環境に甚大なダメージを与えているファッション業界にとって、サステナビリティは言わずとも大きな課題となっている。再生可能な素材を使用したり、洋服の回収プログラムをスタートしたり、さらにはランウエイショーをカーボンニュートラルにしたり、各社さまざまな取り組みを行っているが、それでも問題は多く残る。
今回はニューヨークをベースにするデザイナー、フィリップ・リム(Phillip Lim)にインタビューをし、サステナブルなものづくりや社内での取り組み、自身が勉強のために読んでいる本などについて聞いた。フィリップはザ・ウールマーク・カンパニー(THE WOOLMARK COMPANY)と協業し、100%天然、生物分解性、再生可能、ECO認証を得たトラリア産メリノウールを使用したサステナブルなアイテムを手掛けているほか、スワロフスキー(SWAROVSKI)と国際連合(UN)主宰のサステナビリティプロジェクトに参画したり、業界でもサステナビリティに積極的なデザイナーとして知られている。
WWD:今回の連載は、(読者に)サステナビリティをより身近に感じてもらえるように始めた企画。フィリップさんはさまざまなプロジェクトに参画したり、イベントに登壇したり、サステナビリティについて詳しいと思うので、いろいろ教えてください。
フィリップ ・リム「3.1 フィリップ リム(3.1 PHILLIP LIM)」デザイナー(以下、リム):喜んで!最近ようやく皆がサステナビリティについて真剣に考えるようになったが、(自分を含め)課題はまだまだ山ほどあるよ。特にファッション業界はね。サステナビリティに取り組みたくても、どこから始めたら良いのかわからない人も多いよね。
WWD:まさにそうだと思います。ついサステナビリティが表面的なゴールになってしまったり、「とりあえずやらなきゃ」と焦る企業も。
リム:私もいろいろ取り組んできたが、それでも完璧ではないと思っている。そもそもサステナビリティの答えは1つではないし、正解も不正解もない。たくさんの問題が絡み合っているので、“キレイな”答えはないし、ついイライラしてしまうことだってあるよね。私たちも試行錯誤を繰り返す毎日で、シーズンによってサステナビリティに取り組める度合いが違ったりする。でも少しでも携わっていたら学ぶこともあるだろうし、それでいいんだと思う。途中で諦めるのが一番の失敗。
WWD:「3.1 フィリップ リム」ではどのようなことをしているのか。
リム:まず、SKU数を大胆に50%カットした。繊維やテキスタイルの研究開発にも力を入れていて、少しでも環境負荷が少ないものに代替できるものがあればそうしている。例えばナチュラルなウールやオーガニックコットン、トキシック(有毒)フリーな染料などね。素材もそうだけど、糸を紡いだり、編み込んだり、作業自体もサステナブルにできるように考えている。同業者に良く「サステナブルなサプライヤーを教えて」と言われるけど、私の状況はきっと他の人と違うだろうし、私の会社にとって良い取り組みは必ずしも他者にとって正解とは限らない。自分にあった方法を自分で探すことも大切。皆手っ取り早くサステナビリティに取り組める方法を手に入れようとしているけど、現実はそんなに甘くないよ。取り組もうとしていること自体は素晴らしいと思うけれど、サステナビリティは努力と時間がかかるもの。そんなに簡単にはいかないし、結構泥臭い戦いだと思う。
WWD:2月にスワロフスキーとUNとの協業を発表した。
リム:「ワン x ワン(One x One)」プロジェクトといって、私は科学者やエンジニアとタッグを組んで、洋服やアクセサリーに用いられるプラスチックに替わる素材を共同開発・試作している。100%海藻から作られる新しい素材で、太陽光によって光合成を行うので燃料などを使う必要がなく、余計な二酸化炭素も出さない。また2020年春夏から「3.1 フィリップリム」で使うプラスチックやプラスチック袋をリサイクルかつ生分解性のものにしている。包装ボックスも必ずリサイクルし、配送もなるべくコンパクトにして輸送に関わるエネルギーを削減しようとしている。
WWD:今まで慣れ親しんだ素材を変えたり、生産に時間やコストがかかったり、いろいろチャレンジもあるはず。それによって洋服づくりにおけるクリエイティビティーに影響はあった?
リム:クリエイティブなプロセス自体は変わっていないけれど、洋服を作る意味が変わった。サステナブルな素材を使ったとしても、美しい洋服を作りたい、というのは変わらない。いかに美しく機能性が高く、環境に負担のないものを作るかーー。例えば20-21年秋冬コレクションはメンズとウィメンズで同じ素材を使い回したり、1つのアイテムでもリバーシブル仕上げにすることによって何着も服を買わなくていいようにしたり。クリエイティビティーとサステナビリティは共存できるものだと思うよ。チャレンジがあるからこそ今までにないものが生まれたり、創造性を掻き立てられたりするし。そして今はテクノロジーが発達しているから、新しい素材や生産方法をいくらだって生み出せる。
WWD:ファッション業界は大量廃棄が問題となっているが、捨てられない服をどう作る?
リム:創業当初からうたっているが、私の洋服づくりにおけるポリシーは1つ。毎日、そして長く着られるタイムレスなワードローブを届けること。どんなシチュエーションでも着まわせるような、ベーシックで上質なアイテムが好き。長く着られる服は捨てられない服。それこそサステナブルでしょう?