3分間のロックが描く
時代と街の物語
WWD : 佐野さんの音楽はロックにこだわりながらも変幻自在な作風が特徴ですが、自由な表現を続けてきた理由は何でしょうか?
佐野元春(以下、佐野) : ロックンロールはとても柔軟で、さまざまな表現を受け入れられる懐が深い最高のコミュニケーションアートだと思います。確かに僕の音楽は多くのジャンルに分けられるかもしれないけれど、ジャンルで区切っているのではなく、あくまでもその時代に適したサウンドを作ってきました。
WWD : 10代でビートを通じてソングライティングを始められましたが、その過程で触れたカルチャーが音楽的な進化をもたらしたのでしょうか?
佐野 : 誰しも多感な時期に触れたものの影響は大きいと思いますし、それが表現者としての物差しにもなりますよね。僕は言葉と音楽という2つの表現に興味があったので、ソングライターになったのは必然だったと思います。自分で詩を書きたいと思うようになってから、ボブ・ディラン(Bob Dylan)やランディ・ニューマン(Randy Newman)、トム・ウェイツ(Tom Waits)の曲を聴くようになりました。
WWD : 主に海外のソングライターの作品を聴いていたんですね。
佐野 : ジャンルを問わず、言葉の表現者として何をどう歌っているかを学びたかったんです。当時の日本には、手本となるソングライターはいなかったので自分のスタイルを築きたくて詩を書き始めました。
WWD : 当時の日本のミュージシャンの詩は叙情的な作品が多い中、叙事的な詩は新しかったのではないでしょうか?
佐野 : 叙事的なストーリーテリングのような詩を書きたい気持ちは最初からありました。そもそも僕は東京で生まれ育って街の中で詩を書いてきました。「アンジェリーナ」や「ダウンタウンボーイ」は、10代の頃に感じたストリートの物語がもとになっています。その景色や人を見てうれしいとか悲しいとかではなく、冷静な観察者としての視点から詩を書いたんです。そうするとリスナーは「これは自分のこと」とか「この情景は自分にしか分からない」と考えて、愛着を持ってくれるんです。
WWD : 聴き手に解釈を委ねている?
佐野 : そうですね。僕も3分間のポップスやロックを自分のストーリーとして楽しみたかったから、自分が作った音楽もそのように聴いてほしかったんです。