ファッション

デザイナー経験者が米西海岸で手掛けるD2Cでの日本ブランド海外進出支援 「パリ出展以外の選択肢を提供したい」

 「日本のデザイナーが海外に販路を広げる際に、パリでの展示会やショーといった手法以外の選択肢を提供したい」。そんな考えから、米サンフランシスコと東京に拠点を置くデザインエージェンシーのbtraxが、ファッションブランドのグローバル進出支援を開始した。端的に言えば、D2C(Direct to Consumerの略、ECを軸にした顧客直結型ビジネスモデル)での海外、特に米国進出支援サービスだ。ただし、「今のD2Cブランドはユーザーに寄り沿い過ぎて、どれもがシンプル、タイムレスといった方向性になってしまっている。それではエモーションを刺激できない」と、btraxで同プロジェクトを手掛ける満汐国明は話す。そうしたD2Cの課題も同時に解決するあり方を目指しているという。

 1989年生まれの満汐はバンタンデザイン研究所を卒業後、江角泰俊が手掛ける「エズミ(EZUMI)」(当時は「ヤストシ エズミ」)に立ち上げから参加。2017年からは、江角がディレクターを務めていた「コスチューム ナショナル(COSTUME NATIONAL)」でデザイナーを務めた。「当時親交があった同世代の東京のデザイナーは、海外に販路を拡大するというと『売れるか分からないがパリでチャレンジする』という考えだった。それで『すごく売れた』といった話は聞かなかったし、売れたら売れたで『売掛金が回収できるか不安だ』となる。これでは苦しいだけだと思った」と満汐。

 デザイナーとしての自身のキャリアにも行き詰まりを感じていたという。「自分の強みを作り出すために、グローバルでブランディングができる人材になりたいと考えた」。そのために「ファッション業界以外の視点を混ぜる必要がある」と、19年4月に家族が駐在していた米国へ。注目したのがD2Cのビジネスモデルだ。「D2Cは、消費者の欲望を駆り立たせて商品を買わせるという従来の手法に代わって、ユーザーのニーズを引き出し、潜在的な課題を解決していくビジネス。(D2Cが提供する価値である)“体験”について勉強したい」とリサーチをする中で、btrax率いるブランドン・ヒル(Brandon K.Hill)最高経営責任者と出会った。

 今回立ち上げた日本ブランドの海外進出支援サービスでは、マーケティングや商品企画のコンサルテーション、ECサイトの構築、物流面の整備、プロモーション、カスタマージャーニーの設計など、商品を海外で売っていくために必要なあらゆる要素を包括していくという。「海外進出に適したやり方はブランドごとに異なるはず。ショールームに参加してバイヤーに見てもらうという、1つの形式だけをブランドに押し付けたくない」。

 btraxには満汐ともう一人ファッション畑出身者がいることで、ファッションならではの感覚や、生産面などの実情も加味した提案ができることが強みだ。「米国市場はやはり日本とはライフスタイルや趣味嗜好が異なる。潜んでいるユーザーニーズを調べ、プロダクトに落とし込むための商品企画の手伝いをする」。ただし、ユーザーの声に寄り過ぎることはしない。「ファッションブランドは世界観を作ることに長けている」。そうした世界観なしにユーザーの声に寄り沿い過ぎると、無味無臭な、よくあるD2Cブランドになってしまう。「D2Cがやりつくされている米国市場だからこそ、ファッションブランドが強みとする世界観が重要になる」と強調する。

 具体的に現在進行しているのは、「カポック ノット(KAPOK KNOT)」(双葉商事)という中綿アウターブランドの米国進出プロジェクトだ。同ブランドはカポックという植物の実の繊維(パンヤ)を中綿として使用し、「エシカルダウン」として打ち出している。19年末には、クラウドファンディングサイトの「マクアケ」を通して商品を販売した。20年9月から、米国に在庫を置いてECで販売する予定という。「アウターは外着だと考えられているが、室内に潜在的ニーズはないかと考え、ルームウエアとして打ち出すイベントを考えている」。もちろん、コロナショックで室内で過ごすことが増えていることも意識した企画だ。

 「老舗も若手も、もっともっと日本のブランドを世界に羽ばたかせることができると思っている」と満汐。特に、「これはどこにも負けないというアイテムがあるブランド」はbtraxのサービスで海外進出につなげやすいという。一方で、デザイナーブランドをはじめ、多くのファッションブランドはそのようなアイテム特化型ではなく、スタイリング全体の“面”で訴求している。「海外でも最初から“面”で見せようとするとコストもかかる。スタイリング訴求のブランドであっても、たとえばバッグなど、アイコニックな商品を持っているなら、まずはそれを出していく」。そんなふうに、ブランドごとに適した手法を考えていくという。

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