現代のカリスマ美容師、高木琢也「オーシャントーキョー(OCEAN TOKYO)」代表は、2度のNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(以下、「プロフェッショナル」)に出演や、5月22日発刊の自身初の著書「道あけてもらっていーすか?」(宝島社)は出版前に重版が決まるなど、その勢いは増すばかりだ。美容業界を超えて注目される高木代表の次なる野望とは?
WWD:NHK「プロフェッショナル」に2度出演した反応は?
高木琢也(以下、高木):大きな反響を感じていますね。これまでは声を掛けてくるのは10代の人ばかりだったけど、今は主婦やサラリーマンの方まで声を掛けてくれるようになりました。あと、買い物に行った時の対応がよくなりましたね(笑)。
WWD:高木さんの自信はどこから来るのか?
高木:これまでにたくさんの失敗をしてきたからこそ、やっと今の成功があると思っていて、同じ失敗をしなければいいだけっていう自信はありますね。でも、そうは言いつつも実際のところ自信はないですよ(笑)。だけど今は社員を130人抱える身になって、社員も自信のない社長になんて雇われたくない。背負ってるものが大きくなった今、自信がないなんて、言ってられなくなりましたね。これまでも必ず結果は出してきたし、「自信ないな」ってマイナスに感じる時間が無駄だなって思っています。どんなに難しいことでもノーとは言わず、まずは簡単にかみ砕いて、できることから始めています。
WWD:高木さんでも失敗はあった?
高木:アシスタント時代はめっちゃありましたよ。美容師としてこれやったらアウトだろっていうミスをほぼほぼ経験しました(笑)。でも多くの失敗から学んだことは、今となっては自分にとって大きな財産になっていますね。
WWD:「プロフェッショナル」を見て両親への恩返しの気持ちが根底にあると感じた。
高木:親もそうだし、これまで関わった人全員に恩返していきたいという思いはあります。雑誌とかでも自分が表紙になった号が売れないとかイヤだし、必ず結果を残すと、責任を持ってやっています。何よりもお店に来てくれて、「オーシャントーキョー」をここまで伸ばしてくれたのはお客さまなので、お客さまにはすごく感謝しています。
WWD:「プロフェッショナル」ではシンガポールでカットをしていた。男性が得意な高木さんが女性ばかりカットしていたのはどうして?
高木:お客さまはSNSではなくポスターのチラシで現地募集していたので、ほぼ女性になりましたね。現地に行くまでそれを知りませんでしたけど(笑)。
WWD:プレーヤーとしてはトップに立ったが、次は何を目指すのか?
高木:美容業界という枠を超えていきたいと思っています。今は美容業界の中での社長にすぎなくて、それはすごく限られた狭い世界でのこと。今後は自分たちの事業が、美容業界に止まらず“人の人生を変えるような”ライフスタイルカンパニーに展開していけたらいいなと考えています。美容師同士が仲良くヘアデザインについていろいろと語っているのを聞いていると、「まだ髪の毛のデザインについて議論している。だったら僕たちは人生のデザインについて考えていきたい」って、常に先を描いていこうと思っています。
WWD:今後店舗は増やしていくのか?
高木:年内に3~4店舗は出したいですね。いろいろな場所で「かっこいい」を作っていきたいと思っています。僕たちは10代の悩みを直にたくさん聞くことができるので、それを吸い上げて大人に伝えるのも役割の一つだと思っています。美容師の大きな特徴は、デザイナーが直接お客さまと接していること。「最近どうですか」で始まるのは医者か美容師かなと思っていて、10代の声を直に聞けていることは美容師のかなり大きいメリットだと思いますね。高校生がSNSで校則が厳しいと訴えているけれど、そういうのは校則を変えることができる立場の人に伝わらなくては意味がない。だから僕が伝えていかないといけないなという思いはあります。
WWD:海外進出は考えている?
高木:住んだことのない海外の土地で店舗を構えることはとても危険だと思っています。初めはテスト的にポップアップを開催して、まずは現地での反応を見たり、認知度を高めることが必要で、何度か足を運んでみて、そこで成功できると確信できたら出店に踏み切ってもいいのかなと思っています。
WWD:スタッフ教育についてはどう考えている?
高木:昔と変える必要は何一つないけれど、やっぱり若い子たちの立場に立って考えないといけないなとは思っています。ただ甘やかして、合格ラインを下げることは間違っていますね。無意味な厳しさも無意味なゆるさも必要なくて、必要な厳しさと当たり前のラインは守っていくつもりです。
WWD:厳しくすると辞めてしまう子も多いのでは?
高木:辞める子もいますね。ただ甲子園に出場するような高校ってそれなりに厳しい練習をしていると思うんですよ。僕らは日本一を目指しているし、それを結果として見せていきたい。だから結果を出したいチームにはある程度の厳しさは必要なんじゃないかと思っています。「昭和は厳しく平成はゆるく」と聞くけれど、もうこれ以上のゆるさは必要ないんじゃないかと思っています。だって今はもう令和ですからね(笑)。5年後、10年後、がんばった子と辞めてしまった子の年収の差を見て、今ここでがんばる価値に気付いてもらえるといいですよね。
WWD:美容師の社会的地位を上げたいという気持ちはある?
高木:あります。「美容師になりたいと言うと親に止められる」と聞くこともありますけど、何年か前には美容師がなりたい職業ランキングに入っていたこともあるわけで、地位を上げることは決して不可能ではないはず。そのためにも「オーシャントーキョー」は本物だけを集めた集団でありたいと思います。
WWD:最終的な目標は?
高木:髪の毛を通じて人生が変わるということを、まずは日本に、その次はアジアに、そして世界に伝えていきたいです。どんな人でも髪は必ず誰かが切っているわけで、髪を切ることで得られる幸せを広げていきたいですね。僕一人では1カ月900人にしか幸せをあげられないけど、社員130人がいたら1カ月で何万人もの人に幸せをあげられる。その状態になるまでは戦い続けないとならないし、他の美容師や美容室はライバルであっていいと思っています。
「人生の主人公はあなたしかいない」を伝えたい 著書に込めた思い
WWD:自身初の書籍も好調だ。高木さんが初の書籍を作るきっかけは?
高木:やっぱりお客さまの声が多かったというのがあります。もともと何度かお話をいただいていて、その都度お断わりしていたんですが、やっぱり必要としてもらえるときにそれに応えていかないといけないのかなと。いつか出すのなら早い方がいいというのと、SNSで発言してもすぐにタイムラインで流れて過去の記事になってしまうので、書籍で残すことにも意味があると思いましたね。ただ、書籍を出すことが目的ではなくて、それは一つの通過点に過ぎません。「プロフェッショナル」に出演したことも同じで、それをきっかけに次にどんな仕事をしていくかを考えていくことが大切だと思っています。
WWD:製作期間は?
高木:約1カ月半です。サロンワークが終わったあと夜中に打ち合わせしたり、もう地獄でしたね(笑)。
WWD:出版するタイミングはどう決めた?
高木:7月14日が僕の誕生日なので、それまでには出そうと。決めたらすぐに実行したかったので、短期間で作りました。僕自身が本を読まないので、文字少なめで誰でも読める本に仕上がってます(笑)。
WWD:書籍で伝えたいことは?
高木:簡単にいうと「人生の主人公はあなたしかいない」ということかな。みんな自分という名の旗を掲げて生きていってほしい。自分みたいなヘンテコな人間が本を出すようなことになったり、人生は変わっていくし変えられますからね。
WWD:第2弾も考えている?
高木:考えてますが……長いのはやだな(笑)。でも、伝えておかないといつ死ぬか分からないから、早めに残しておかないと、とは思いますね。次があるなんてことは思わないで進んでいきたいです。それはサロンワークでも一緒で、お客さまに対しても1回の失敗もないようにしてきましたし、その積み重ねですよね。
WWD:今後やってみたいことは?
高木:スポーツ選手のヘアをまるまるプロデュースしたいですね。サッカー選手とか晴れ舞台の中で、髪色を変えていたらさらに注目を集めていたかもしれない、と思ったりすることがあります。スポーツ選手のヘアをプロデュースさせてくれたら、その選手が現役を引退した後も印象に残るはず。絶対にかっこよくできるので、ぜひ任せてほしいですね。
WWD:最後に赤い髪で第一印象が軽く思われることについては?
高木:狙い通りです。上げて落とすよりは下がったのを上げる方がいいですから(笑)。見た目がきちんとしていても、やっていることが詐欺師だったら最低だと思いますね。そんなフェイク野郎もいるじゃないですか(笑)。あと、親近感と憧れを持ってもらいながらも、突っ込みどころがある外見っていうのが大事。でも、自分が前に出る必要なくなったなってときには黒髪に戻そうと思っています。