スイスの高級時計ブランド「パテック フィリップ(PATEK PHILIPPE)」が2020年の新作発表を見送った。同ブランドによると、「2月末に世界最大の時計見本市である『バーゼル・ワールド(BASEL WORLD)』が中止を決めたときは、国や地域ごとに披露する予定だった。しかしその後、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてスイス本社もクローズし、スイス国内の物流も滞ってしまったため、新作発表を期限未定の延期とした」という。プレスリリースや画像配信も行わない。
衝撃的なニュースだが、同時に時計業界やファッション業界が妄信している“新作至上主義”へのアンチテーゼとも受け取ることができる。時計ブランドはこれまで、1~3月にスイスで新作を発表することを常としてきた。しかし同時期に数百~数千点の時計が発表されれば、そのほとんどは埋没してしまう。「パテック フィリップ」や「ロレックス(ROLEX)」のような人気ブランドにおいては、“新作発表の場がなければ新作は発表しない”という考え方があってもよいのかもしれない。
2つのブランドに共通するのは“定番力”だ。“確実性”と言い換えることもできるだろう。「パテック フィリップ」の“アクアノート”や“ノーチラス”、「ロレックス」の“エクスプローラー”や“GMTマスターII”などがそれに該当する。数十万~数百万円の投資に見合うだけの認知度があり、仮に数年、十数年後に2時流通市場に回すとしても高値が期待できるブランドであり商品だ。
現在のようなネガティブな雰囲気の中では、消費者は“確実性”を求める。一朝一夕に“定番”をつくることはできないが、“コロナショック”が新作頼みのブランディングを見直すきっかけにはなるはずだ。「パテック フィリップ」の決断には時計業界のみならず、ファッション業界も参考にできる点がある。