ファッション

「#KuToo 靴から考える本気のフェミニズム」や「死を招くファッション」など 2019年10~12月出版のファッション関連書籍

 2019年10~12月に出版されたファッション関連書籍の新刊情報を紹介する。社会問題にもなった「#KuToo(クートゥー)」運動の発起人による書籍や、ファッション産業が人体や環境に及ぼす悪影響に警鐘を鳴らす書籍などの6冊。それぞれに関連性の高いニュースやコラム記事を添えてあるので、紹介した書籍とあわせて読んでいただきたい。

「#KuToo 靴から考える本気のフェミニズム」
(石川優実、現代書館)

 ヒール靴やパンプス着用の強制に反対する「#KuToo(クートゥー)」。発起人である石川優実のツイートから始まったこの運動はドレスコードに潜む性差別を明らかにした。ファッションにおいて気付きにくくなってしまっている性差別の実態について、本書を一つのきっかけとして考えてみるのも意味あることなのではないだろうか。この書籍をめぐる反応を見ているとついつい世の中の生きづらさを感じてしまうが、「#KuToo」という問題提起の本質が揺らぐわけではない。本書のメインテーマとなるフェミニズムについて、誰しもが生きやすい社会について、「#KuToo」を契機に考えてみてほしい。

「アパレルに革命を起こした男」
(梶山寿子、日経BP)

 島精機製作所創業者である“紀州のエジソン”こと島正博会長の再評価の動きが高まっている。2019年9月にも島会長に注目した書籍「つながる力 世紀の発明家・島正博の源流と哲学」(合田周平、PHP研究所)が出版されているが、本書では島会長の先見性にフォーカスして生い立ちと共にその人生哲学に迫っていく。和代夫人など島会長を支えた周囲の人物に関する記述も多く、ストーリー性が高い内容になっていて読みやすい。たびたび挿入される口語調そのままの島会長の言葉からは人柄が伝わってくる。

「AFFECTUS vol.6」
(新井茂晃、AFFECTUS)

 オンライン連載のファッションエッセー「AFFECTUS(アフェクトゥス)」書籍化第6弾。「マルタン マルジェラ(MARTIN MARGIELA)」(現「メゾン マルジェラ」)の1989年春夏デビューショーを見ての1編や、エディ・スリマン(Hedi Slimane)が「セリーヌ(CELINE)」アーティスティック、クリエイティブ&イメージディレクター就任したことを受けて書かれた「エディ・スリマンが戻ってくる」など、コレクションやファッションショーの楽しみ方を教えてくれるバラエティー豊かなエッセー12編が掲載されている。敷居高く感じてしまうモードの世界を分かりやすく言語化したファッションの手引き書。

「ヨーロッパ服飾物語II」
(内村理奈、北樹出版)

 「ヨーロッパ服飾物語」(2016)の続編となる本書は、ルノワール(Pierre-Auguste Renoir)の絵画や「フィガロの結婚」などを題材に、アート、メディア、演劇や文学との関係からフランスにおける服飾文化を説いていく。モードの源流をたどることでファッションの世界の豊かさが見えてくるはず。西洋服飾文化史を専門とする著者は同時期に「マリー・アントワネットの衣裳部屋」(平凡社)を出版している。本書7章でもマリー・アントワネット(Marie Antoinette)をメインに取り上げているが、当時の王侯貴族の衣装や生活をさらに知りたい人はそちらもあわせて読まれることをお勧めしたい。

「死を招くファッション 服飾とテクノロジーの危険な関係」
(アリソン・マシューズ・デーヴィッド 著、安部恵子 訳、化学同人)

 美しい緑のドレスが人を死に至らしめる――ハッとするような事例が並ぶ負の服飾産業史。毒素を含んだ染料や可燃性の高い素材など、きらびやかな見かけとは裏腹に多くの犠牲を生み出してきたという事実を、豊富な図版と共に浮かび上がらせる。最終章では近年の事例にも言及。今年1月半ばにも生理用下着から有害物質が検出されたと一部で話題になったが、2013年の「ラナ・プラザ(LANA PLAZA)の悲劇」など、生命を脅かす危機はまだファッションと隣合わせにあり続けている。今後ここで言うファッションの犠牲者を増やさないためにも手元に置いておきたい一冊。

「ファッションの哲学」
(井上雅人、ミネルヴァ書房)

 「ファッションを考えることは、人間が現在どのような存在として考えられているのかを考えることでもある」(P.281)。人間の身体とそれを取り巻く流行現象に否応なく関わることになるファッション――その全体像は容易にはつかみづらく、概観するには多面的なアプローチが必要となってくる。本書では文化、デザイン、ビジネス、歴史などさまざまな切り口からファッションを分析していく。まずは気になる章から読み進めるだけでもこれまでとは違った認識を得られるのでは。ファッションは社会や人間を考えるための一つの視点を与えてくれる。本書をきっかけに、ファッションが持つ価値をあらためて考えてみるのもいいかもしれない。

秋吉成紀(あきよしなるき):1994年生まれ。2018年1月から「WWDジャパン」でアルバイト中

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