シューズブランド「ユナイテッド ヌード(UNITED NUDE)」日本法人の青田行社長と、人気ブランドを抱えるセールスレップのイーストランド島田昌彦社長は5月11日、自民党の福田達夫、山田美樹の両衆議院議員と面会し、コロナショックによるファッション小売業への影響や、その支援策について要望を伝えた。青田社長らは8日に、ファッション小売業支援のためのオンライン署名活動をスタートしており、賛同の輪を広げている。「ファッション業界には小さくはないが大きくもないという規模感の企業が多いため、現状の支援策から漏れている」「業種を限らない経済活性化策が必要」(青田社長)などの考えを伝えた。
青田社長らは署名活動と並行し、安倍晋三首相や小池百合子東京都知事へのメールでの陳情も行っていたが、「同様のメールは恐らくあらゆる業種から山のように届いている。僕たちは会員規模の大きな業界団体などではない以上、(それだけでは埋もれてしまうと考え)もっと直接的にアプローチする術はないかと探った」。そこで、「自民党の中でも中小企業の支援活動にもともと注力されていた議員を探して、福田議員にたどりついた。また、山田議員は自民党経済産業部会長代理でもあり、議員になる前はエルメスジャポン勤務経歴もあって、業界の話を分かっていただきやすいと考えた」。
面会の場では、両議員にまずファッション小売業が置かれた現状を伝えたという。その場には、実際に政策立案に携わる経済産業省のクールジャパン政策課や生活製品課などの職員6人も同席。「他業界からの陳情は多いが、ファッション業界からはほとんど陳情はきていないという話が出た」と青田社長。それゆえ、ファッション業界特有の問題が議論の俎上に上がりづらくなっていると危惧する。たとえば、家賃補助については今国会で大きな焦点となっているが、自民党の補助案では最大で月50万円の支給。「それを批判するつもりはないが、現実問題として、われわれの業種は月坪単価8万~10万円といった物件で商売していることもある。家賃は1店でも数百万円規模となり、上限50万円の補助では厳しい」。
家賃補助だけでなく、貸付支援などに関しても同様だという。ファッションビジネスは他業種とは異なり、半年分の在庫を一気に仕入れる仕組み。それゆえ、「われわれのような規模の企業でも、一度に数億円の支払いが必要になるケースもある。しかし、今既にある貸付支援策は、最大で2億8000万円や、制度によっては上限5000万円といったことが多く、われわれのビジネスモデルや規模には合っていない。中小事業者向けの支援はわれわれよりももっと小さな企業を対象としており、それ以外だと大企業向けしかない。しかし、ファッション業界には社員5~10人前後で売上高・仕入額が共に数億円という、そのどちらにも当てはまらないような規模感の企業が非常に多い」と話す。
青田社長らが要望の軸として両議員に伝えたのは、「業種を限らない経済活性化策」だ。農業や漁業支援のための“お肉券”“お魚券”構想が大批判を浴びて頓挫したのは記憶に新しい。「活性化策がどこかの業界だけに偏り過ぎてはバランスを欠くし、根本的な消費マインドの底上げにはならない」。それよりも、消費者がファッションを楽しみたいと思えるような世の中全体のムード作りに迅速に取り組んでほしいと伝えたという。「自分たちの業界に特化した活性化策を提案しないことを(両議員も)最初は不思議に思われたようだが、われわれの商売は店が営業再開したらそれでゴールではない。再開しても恐らく当分お客さまは来ない。消費をしようというムードが醸成されて、最後にお客さまが帰ってくる。そこからスタートだ。東日本大震災後を振り返っても、『(お金を)使える人は使っていこう』という強いメッセージを国から出していただくことが必要。そうでないと、いくら家賃補助をもらってもお客さまは来ないので意味がない。少なくとも今年中にそういったムードにしないと」と主張する。
青田社長は政府や国だけでなく、同業者にも伝えたいことがある。ファッション業界の特に中小の事業者は、これまでどちらかというと群れを作らず、政治に寄っていくこともよしとしないムードがあった。「今回のように、声をあげて署名活動をすれば賛同してくださる人がいて、そうなると声が政治家にも届くんだということを業界全体が知ることが大事。『誰かがやってくれる』『国がやってくれる』『会社がつぶれたらファッション以外の業種に転職すればいいや』といった気持ちでは、変わるものも変わらない。文句を言うのではなく、自分ごととして状況を変えようとしないとダメ。企業規模の大小を問わず、ファッション業界が連帯して声を上げていくことが今は大事」と強調する。
Editor’s Voice
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