※この記事は2019年11月7日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
模型なんて片付ける
先日のパリ出張で、ロナン&エルワン・ブルレック(Ronan&Erwan Bouroullec)兄弟のアトリエを訪ねる、という貴重な経験をさせていただきました。パリのシャンゼリゼ通りには今春、彼らがデザインした「スワロフスキー(SWAROVSKI)」の噴水が登場。現在はフランソワ・アンリ・ピノー(Francois Henri Pinault)=ケリング会長兼最高経営責任者(CEO)による旧商品取引所の大改装で、安藤忠雄建築の美術館の内装を手掛けており大忙しです。
美術館の内装は、壮大なプロジェクト。にも関わらず、2人にはさまざまな依頼が寄せられ、常に複数のプロジェクトが同時進行しています。けれどオフィスは、思ったよりもゴチャゴチャしていません。模型や過去の作品が、ほとんどないからです。 安藤忠雄による美術館の模型は、アトリエにありました。シャンゼリゼ通りの噴水も、まだそこにあります。でもそれ以外は、「基本、倉庫に保管することも珍しい」らしく、2人の過去を物語る作品は、ミーティングに使う「サムソン(SAMSON)」とのコラボテレビ、アトリエを彩る「イッタラ(IITTALA)」とのフラワーベースなど、実際使える・使っているものばかりです。
なぜでしょう? そう水を向けると、「昔を振り返らないから、模型は保管しないんだ」と、実にあっさり答えました。模型は一生懸命作るようで、シャンゼリゼ通りの噴水は日本人の愛弟子による力作ゆえ、「実際の噴水より完成度が高い(笑)」と冗談を言うほどです。でも、おそらくこれでさえ間もなく捨ててしまうのでしょう。もったいない⁉︎でも、前を向き続けるには、必要な勇気なのかもしれません。
仕事の中には、ノルウェーの大学の学生寮にしつらえたロッカーなどもあり、2人とってパートナーの知名度は関係なさそう。ギャラだって、おそらく北欧の大学が2人に支払った金額なんて、たかが知れているでしょう。仕事を引き受けるか、引き受けないかのほぼ唯一の基準は、「やったことがないか?」。初挑戦なら引き受け、そうでなければ断る。これまた単純です。
「振り返らない」「未知だから挑戦する」。頭では分かっているけれど、実践はなかなか難しいですよね。でも、類稀なる才能を有しながらフレンドリー。熱心に90分ほどこれまでと今、そしてこれからの仕事を語ってくれるロナン兄さんに触れて(ちなみに弟のエルワンは、なかなかの人見知りだそうですw)、その価値を再認識した次第です。
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