女性向けのエンパワーメントメディア「ブラスト(BLAST)」を運営するブラストは、生理用品ブランド「ナギ(NAGI)」を立ち上げ、5月28日に発売を開始した。
商品の第1弾は、生理中にナプキンなしで使用できる吸水性のあるサニタリーショーツ。クロッチ部分が防水や防臭、吸収、速乾の機能を持つ生地の4層構造になっており、スタンダードタイプでナプキンの約3枚分(30mL)の吸水性能を持つ。使用後はぬるま湯に浸し、洗濯機で洗って繰り返し使用することが可能。デザインはスタンダード、スリム、フルの3型で、素材の調達から生産まで日本国内で完結したメード・イン・ジャパン。価格は5250〜5800円で、「ナギ」の公式オンラインサイトで販売する。
商品開発では150人の女性の声を聞き、1年半以上をかけたという石井リナCEO(最高経営責任者)に、生理用品ブランドを立ち上げた理由や開発秘話を聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):生理用品ブランド「ナギ」を立ち上げるに至った経緯は?
石井リナ・ブラストCEO(以下、石井):2016年にブラストを立ち上げたのは、フェミニズムやダイバーシティーのムーブメントが起こっている海外と日本国内とのギャップを感じたことや、各国における男女格差を測る「ジェンダーギャップ指数」で日本が先進国の中で最下位という結果にショックを受けたことがきっかけでした。女性たちに制約があり、バイアスがかかっている日本の現状を知ってもらいたいという思いとともに、女性たちをエンパーワメントし、解放するために会社を設立したんです。メディアからスタートさせましたが、立ち上げ時からメディアとプロダクト、コミュニティーの3軸にしていきたいという考えがあり、ライフスタイルに寄り添ったサポートができるプロダクトを作りたいと思っていました。その中で、女性にとってすごく身近だけれど、まだポジティブな印象がない生理用品から取り組むことにしました。「ナギ」の名前は日本語の“凪”が由来で、「いつでも女性たちが凪のように穏やかに過ごせますように」という思いを込めています。
WWD:商品の第1弾に吸水ショーツを選んだ理由は?
石井:生理用品にはいくつかカテゴリーがありますが、日本でメジャーなのは紙ナプキンとかタンポンです。アンケートをとってみると7〜8割くらいの人が紙ナプキンを使っている状況で、タンポンや布ナプキン、月経カップはマイナーだということが分かりました。日本の女性はタンポンを使ったこともない人たちもわりと多く、膣の中に入れるタイプの生理用品は、日本の女性が億劫に感じてしまうものだということに気づきました。そこでプロダクトに選択肢を広げたいという考えや、私自身も使ってみて快適だったこともあり、吸水ショーツを作ることに決めました。
“自分の体をコントロールすることは、自分の人生をコントロールすること“
WWD:商品作りはどのように進めたのか?
石井:一度「ブラスト」のメディアはコンテンツの更新をストップし、「ナギ」の開発に資金やリソースを集中させました。OEM(相手先ブランド製造)と組んで試行錯誤しながら作っていったのですが、私はずっと広告代理店やオンラインメディアで仕事をしてきたので、商品作りがこんなに時間がかかるということに驚きの連続でした。トライアンドエラーの時間はもちろん、染色に1カ月、サンプル作りに1カ月ということに「え、もっと巻けないんですか」と思ってしまうこともありました(笑)。一方で企画については、「ブラスト」をコミュニティー化していたので、一部読者の方たちに「ナギ」のサポーターとして、事前のモニターやアンケートに協力してもらいながら、声を拾っていきました。
WWD:商品のポイントは?
石井:「ナギ」のショーツは、吸水部分が消臭機能や制菌効果(菌を減らす効果)のある機能素材の4層構造でできています。私も海外の吸水ショーツをいくつか使用しましたが、吸収するのが遅かったり、消臭性、防臭力が弱かったりと感じることがあり、その点をアップデートしました。また、クロッチ部分をダムのような構造にすることで、端から伝え漏れしないように工夫。日本の機能素材を使い、国内の高い技術を持つ縫製工場で一つ一つ手で縫製しているという部分でも、高いクオリティーのプロダクトにできたと自負しています。
WWD:デザインへのこだわりは?
石井:私たちは“女性をエンパワーする”という思いで立ち上がった会社で、「自分の体をコントロールすることは、自分の人生をコントロールすること」という考えを持っています。そういう意味でも女性が主体性を持つきっかけになるようなデザインにしたいと思いました。従来の生理ショーツは、血の色が目立たないように黒やネイビーが多いと思いますが、黒だけではない明るい色も入れたかったのでブルーとパープルとオレンジの3色を用意しています。また、レースがあった方がいいのかなどアイデアもあったのですが、アンケートでは「生理用のショーツはシンプルなものが使いやすい」という声が多く挙がったので、今のデザインに着地しました。
WWD:販売方法はどのように考えている?
石井:自社ECとSNSをメインに考えていますが、バズワードになっているD2Cにハマろうというわけではないです。私たちと親和性があるセレクトショップやショップがあれば、卸で販売する可能性もあると思います。本当は、発売に合わせてポップアップショップを開きたいという考えもあったのですが、新型コロナウイルスの影響もあり、オンラインだけでのスタートになりました。
“社会の構造に目を向けるきっかけに”
WWD:日本でも複数の吸水ショーツブランドが出てきて、フェムテックの分野が盛り上がっていきそうです。
石井:「ナギ」はフェムテックが盛り上がっているから始めたということではなく、女性にとって選択肢の少ないカテゴリーに、選択肢を増やしていきたいという思いからスタートさせています。今、フェムテックが盛り上がっている理由は、女性たちの可処分所得の増加や、女性起業家、女性VCの増加、「#MeToo」などのフェミニズムのムーブメントがあると思います。今後、日本でももっと盛り上がっていくと思うし、いちユーザーとしても盛り上がって欲しいですね。私の周りの女性起業家たちも出産ラッシュだったりして、その人たちが「これが足りていない」と思うようなことを商品や形にしていくことがあると思いますし、私もそういうステージになったら思うことが増えていきそうなので、そういった課題や問題には取り組んでいきたいと思っています。
WWD:「ナギ」の商品を通してどのようなメッセージを伝えたい?
石井:もっと体を自分たちでコントロールすることに積極的になってもいいと思います。これまで生理用品は化粧品とは全く異なり、ワクワクして買うものではなく手に取りやすいところにあったから買うような感じがあると思います。でも、欧米の生理用品のスタートアップのデザインはすごいオシャレなものになっていたり、商品自体にも多様性がある。お客さまに「ナギ」を気に入っていただけるのはとてもうれしいことなんですが、例えば「ピル飲んでみようかな」とか、「アフターピルがドラッグストアで購入できないのは日本のジェンダーキャップのせいなのかな?」など、社会の構造に疑問を持つきっかけになったり、何か行動を起こすきっかけになるようなブランドにしていけたらうれしいです。
WWD:女性の間でも生理についてオープンに話すことに賛否両論があるが、石井さんはどう考えている?
石井:「ブラスト」の読者の方々に会ったとき、生理の話で盛り上がって「私はこうしてる」「日本にはこれが足りない」というような議論をしました。私自身は生理がかなり重く、冷や汗をかいたり、気を失って倒れてしまったこともありました。現在は低用量ピルを使い続けて、経血量もかなり減っているので、生理の時は「ナギ」1枚で過ごすことができます。周りにも「自分には何が合っているんだろう?」と情報を探して、ピルやコイルなど生理用品や避妊具を使うことで生活が楽になったという人も多くいます。なので、そのような情報交換したい人はもちろんいるだろうし、話ができる場があってもいいんじゃないかなと思っています。