ファッション

「ロンシャン」3代目が語る 「創造力とは冷蔵庫の余り物から一品作り上げる力」の意味

PROFILE: ソフィ・ドゥラフォンテーヌ/「ロンシャン」クリエイティブ・ディレクター

ソフィ・ドゥラフォンテーヌ/「ロンシャン」クリエイティブ・ディレクター
PROFILE: 「ロンシャン」創業家の3代目。1968年にフランスに生まれる。1995年の入社以来、長きにわたりクリエイティブ・ディレクターとしてメゾンを統括している PHOTO:KAZUO YOSHIDA

ロンシャン(LONGCHAMP)」は近年、“現代のパリジェンヌ”を題材にコレクションを発表している。パリジェンヌといえば、トレンチコートやバギーパンツ、赤リップを身につけたパリ生まれの女性を想像するが、同ブランドが打ち出すのは、多様なバックグラウンドを持ちながらパリで人生を謳歌する女性たちだ。彼女たちの生き方や哲学に着想したコレクションを発表し、誰もがパリジェンヌになれると訴える。このほど来日したソフィ・ドゥラフォンテーヌ(Sophie Delafontaine)クリエイティブ・ディレクターに、2025年夏コレクションやアイコンバッグに抱く思い、ファミリービジネスの功罪、バッグ市場の見解などを聞いた。

夏コレクションの着想源は家庭菜園

WWD:2025年の夏コレクションについて教えてほしい。

ソフィ・ドゥラフォンテーヌ(以下、ドゥラフォンテーヌ):今季は「“現代のパリジェンヌ”がパリ郊外の菜園で家族や友人と過ごす姿」をルックで表現した。ガーデナーのエプロンに着想したドレスは、コレクションの象徴的な存在だ。あたたかなギンガムチェックを取り入れたルックも多く登場する。カラーパレットにも注目してほしい。「LIVE GREEN」をテーマに掲げ、夏の自然を思わせるグリーンをキーカラーとして打ち出しつつ、ビーツやアーティチョークなど、さまざまな野菜由来のカラーを取り入れた。

WWD:25年春コレクションは、ピンクをふんだんに取り入れた都会的なルックが印象的だった。今季、舞台をパリ郊外に移したのはなぜか?

ドゥラフォンテーヌ:大都会が持つエネルギーももちろん好きだが、時に喧騒から逃れ、自然に身を委ねたくなる。私自身、週末にファミリーハウスで過ごす穏やかな時間は、ただ楽しいだけでなくリセットの時間にもなっている。都会に生きるからこそ、自然と触れ合う時間を大切にしたい。その思いをコレクションで表現した。

WWD:今季は「菜園」がキーワードになっている。個人的な思い入れがあるのか?

ドゥラフォンテーヌ:若年層を中心に、「何を食べているのか」「それらがどのように作られたのか」に意識的になっている印象がある。私自身もパリ近郊の住居と南フランスの別荘に2つ菜園を持っており、家族や友人とトマトやズッキーニを育てたり、収穫した野菜でサラダを作るなど、家庭菜園を楽しんでいる。収穫した野菜から季節を感じられるのも、都会ではなかなか体験できないことだろう。

WWD:バッグもコレクションテーマを体現している。

ドゥラフォンテーヌ:野菜由来のカラーやギンガムチェックで彩った“ル ロゾ”はもちろん、青果市場に行くときに使用するバッグに着想したアイテム(※ルック画像2枚目)も今季らしいアイテムだ。

アイコニックなバッグの数々

WWD:「ロンシャン」と言えばバッグを思い浮かべる人も多い。まずは、代表格の“ル プリアージュ”について教えてほしい。

ドゥラフォンテーヌ:“ル プリアージュ”は、私の父が作ったバッグだ。シンプルでアイコニックな佇まいを両立するのは至難の技だが、“ル プリアージュ”は発売当初から実現している。「軽さ」「多彩さ」「自由さ」など、「ロンシャン」のモノ作りのスピリットを体現しているのも、ロングセラーである理由だろう。これまでさまざまなカラーや素材、コラボレーションを試してきたが、“ル プリアージュ”の可能性は無限。これからも世代や性別、国籍を問わず愛されるバッグであり続けたいと思う。

WWD:“ル ロゾ”も30周年を迎え、ロングセラーのバッグとして名高い。

ドゥラフォンテーヌ:流行り廃りが激しいファッション業界において、時代を超え愛されるバッグを生み出せたことを誇りに思う。“ル ロゾ”はこれまで、さまざまなデザインを試してきた。発売当初は、スマートフォンもなく荷物が多くなりがちだったため、“ル ロゾ”のサイズ感は多くの人々の心をつかんだことだろう。

WWD:比較的新しい“リプレイ”シリーズも、着実にファンを増やしている。

ドゥラフォンテーヌ:“リプレイ”は、メゾンで眠っていたストック素材をバッグに活用したシリーズだ。そのため、ストラップをバスケット型のバッグにしたり、レザーをクロスボディバッグにしたりと、使用する素材やカラーはシーズンごとに異なる。ただサステナブルなだけでない、素材やサプライヤーにこだわりを持つ「ロンシャン」ならではのシリーズだと言えるだろう。

WWD:「ロンシャン」は、ただサステナビリティに向き合うだけでなく、楽しみながらエコフレンドリーなモノ作りに取り組んでいるのが印象的だ。

ドゥラフォンテーヌ:サステナビリティとは、本来楽しく喜びをもたらすもの。そしてファッションの醍醐味も、装う楽しさを届けることだ。“リプレイ”を生み出す過程は、レシピを持って買い物へ行くというより、冷蔵庫の余り物をもとに料理する感覚に近い。ちょうど祖母が残ったフランスパンでフレンチトーストを作るように、材料を目の前に置き、そこから何かを生み出せるようなクリエイティビティーが求められている。

ファミリービジネスが広げるブランドの可能性

WWD:「ロンシャン」は、伝統的にファミリービジネスの形態をとっている。

ドゥラフォンテーヌ:ファミリービジネスは何事も長期的な視点に立ち考えられるのが強みだ。例えば、父が初来日した1960年代から、私たち家族、すなわち「ロンシャン」と日本の関係は絶えず続いている。加えて、家族だからこそ何事も率直に打ち明けられる。兄弟から「このバッグは良くない」と厳しい意見をもらうこともあるが、それもより良い商品を企画・製作するため。私も主張するため議論は続くが、5日後にはいつも通りの会話をしている。集まるのが容易なため、決断が早いことも大きなアドバンテージだろう。

WWD:家族経営だからこそ、さまざまな世代が集まる。

ドゥラフォンテーヌ:私の父がそうであったように、私もクリエイティブ・ディレクターとして、好奇心を持って人や文化に触れてきた。その経験が娘や甥に影響を与えることもあるだろうが、私自身も彼女たちが持つ若年層の視点を必要としている。お互いをインスパイアし合っているからこそ、「ロンシャン」の世代を超えて愛されるプロダクトが誕生している。

WWD:日本市場をどう見ているか?

ドゥラフォンテーヌ:日本市場と欧州市場は年々似通ってきている。昔こそ日本は小さめのバッグ、欧州は大きめのバッグが売れ筋だったが、今年のベストセラーは全く同じだった。そもそも、「ロンシャン」は国境で分けて考えることはしない。どこで生まれたか、どこに住んでいるかより、その人のライフスタイルやパーソナリティーに基づいて検討している。

WWD:その姿勢は、ロンシャンが定義する“現代のパリジェンヌ”に重なる。

ドゥラフォンテーヌ:私たちのミューズは、さまざまなバックグラウンドを持ちながら、あるがままの自分を楽しんでいる女性。そして、プロダクトを通して自信を与えるのが私の仕事だ。今後もクリエイティブ・ディレクターとしての役割を全うし、“現代のパリジェンヌ”が持つエネルギーをコレクションで表現し続けたい。

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