「東京銭湯-TOKYO SENTO-(以下、東京銭湯)」という東京の銭湯に特化したニッチなメディアをご存知だろうか。2015年にできた同媒体だが、今年7月末に1990年生まれの新編集長が就任し、新たなスタートを切ったばかり。著名人の銭湯での対談や、最寄りの銭湯からの距離を中心に風呂のない賃貸物件を紹介する「東京銭湯ふ動産」など、他にはないコンテンツが魅力の同媒体について、木村衣里・新編集長と媒体を立ち上げた日野祥太郎・代表取締役番頭に、北千住にある「タカラ湯」で話を聞いた。
WWD:まず、なぜ今回の取材の場に「タカラ湯」を?
日野:もともと「タカラ湯」とは長い付き合いで、一緒にイベントもやったり。そもそも「東京銭湯」のトップページの写真もここで撮影させてもらったんです。
WWD:なるほど、媒体を紹介するのにぴったりの場所ですね。そもそも「東京銭湯」を設立したきっかけは?
日野:もともと僕が銭湯を好きで通ってたんですが、銭湯ってどこも古くて、ほとんどサイトもなくて。むしろ、その地域にあることすらあまり知られていなかったりするんです。でも、東京だけで600ちかい銭湯があることを知られていないのはもったいないなと。仕事で疲れた時にリラックスできる場所が地域ごとにあるって素晴らしいことなんだということを知ってほしくて、2015年にサイトをスタートし、その後法人化しました。
WWD:運営メンバーは?
日野:現在取締役を入れると7人ほどですが、銭湯好きなライターなどが集まってくれて、みんな自主的に運営をしています。
WWD:どうやって銭湯好きなメンバーを集めるのでしょうか。
日野:毎年ライターの募集をしているんですが、今年は編集長が変わったこともあって、彼女が得意とするウェブ界隈の人たちにもリーチできたようで、すでに90人近い応募をいただきました。
WWD:なぜ新しい編集長を迎えたのでしょうか?
日野:最初の1〜2年目は僕が編集長的なことをやっていて、去年一年間はマーケターの方に編集長をお願いしてきました。今年はきちんとメディアとして編集を強化したいと思い、編集に強い木村(編集長)に依頼をしました。
木村:これまでの「東京銭湯」は編集に関わる人がいない状態にもかかわらず、熱量やデザインの力でファンを獲得してきました。そもそも、ウェブメディアのライター界隈には銭湯好きが驚くほど多いんです。私の仲間も興味を持ってくれているので、今までとは違う層の人たちをからめてやっていきたいなと思います。
WWD:もともと2人は知り合いだったのですか?
木村:もともと媒体のことも日野さんのことも知っていて、私が6月末に前職を辞めたこともあって、お声かけをいただきました。
WWD:木村さんも銭湯が好き?
木村:じつは東京出てきてから銭湯に行きはじめたんです。東京は故郷の北海道とは違って家賃が高くて、満足したお風呂には入れなくて。そんなときに銭湯がとてもありがたい存在になりました。今ではつねに銭湯グッズを持っていて、仕事仲間と打ち合わせの隙間にサクッと行くようなことも増えましたね(笑)。
WWD:銭湯でモデルシューティングをする「ゆはかわいい」や不動産紹介の「東京銭湯ふ動産」など、取材記事に限らない斬新なコンテンツが特徴的だと感じます。
日野:単なるメディアではないカテゴリーを増やしていきたいと思っています。媒体を活用してどんなマーケットを広げられるか、挑戦したいと思っています。
WWD:こうしたアイデアは誰が?
日野:アイデアを考えるのはメンバー全員ですね。「東京銭湯ふ動産」は、初期メンバーに不動産関係がいたりして、アイデアから一事業になったようなイメージです。「ゆはかわいい」にしても、もともと銭湯とアイドルのコンテンツを作りたいなと思っていて、そんな時にアイドルが得意なフォトグラファーが来てくれて、タイアップ先も見つかって、できたんです。そもそも、銭湯という伝統的なモノにテクノロジーが入ると、きっとなんでも面白くなるんです。そもそも、こうした企画が好きな人が集まるので、面白いアイデアが生まれやすいのかもしれません。
木村:4月に「ゆざめレーベル」というものづくりレーベルのプロジェクトが本格スタートしたんですが、「東京銭湯」に集まる人は銭湯が好きだという共通項があるので、こういう話がしやすいですよね。みんな絶対的な熱量があるんです。
WWD:これから、どんな媒体を目指すのでしょうか。
日野:これまではとにかく銭湯を知ってもらおうという思いで3年間やってきました。そのなかでタイアップをいただいたり、イベントをやったりして銭湯のメディア露出も増え、イベントを自主開催できるような銭湯も増えました。そもそも、銭湯の利用者数自体も増えているようで。だから、これからは「メディアを使って銭湯を救いたい」みたいに気負うのはやめて、“みんなが銭湯に行きたくなる”ようなメディアを目指したいなと。もちろん銭湯取材は続けますが、一層イベントや今までにない銭湯での取り組みなんかもやりたいですね。
木村:銭湯を背負うというとなんだか悲観的なので、ポジティブな動きをしたいなと。銭湯には行けば魅力はわかるんです。だから、行くきっかけを与えられるメディアにしたい。
WWD:木村編集長ならではの視点は何ですか?
木村:私は銭湯フリークすぎない、ちょうどいい距離感だと思っていて、それでも私は銭湯に救われたようなところがあるので、媒体を通して同じように心がホッとするような人が増えればいいなと思います。
WWD:若い人でも銭湯が好きな人は多いですよね。
日野:もはや銭湯をやりたい若者も増えていて、特に20〜30代で「銭湯をやりたいけど、どうしたらいいのか」という相談も毎月来るほどです。
木村:若い人で熱量を持っている人は一定数いて、一方で後継問題を抱えながらも古くからある銭湯を守りたい人もたくさんいます。少しでも、その両者がつながるきっかけになれればいいなと思います。