賞。「嵐のピクニック」(講談社)で第7回大江健三郎賞、「自分を好きになる方法」(講談社)にて第27回三島由紀夫賞を受賞。2016年、「異類婚姻譚」で第154回芥川賞受賞。2年ぶりの新刊「静かに、ねぇ、静かに」(講談社)が発売されたばかり
(関)ジャケット52万円、ニット14万8000円、パンツ参考商品/以上ブリオーニ(ブリオーニ ジャパン03-6264-6422)(本谷)コート4万6000円/ロペ エターナル(ロペ エターナル アトレ恵比寿西館店03-5708-5631)、その他は私物
photographs : Mitsuki Nakajima
hair & makeup : Yamato Hashioto
styling : Yamato Hashimoto[woman], Yoshi Miyamasu[man]
text : Yukino Yagi
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