オンワード樫山のOMO(オフラインとオンラインの融合)業態「オンワード・クローゼットセレクト(OCS)」が好調だ。2021年4月の出店開始から今年8月末時点で147店舗。2024年上期(3〜8月)の成長率は、OCS以外の既存店舗を約2割上回る。特に売れ筋商品の確保が難しかった地方都市で成果を残している。
百貨店1階の一等地に出店
岩手県唯一の百貨店、川徳(盛岡市)に3月20日にオープンしたOCSの新店舗は、全国にあるOCSの中でもユニークなケースだ。ウィメンズはそれまで中層階の婦人服売り場で「23区」「Jプレス」などのブランド単店、あるいはLサイズショップとして営業していたのを、1階グランドフロアに340平方メートルのOCSにまとめた。メンズも複数のブランド単店をオーダースーツの「カシヤマ」などを加えて310平方メートルのOCSにした。8月末までの約5カ月半でウィメンズ、メンズを合わせて3億円以上を売り上げた。
特にウィメンズのOCSは、1階グランドフロアの一等地という立地を生かし、新規客の獲得に成功した。ストアマネージャーの中村麻美氏は「(移転前の)婦人服売り場のときに比べると、20〜30代の若い女性が目に見えて増えた」と手応えを感じている。中層階の婦人服売り場は利用しないものの、1階の化粧品売り場はよく利用してきた若い女性がふらりと訪れるようになった。
OCSは川徳の約20年ぶりの大型改装の目玉の一つだった。川徳の南波岳大・取締役営業本部長は、婦人服の売り場ではない1階の一等地をOCSに誘致するにあたり「北東北で一番オシャレな店を作りましょう」と提案した。広いスペースを生かし、商品を充実させるだけでなく、くつろげるソファーや通常の数倍の広さの試着室などを整備し、顧客の滞在時間を伸ばした。新規客を含めた客数の増加によって、想定以上の結果を出すことに成功した。
百貨店のない地域にも積極出店
OCSはブランドの垣根を越えてオンワードグループの商品を幅広く扱う業態だ。自社EC「オンワード・クローゼット」のリアル店舗版といったおもむきであり、得意とするていねいな接客を掛け合わせる。
ブランド単店であれば「23区」を目的に来店する客は「23区」しか買わない。しかしOCSでは「23区」を求めてきた人が、ついでに「ICB」「J.プレス」「アンフィーロ」を買うことも珍しくない。オンワード樫山の前川真哉OMO Div.長は「(川徳のような)地方の百貨店は販売員とお客さまが長くて深い関係を築いている。例えば信頼感のある『23区』出身の販売員が他のブランドの商品を勧める。それを気に入って新たにファンになってくださるケースも少なくない」と説明する。
またOCSでは自社ECの商品を取り寄せるサービス「クリック&トライ」も導入している。川徳のOCSでも、ECで気に入った商品を取り寄せる人が多い。OMOが確立される前は、人気商品の在庫は大都市の百貨店の手厚く配分され、客数が少ない地方都市の百貨店にはサイズやカラーで品切れを起こしがちだった。リアル店舗と自社ECの在庫の一元化、そして取り寄せサービスによって大都市と地方の格差を解消する。
OCSは開始から3年半で、同社内で最大の店舗数の業態になった。現在のところ百貨店とショッピングセンターの割合が半々くらい。オンワード樫山は百貨店を主販路とし、アッパーミドルの価格帯を得意としてきたが、OCSは郊外のショッピングセンターでも実績を上げている。近隣に百貨店がなく、実際のオンワードのブランドに触れる機会のなかった潜在顧客へのアプローチも可能になった。
同社はグループ国内売上高に占めるEC化率が約3割。特筆すべきは、その約9割が自社EC「オンワードクローゼット」であることだ。自前のデジタル基盤を生かることがOMOを推進する上での強みになっている。OCSを地方に出店するに際しても、商圏の会員数や購買実績を踏まえて決めている。