5月6日までの予定だった緊急事態宣言が31日まで延長された。ファッション関連の小売業は引き続き、休業要請対象外で補償のない“自主的な休業”を続けている。感染拡大防止のために休業が必要だと分かってはいても、終わりの見えない自主休業に疲弊の色は徐々に濃くなっている。一方他業種に目を向けると、観光業、飲食業などにはコロナ収束後の支援策として経済産業省の補正予算が約1兆7000億円規模で組まれ、東京都内の理美容業者に対しては、大型連休中の自主休業に対し最大30万円の都からの給付が発表された。そうした状況を受け、ファッション業界としても一丸となって都や国に働きかけていこうという動きが生まれている。
発起人の1人となっているのは、シューズブランド「ユナイテッド ヌード(UNITED NUDE)」日本法人の青田行社長だ。青田社長は、国内デザイナーズブランドの営業を代行するブルーフィールドジャパンの社長でもある。「EC強化やSNSでの発信など、ブランドとしてやれることはやっているが、売り上げは落ち込んでおり、社員もみな不安な気持ちを抱えている。有力ブランドを抱えるセールスエージェントのイーストランド島田昌彦社長らと話し、小池百合子東京都知事宛てに陳情のメールを送るといった活動を始めた。今後、業界内で署名も集めて動きを広げていきたい」という。
青田社長は、コロナショックに由来する倒産企業件数のうち、ファッション関連小売りの占める割合の大きさを指摘する。帝国データバンクが発表した2月から4月末までのコロナ関連倒産企業数109件を業種別内訳で見ると、1位が旅館・ホテルで27件、2位が飲食店で11件、3位がアパレル・雑貨小売りで9件だ。このようにコロナショックの影響が色濃い業界の一つであるのに、補償の話になるとファッション小売業はどこか蚊帳の外だと感じている。「観光業や飲食業への打撃が大きいことは理解している。両業種にはコロナ収束後の需要喚起を目指した経産省の補正予算なども組まれているが、おしゃれをして旅行をし、おいしいものを食べるというのは需要として3つで1つともいえるもの。一般的な家賃相場で言っても飲食業よりファッション小売りの方が賃料負担は大きく、半年後までの在庫を抱えているビジネスモデルだという点でも、ファッション小売りは厳しい」。
このまま“自主的な休業”が続くのなら、「背に腹は変えられなくなって店を開ける企業も出てくる。資金繰りのためにセールを行う店もあるだろう。そうなったら、店頭に“3密”状態が生まれてしまう」と青田社長は危惧する。こうした状況を避けるために要望として掲げているのは3つだ。1つ目は休業要請の対象業種にファッション小売りも加えること。2つ目は賃料の補助。3つ目は雇用調整助成金の上限額の引き上げ。当初は東京都への働きかけを考えていたが、今後は他地域も巻き込んでいく考えという。
待ったなしの状況ながら、もともと独立独歩の気風を好む中小企業が多い業界のためか、業界一丸となって自治体や国に働きかけていこうという動きは現状ほぼ見られない。「一匹狼を好む人が多いので、要望や不満を持っていたとしても音頭を取る人がいない。でも、取引先である地方の専門店などと話してみると、みな状況は同じで賛同すると言ってくれるので、声を上げていかなければ」。今後、署名フォームなどはウェブで公開し、賛同を募っていく。